見出し画像

エビデンス(証拠)はないけど効果がある?

「〇〇飲んだら〜に効きました。」エビデンス(証拠)はないけど効果がある?

巷でよく聞かれる文言です。医学常識から外れた主張もあったりして、なんで効くのだろうか?と疑問を持つこともあります。胡散臭さを感じながらも、長年治療を受けても変わらなかった症状が、ある事象を境に無くなれば、効いたと思うのは人的には自然な解釈です。

 近年最も衝撃的だったのは、某クリニックが抗加齢学会で報告した重症糖尿病症例。 インスリン100単位越えでもコントロール不良で四肢の神経症状から壊死に至っている患者さん。5デアザフラビンを一回投与するだけで、インスリンを投与する必要がなくなったという話…。この話には真偽も含めて色々な意見が飛び交っているようですが、現在の常識を凌駕する事実で、効いたのであれば、その理由も大切ですし、その効果は他の人にも当てはまるのか………たぶんこの話を聞いた一般の方々は、自身の糖尿病の状態になぞらえて期待と夢を抱くはずです……しかし、ここからが大変で、事象の効果を証明しエビデンスを見出すために、多くの実験的、疫学的アプローチが必要になります。需要が見込まれ多くの利益が得られる新薬にはエビデンスの獲得のために多額の投資もなされますが、そうでなければ,なかなか得ることが困難なのがEBM(Evidence based Medicine)です。

 ビタミンの一種である5デアザフラビンで,100単位のインスリンが必要なくなりインスリン分泌まで改善したというのなら、インスリン分泌能が枯渇していたわけでなく、なんらかの理由でインスリン分泌が止まっていたものが、いわばきつく閉まっていた水道栓が開くかのように、改善したということになるのでしょうか。

 現在の糖尿病はインスリン分泌不全やインスリン抵抗性の亢進等インスリンの機能不全が主要因とされ、数々の薬剤が開発され血糖を下げるのが治療の目標とされていますが、もっと上流に血糖を高値にする要因があり糖尿病が重症化して見せているような気がしますし、糖尿病の起源に議論が及んでも良い話のように思われます。ミトコンドリア活性を高める能力が極めて高い物質であることからも糖尿病にはミトコンドリアの機能不全が関わっていることが推察されます。まだ状況証拠の一つが開示された状況で、他の改善例のデータも見てみたい気がします。

 健康診断も各個人の健康に寄与しているというのであれば、EBMが必要です。スクリーニングとして行われている各検査項目についても、疾病予防に関して明確なエビデンスがあるかといえばどうもはっきりしないものがほとんどのような気がします。悪くなっている方(病気)を見つけて治すことがスクリーニングと考えるなら、厳密に言えば予防ではありません。ましてや健康長寿のEBMとなればなおさらです。スクリーニングで病気を見つけてすべて治療したとして、その先に健康長寿があるのか……?  実際は健診でさして異常も指摘されなかった方々の中で淘汰が起こり、健康長寿につながる方々が「結果的にその中にいる」というのが現実のような気がします。

パターンプロセス理論は、健診集団における事実と法則性を基に考察しており、実験的疫学的に証明された証拠はありませんが、パターンプロセスを念頭に保健介入を図れば、受診者の行動変容の実施率が格段に上がる(保健指導が効果的になる)ことが経験的に実感できると思います。

冒頭の書き出しの「証拠はないけど効果がある」…になんだか似ていますね。

パターンプロセスの背後に存在するものは一体なんなんでしょう? 

パターンプロセスはもともと6項目の異常パターン64群の散布図で、16の基本パターンに、高血圧が生じ次に耐糖能の生じるプロセスと、高血圧を経ず耐糖能異常の生じる2系列のプロセスで構成されています。耐糖能異常が生じ進展する経過を、肥満度と年齢の関係から見た図と考えることもできます。各々のパターン間で糖尿病としての重症化率、進展速度に違いがあり、生活習慣の改善による反応性にも違いがあります。

私自身、個人のデータをパターンプロセス上で位置を特定し、指導することに楽しさを感じつつ、その効果について実証を重ねて来ました。より生活習慣の改善効果のある方々にアプローチしハイリスク化そのものを予防し一次予防につなげてゆく考え方だと思っています。

生活習慣型(GPT γGTP 中性脂肪)の異常の出現は、インスリン抵抗性の亢進状態や体内の酸化亢進状態を反映しているらしいことは、今までの記事でも述べてきましたが、パターンプロセスの強い法則性の背景に個人のミトコンドリア活性が深く関わっているのではないかと考えています。生活習慣の影響度や体重変動の質の違いが、基本パターンの違いを生み素因型項目の進展重症化の鍵を握っていると考えるならば、生活習慣の改善による基本パターンの改善がミトコンドリアの機能維持、改善に有用であり生活習慣病対策の本質とみなされます。

もともと生活習慣の改善を顧みず、インスリン抵抗性が極度に亢進し(インスリンに対する反応性が低下し)重症化した糖尿病に、血糖を下げれば良いとばかり効果のないインスリンを100単位以上まで増量していった……ここまでの経過に根本的な問題があり、こういった状況に陥らないようにするのが予防ではないでしょうか? 

ミトコンドリア活性を高める5デアザフラビンが効いたという事実からは、長年の不摂生で悪化した健康状態はミトコンドリア活性の極度に低下した状態で、裏を返せば本来生活習慣の改善で良くなるはずのもので、もっと早期であれば予防できるものあることも示唆しているように感じます。

重症化した糖尿病を健診で見つけ、受診勧奨して「糖尿病重症化予防」といっている向きがありますが、軽症のうちから注意を喚起して重症化させないことが大切であり、将来を見える化して、行動変容の糧にすることがパターンプロセス理論の正しい利用法です。

ところで、そろそろ生活習慣病の「生活習慣」に対して抱く皆さんの印象が変化して来ていませんか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?