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微苦笑問題の哲学漫才16:マルクス編(後編)

 微苦:ども、微苦笑問題です。
 苦:約束通り、帰ってきました。マルクス編の後半です。
 微:オマエはボケているだけで、何の準備もしてないくせに偉そうに言うんじゃねえよ!! 
 苦:遅滞なく進められるよう準備を加速させてください。
 微:カトーの他人事会見かよ!! こっちは唯物史観のおさらいと新規読み込みでヒーヒー言ってるだぞ、まったく。さて、約束の唯物史観ですが、史的唯物論とも呼ばれます。
 苦:物質主義と訳すバカが毎年出るんだよな。「仏像こそわが命」みたいなマニアのことなのに。
 微:オマエの方がバカだよ! どちらも"historical materialism"の訳語なんですが、ただ、唯物史観の語を使う場合には、鉄の法則とも呼ばれた「世界史の基本法則」を指す、それに基づくことを含意しているように私には思えます。
 苦:気のせいだろ?
 微:人のことが言える立場かよ!! マルクスは、人間社会にも自然と同様に客観的な法則が存在しており、無階級社会から階級社会へ、階級社会から無階級社会へと、生産力の発展に照応して生産関係が移行していくと考えました。
 苦:振り出しに戻ってるじゃねえか。
 微:螺旋的上昇です。原始共産制から共産主義社会への移行は私有財産制の否定では一致してますが、後者の方が遙かに文明的で生産力も高い。『猿の惑星』じゃないんです。
 苦:要は、予想や期待の斜め上には行かないと。
 微:それはキミのボケです。察しがつくと思いますが、マルクスはヘーゲル左派からスタートし、フォイエルバッハやフランス唯物論者たちから唯物論を継承してその思想・哲学を形成したからです。
 苦:「右手にパンチラ、左手にメカ、口でエコロジー」でのし上がった宮崎駿みたいなもんだな。
 微:よく言った!! ヘーゲル哲学の弁証法を継承しているので、一種の進歩史観です。つまり人類の歴史は進歩の歴史であるという歴史発展観に、生産力の発展を組み込みました。
 苦:バカ脅しに使われる「今の仕事の90%はAIに奪われる」くらい何もしない人間を養えると。
 微:徴兵告諭の名言「無為坐食の徒」ですか。マルクスは『経済学批判』の序言で唯物史観を定式化し、これを自らの「導きの糸」と呼んでいます。以下に引用する通りです。

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 苦:・・・すまん、解説してくれ。
 微:人間、謙虚さが大事です。『新ライン新聞』の主筆をしていた頃から、マルクスは人間の作り出したシステムや生産諸関係が人間の手を離れ、逆に人間を敵対的に抑圧する状態、すなわち疎外が発生することを指摘しました。
 苦:そうなんです、いつもこいつがボクの邪魔ばかりするんで困ってるんです。
 微:それは「阻害」!! 相変わらず文字化しないとわからないことばかり言うんじゃねえよ!! 疎外の形態は色々ですが、購買・交換手段である貨幣が逆に人間を支配し追い詰める疎外が典型ですか。
 苦:カード破産だな。
 微:それは単なる無計画な出費というか浪費の結果です。また働く者から生き甲斐、尊厳、社会的承認という喜びが労働から失われるという疎外もあります。
 苦:パソナと東電が量産化に成功したな。
 微:工場で人間と機械の地位が逆転し、『モダン・タイムズ』のように人間がまるで歯車の一部のように扱われる疎外など、時代の発展とともに人間生活の中でさまざまな疎外が発生していました。
 苦:キミは学校で生徒・同僚に疎外されているな。
 微:うるせえ!! 一言で言うと、人間疎外とは人間が人間らしさを失っていく、人間の顔を失っていくことです。それが最も先鋭な形で現れていたのが19世紀イギリスの労働者の状態だったのです。
 苦:それじゃあ、クリミア戦争でも南アフリカ戦争でも役に立たないよな。
 微:19世紀末の文学者にしてイギリス首相も務めたディズレーリが「イギリスは二つの国民から成っている」と書いた時、それはジェントルマンと庶民=労働者のことでした。
 苦:えっ、支配者アングロ・サクソンとこき使われるケルト系のことじゃないの?
 微:両者は財産や知識だけでなく発音も体格も別の人種といっていいくらい違っていたのです。
 苦:大きい声では言えないけど、学力的に低い高校ほど男子はひょろひょろで、女子はぷっくらしているのと同じだな。学業から疎外されたのか、自ら選んで逃亡したのかは知らないけど。
 微:確かに、国立大附属の学校とさびれた地方や下町の学校の生徒を集団として比べると、本当に違います。ゆとり教育以後、苅谷剛彦氏の『階層化日本と教育危機』を見てもよくわかります。
 苦:シリトーの『長距離ランナーは気の毒』だな。
 微:「孤独」です!! 学校的価値からドロップアウトすることに自己肯定感情を抱く生徒の増加。さらにその子どもはそうなるでしょう。自給自足ならぬ「時給自足」する層が年々厚くなっていますね。
 苦:オマエこそ文字化しないとわからないこと言うんじゃねえよ!! 
 微:どうもすみません。話を戻しますと、マルクスは、資本主義的生産様式、搾取、剰余価値、過剰生産、物神崇拝などについて分析し、当時の資本の論理を厳密に考察しました。
 苦:21世紀日本は「中抜き資本主義」まで高度化しちゃったな。
 微:資本主義の上部構造たる国家はブルジョワ国家である以上、ブルジョワの権力維持・強化装置でしかありません。人材派遣が政権に食い込み、アメリカのポチとなれば必然です。
 苦:国家が上級国民の維持機構で、特殊利害を代弁していることは東アジアではよくわかるな。
 微:そして資本主義が19世紀末に独占資本主義の段階に入り、価格機構が機能不全に陥ったことは1873年の大不況で証明されました。
 苦:責任の大半はアメリカとドイツにあるけどな。
 微:この独占という内在する矛盾から必然的に労働者=プロレタリアによる社会主義革命が起こり、次の段階である共産主義に移行し、疎外から人間は解放されると考えたのです。
 微:しかも、その移行は歴史的に必然的なものであり、鉄の法則というか「世界史の基本法則」だと。それを単純化した図式にすると、こうなります。

