シェゾ・ウィグィィのいた人生(青柳美帆子)
シェゾ・ウィグィィに出会ったのは、小学2年生のときだった。
今は「Fate」をはじめとする奈須きのこユニバースを中心にミーハー寄りにオタクをやっているものの、「これが自ジャンルだ」と言えるほどどっぷり浸かっている沼はない。
けれど、小学校から大学までは、ずっとシェゾ・ウィグィィのことを考え続けていた。
●シェゾ・ウィグィィという男
シェゾはパズルゲーム「ぷよぷよ」に登場するキャラクターだ。「ぷよぷよ」は今は亡きコンパイルが作ったゲームで(現在はセガが展開中)、元をたどればRPG「魔導物語」につながっている。
「魔導物語」は魔術師の女の子アルル・ナジャが冒険をするゲームで、シェゾは彼女が遺跡の中でぶっ飛ばす敵キャラである。
シェゾの外見は銀髪に蒼い瞳、青いバンダナ、ゲームによっては白だったり黒だったりする服を着ており、黒だったり水晶だったりするでかい剣を携えている。年齢不詳。闇の力を操る“闇の魔導師”で、人の魔導力を奪う残忍な存在だ。
しかしアルルに敗れ(ゲームによっては首だけになって執念で「ゆるさぬぞ」と襲い掛かったりもする)、彼女の力に執着するようになり、以後何度も戦いを挑んでは退けられることとなる。
言葉足らずなところがあり、「お前の力が欲しい」というところを「お前が欲しい」と言ってしまい、アルルや周囲から「変態」扱いされるのが常 。
声は井上和彦、大塚雄史郎(コンパイルの自社オーディションで選ばれた当時現役高校生)、松本保典、森田成一が担当したことがある。
「ぷよぷよ」ヒット前のコンパイルは広島のそこまで大きくないゲーム会社で、クリエイター個人個人の個性が思い切り前に出るというべきか 、いわば同人っぽい精神性があったように思う。
ディレクターによってキャラクターの性格はちょっと〜だいぶ違っており、特にシェゾは差が激しかった。敵のはずなのにアルルを身を挺して助ける2枚目風のときもあれば、マラカスを振っていたり闇のパンツ一丁だったりと3枚目風のときもあった。「ぷよぷよ」シリーズでおなじみなのは3枚目寄り。
●出会いとインターネットと
小学2年生のとき、友だちAちゃんの家でプレイした「ぷよぷよSUN」に、シェゾはいた。
当時は「変なお兄さんだな……」という印象で止まっていたが、小学校中学年くらいのときに別の友だちBちゃんの家で遊んだ「ぷよぷよ〜ん」で息が止まるほどの衝撃を受けた。
よ〜んはグラフィックが大人っぽいものに変わっており、シェゾがメチャクチャかっこよかったのである。キャラの内面としては2.8枚目くらいだったのだが、顔面でいえば超絶2枚目だった。
そして運がよかったのか悪かったのか、Bちゃんの家には当時周囲では珍しくインターネットにつながったデスクトップPCがあった。BちゃんはそのPCで「テニスの王子様」の氷帝夢小説を読み漁っていたのだが、ある日Bちゃんが気を使ってシェゾを扱ったサイトにアクセスしてくれた。
そこから先は早かった。 インターネットの世界で書かれたシェゾは、とにかくカッコよかった。私はBちゃんの家に行っては、一緒にテニスの王子様夢小説を読み、間をぬってネットで小説を読み漁った。
そしてここも運がよかったのか悪かったのか、我が家にもPCとインターネットがやってきた。8時間くらいぶっ通しで、リンクからリンクへ飛んでは二次創作サイトを見続けた。
当時は従量課金だったので突然万を超える請求が飛んできて、メチャクチャ怒られた記憶がある。いつのまにか我が家のネットはケーブルテレビ系の定額制になっており、ネットサーフィンはさらに加速した。
世の中のカッコいいシェゾを読みまくっていると、だんだん自分でも書きたくなってくる。
投稿サイトに小説を送ったり、仲良くなった二次創作サイトの管理人さんに小説を送りつけたりと(今はとても反省しています)、順調に二次創作欲を爆発させていき、ついに我慢できずに自分のサイトをオープンした。小学6年生のときだった。
●ふたりのことを考えているうちに大学生になっていた
私はシェゾとアルルの関係性が好きだった。
