食べもねんたる11
富豪は思いついた。
あの、週刊誌とかに載ってる『パワーストーン買ったら運が向いてきた』を表す一万円札と美女たちで出来たプールを北島康介が泳いで、
「チョー気持ちいい」
って言ってたらむっちゃ面白くない?って。
そして実行に移すため、富豪は配下として抱える闇の組織を動かすことにした。
富豪ってやつは大体、闇の組織を抱えている。覚えとけ!
8人くらい座れそうな座椅子にもたれる富豪の前に3人の黒づくめが立ち並ぶ。
蛇足だが、この黒づくめは漫画的表現の黒さであり、別に業務用ゴミ袋を被っている訳ではない。松崎しげる様リスペクトな訳でもない。
さらに蛇足だが、富豪はブランデーグラスを持っている。
当然、膝に乗せた毛足の長い猫も撫でている。
「お呼びですか?富豪」
「ああ・・・・・・」
富豪て呼ぶなよ名前あるよ、傷ついちゃうよを隠しながら富豪は答える。
「一つ、仕事を頼みたくてな」
「喜んで」
影の一つが進み出る。顎から下くらいは見えるようになった。車田正美の常とう手段だ。
「伺いましょう。我々に出来ないことは、フッ、ない」
「ふふ。頼もしい」
富豪はブランデーで軽く口を潤し、厳かに告げる。
ちなみに文節の中に「フッ」を挟むのも車田正美の常とう手段だ。
闇の組織たるもの車田正美に傾倒しているのかもしれない。その辺はちゃんと調べてない。
「北島康介を拉致してくれ」
「ほう、日本の英雄。金メダリストをですか?どうやら深い理由がお有りのようで」
深い理由など全くなかったので富豪は少し躊躇した。でも何も浮かばないからありのままに思い付きを伝える。
影がしばらく黙っていたので富豪は居心地悪いことこの上なかったが、思いがけず快諾が得られた。
「むっちゃ面白いですね」
「むっちゃ面白だろ!」
「スッパーン、絵が浮かびました。現実はもっと愉快に違いない」
「やってくれるか」
機嫌を良くした富豪は満面の笑みでブランデーを呷る。
と。富豪が威厳を無くしている間に、影からさらに思いがけない提案があった。
「でも、大金のプールといえば、やはりルパンですよね」
「ん、あ・・・・・・ああ。『ふぅ~じこちゃぁ~ん』て言いながら飛び込むシーン、割と見るね。アニメでね」
「ならば、せっかくだからついでに拉致るべきでしょう。小栗旬も。なんならついでに実写版メンバー全員」
「ついでで?ついでの方が随分でかくない?」
「大丈夫。私には、こいつがある」
ついに歩み出て影が全身を現した。右肩に抱えた地引網をバンと叩く。
投網があるからいっぱい捕まえられるとか安直過ぎるだろ。
だがまあ、今までもいろいろ頼んでちゃんと仕事こなしてくれたし?富豪はツッコミたい気持ちをぐっと堪える。
「なるほど、そいつは面白い。だが、それだけじゃ片手落ちだな」
「なに?」
背後から声がし、地引網が振り返る。影の黒さがちょっと薄くなってる奴がいる。どうやらそいつの仕業らしい。
♪お~とこには~自分の~世界が~ ある
その影は何故か歌いながら前に出てきて、地引網の隣で止まった。
「これは、アニメ『ルパン3世』のテーマ!?」
「そう。ご本人が歌いながら小栗旬の後ろから現れる」
「モノマネ歌合戦のノリか!」
「しかも大金の下から生えてくる」
「演歌歌手の演出じゃん!」
「おまけに『男前豆腐』片手に持ってる」
「自分の世界、せっま!!」
どうだ、とばかり2人目の影がにやりと笑った。やっぱり顎あたりまで見えるようになってる。
「え?なんの話?」となってる富豪をよそに地引網は感慨深そうに顎をさする。
「なるほど・・・・・・、そいつは面白い。面白いが、ご本人はアニメの中だ」
「なぁに。もう一人実写がいるだろう・・・・・・宝塚歌劇団に」
「!! ミュージカル『ルパン3世』か!」
「ああ、ついでだ。ミュージカルメンバー、全員拉致ろう」
2人目の影が全身を現した。右肩に抱えたショベルカーをバンと叩く。
だからなんで物理的に捕まえる量の多さに頼るんだよ。
富豪はいよいよ不安になってきてブランデーグラスをかたかた震わす。
波打った中身がこぼれて毛足の長い猫がびっしゃびしゃになる。縮こまってものすごい貧相な姿になる。
「じゃあそれだったらさ。それだったらさ」
ここでさらに後ろから声が聞こえる。
「エバラ キムチの素のCMメンバーが『男前豆腐』にキムチ乗せてキムチ豆腐にして、
『チョーキムチいー!』つったらおもしろくねっ?」
「・・・・・・えー・・・・・・」
「それは・・・・・・ないわぁ」
前の影2人ががっかりした声をあげた。
「いいよ!じゃあ俺一人でやるよ!」
「「どーぞどーぞ」」
最後の1人は『キムチ倶楽部』改め『ダチョウ倶楽部』の上島竜兵氏だった。
右肩と言わず、両肩まですっぽり業務用ゴミ袋被せられてお約束のギャグに乗ってご退場の運びとなった。
作品での扱いはさておき、7年前には想像も付かなかった現状を踏まえ深く哀悼の意を表して幕を閉じる。