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 苦:勉強しなかったら成績が下がるのと同じくらい必然的だと。
 微:社会主義さらには共産主義への移行が人類史的必然であることを主張するには、人類史的時間幅で根拠を示さなければなりませんから。まあ、未来を語れる歴史観でした。
 苦:なるほど。「でした」という過去形というか現在完了形で語るところがミソですな。
 微:注意して欲しいのは、アジア的専制国家概念も「アジア的停滞」も、小谷汪之氏のインド史研究で完膚無きまで否定されました。アジア像は西欧自身の否定的ネガだと。
 苦:今の中国見たら一発で了解できるが、でも共産党専制だからややこしい。
 微:もう一つは社会主義や共産主義が「原始時代への形を変えた回帰」、つまりかつて存在したものの復興・再生として語られていることです。つまり、「昔もできたんなら、もう一回できるか」と。
 苦:「改革」を喚いた安倍がやったことは、所詮は微調整だったもんな。確かに。
 微:このように超長期の助走路を確保し、プロレタリア革命による社会主義へのジャンプを描いたのです。これに社会主義革命へのプロセスも含めて定式化すると、こうなります。

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 苦:「よい子の史的唯物論」だな、ありがとう。
 微:しかし、マルクスの予想に反して十分に工業生産力が発展したイギリスでもなくドイツでもなく、ロシアにおいて社会主義革命が実現しました。レーニンたちによる1917年の十一月革命です。
 苦:要するに、社会政策によって労働者でも「失う物を得た」国の社会主義は穏健路線、漸次社会改良路線、社会民主主義に行くと。
 微:イギリス労働党、ドイツ社会民主党なんか典型的ですね。逆に人命が無に等しいロシアや中国で文字通りの暴力を駆使した社会主義革命が成功しました。
 苦:失うものもないけど武装蜂起する体力が国民にない国もあるな、どことは言わないが。
 微:そして革命を守る名目から国家は存続し、共産党は永久革命論で特権階級に居座り続けました。
 苦:そしたらまだカロリーはある日本でも革命が可能になってきてるんじゃねえの?
 微:外国人から見たら「商品付き貯金箱」でしかない自動販売機や「路上貯金箱」たる無人ATMが乱立している日本じゃ不可能です。バイト学生でも過労死したり、命懸けでコンビニ強盗を撃退しているようでは、可能性は0%ですね。
 苦:確かに、日本人も、与党も、ケバい女子高生も、努力の方向性が間違っているな。

作者の補足と言い訳
 前回で交換の話を補足したので、発想の根底にあるものについて書きます。やはり、ヘーゲル哲学の根底にはキリスト教的(ヘブライ的)終末論というか、「歴史には終点がある」という発想があります。地上において、つまり世俗化した形で「千年王国」のヴィジョンを示し、それを実現しようとしたものが「能力に応じて働き、必要に応じて受け取り」「働くことそのものが喜びである」共産主義社会でしょう。しかし、実現した共産主義は「自称」共産主義でしかなく、国家も消滅せず、前衛党たる共産党は消滅するどころか、特権階級となった/なっているわけです。
 他のところで書いたネタを使い回ししますと、かわいいように見えながら、共産主義社会を描いた恐ろしいアニメがアンパンマンです。国家はありませんし、登場人物も嬉々として自分の仕事に励んでいます。ちなみにアンパンマン=トロツキー(赤軍)、ジャムおじさん=レーニン、バタコさん=ローザ・ルクセンブルク、ショクパンマン=毛沢東(食パン配達は中国の人民公社)、カレーパンマン=ブトロス・チトー(カルスト台地という荒れ野でソ連の言うことも無視して勝手にやっている)、メロンパンナ=カストロ議長、ロールパンナ=エジプトのナセル(米ソを手玉に取るような二つの心を持ち、第三世界の指導者でもある)、バイキンマン=アメリカ(メカを使って悪事を働く)、ドキンちゃん=イギリス(中国に相当するショクパンマン様に熱い気持ちを抱く)、名犬チーズ=ホー・チ・ミン(裸一貫でアメリカに相当するバイキンマンを撃退する)、原作者やなせたかし氏=マルクスというように、ドンピシャで嵌ります。主題歌の歌詞もこの文脈で読み解くと味わい深いものがあります。

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