アルルは一人称が「ボク(ぼく)」の女の子で、ゲームによっては天真爛漫、もしくは天然、もしくはおひとよし、もしくはシニカルなサバイバーとなる。明るくてかわいくて大好きな女の子が、メチャクチャ好きな男を圧倒することで、男の闇を晴らしていく。
ちなみに私の世代は「セーラームーン」「彼氏彼女の事情」「フルーツバスケット」「神風怪盗ジャンヌ」が大ヒットを飛ばしており、「女の子が男を守る(救う)」というひとつの型がインストールされていた。これが自分のカップリング観に影響を及ぼしていないはずがない。
ふたりが恋愛関係になる話、ならない話、なる直前の話、なったことで崩壊する話、なったことで世界が終わる話、なったことでどちらかが死ぬ話、両方が死ぬ話、恋愛と執着の区別がつかなくなる話、ちょっとエッチな話、だいぶエッチな話、とにかくふたりの話を書きまくった。300本くらいのWeb小説を掲載し、十何冊かの同人誌を出した。
もちろん読み手としてもどっぷりはまっていた。大好きな管理人さんたちの小説を文字通り全て読み、更新を心待ちにし、更新がなければ日記も読みつくした。
感想メールも掲示板での感想書き込みもしまくった。当時はTwitterがあったらマジで一日中管理人さんたちの呟きや反応を待ってシュッ……ポッ(Twitterのリフレッシュ音)していただろう。
中には仲良くなる管理人さんもいて、実際に遊びに行ったりすることもあった。今でもTwitterでつながっている人もいる。
●オタク道の入り口がぷよ魔導であるということ
余談だが、「女性向け」とまとめられる、女性の作り手と読者が多いジャンルでは、BLカップリングが数の上では多数派になることが多い。
しかしぷよ魔導は、もちろんBLカップリングに萌える人たちはいたものの、数としてはアルルを中心とした男女カップリングの書き手や読者が多かった。私が活動していたシェゾ×アルルは、サタン×アルルと並んで2大巨頭であった。
ものすごくざっくり分けると自分が“男女カップリング畑出身”であることは、自分のオタク観に大きな影響を与えている。
男女カップリング、つまりヘテロな恋愛は、世の中では“メジャー”だが、女性向け二次創作カルチャーの中では“マイナー”寄りに位置する。
ただ、ぷよ魔導ジャンルにおいては、女性向け二次創作ジャンルでは“マイナー”なはずの男女カプが“メジャー”だった。
そういうちょっとねじれた(ように私は感じる)ところから入門したことは、オタクカルチャーについて考えるときに「ちょっと待てよ」と立ち止まるきっかけになっている。
オタク女たちの楽しい話を聞くのが好きだ。今回の企画の発起人と知り合ったのも「宝塚にドハマリしているオタク女がいるんだけど」と紹介してもらったのがきっかけ。オタク女の話を聞くのが楽しいのは、 「自分とどう違うのか」が鮮明で新鮮だからだと思う。
ちなみに、大学生まで燃やし続けていたふたりの関係性への執着は、進路が決まったあたりでいったん落ち着いた。進路の決定にもシェゾが噛んでいる。大学生のころ、「魔導物語」を生み出したゲームデザイナーの米光一成さんの編集ライター養成講座に通うことにしたのをきっかけに、フリーライターへの道に進むことになった。今も編集・ライターの仕事をやっている。
仕事で文章を書くことが増えた結果、二次創作に向ける体力というか筋力は明らかに低くなってしまった。
でも、シェゾは今でも私にとって最高の男だし、アルルは最強の女の子だ。
なお2020年4月現在、「FF7」リメイク版をプレイしている。クラウドくんを操作しながらこまごまとしたおつかいクエストをこなし、クラウドの“へ”の形をしたお口から「ええ……」「あ、ああ」みたいな声が漏れるたびにキュンキュンしている。
たぶん小学生のときに植え付けられた「シェゾ的なものに萌えてしまう」というスイッチが、29歳になってもグリグリ押されているのだと思う。
【今回の「偏愛」を語ってくれた人】 青柳美帆子 twitter note
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