その店の名前はびくとりいラーメンと読む。 漢字にすると魚籠开ラーメンと書く。 ご覧のようにこのラーメン屋は絶望的にネーミングセンスがない。 开も『とりい』の記号じゃなくてうっすら間違ってる辺りチェックも甘い。 これでは『びくひらく』ラーメンであり、単に釣果を確認する釣り人のおっさんではないか。 この尖ったセンスのなさは実際のラーメン作りにも発揮される。 びくとりいラーメンのスープは里芋から取っている。 魚じゃないんかい、せめて鳥であってくれよ。とりいだけに
ファッキュー市の中腹にその会社はある。 子供嫌い製菓――社員のほとんどを子供嫌いで構成するどうかしてるお菓子メーカーだ。 彼らは日夜「いやに子供に苦虫を嚙み潰したような顔をさせるか」をコンセプトにお菓子開発に勤しんでいる。 本当にどうかしている。早々に転職を申し出た方がいい。 それはそうと、今日も新しい会議が始まるようだ。ちょっと覗いてみようか。 「今回の議題は『当たっても子供が渋い顔をする当たりつきアイス』ということで」 議長がいっちょまえに電子化されたホワイ
そんなこんなでアメリカはめっちゃ怒っていた。 アングリっていると言ってもいい(言わなくてもいい)(そこはいい) 鳴り物入りで『全米が泣いた』映画が日本で全然当たらなかったからである。 なんなら同じ時期に上映された『森脇健児をコマ送りで見る』の方が売れた勢いだった。 「おい、俺たちがアメリカを上げて泣いた言うてるのにお前ら無視てどういう了見よ?お?お?」 大統領はオカンムリだ。 もう一回足しておくか、アングリってると言ってもいい(やっぱこれはいいや) これは
大食いブームなんてとうに去り、見向きもされなくなった昨今。 時代に背くようにひたすら中華丼を食べる男がいた。 何人前だろうが、どんなに激アツだろうが、瞬く間にぺろりとたいらげる。 町中のあらゆる店で中華丼ぺろりは見受けられ、なんならコンビニの中華丼片手に街頭でもペロリズムは発揮された。 ペロリズムのテロリズム展開が進むにつれ、世間様で「おいこれやべーぞ」と評判を呼び、動画とか上げられ、彼の存在はそれはそれは有名になっていった。 そうしていつしか彼は、誰からともなく
富豪は思いついた。 あの、週刊誌とかに載ってる『パワーストーン買ったら運が向いてきた』を表す一万円札と美女たちで出来たプールを北島康介が泳いで、 「チョー気持ちいい」 って言ってたらむっちゃ面白くない?って。 そして実行に移すため、富豪は配下として抱える闇の組織を動かすことにした。 富豪ってやつは大体、闇の組織を抱えている。覚えとけ! 8人くらい座れそうな座椅子にもたれる富豪の前に3人の黒づくめが立ち並ぶ。 蛇足だが、この黒づくめは漫画的表現の黒さであり
出かけるのが億劫でピザ頼んだら店員が思わぬ質問を振ってきた。 「生地のタイプ、パンタイプとラクリマ・クリスピータイプからお選びいただけますが?」 なんか聞こえた。いらない枕詞。 俺は『おいおい』の気持ちを込めて「え?」と聞き返した。 「生地のタイプ、パンタイプとLa'cryma クリスピータイプからお選びいただけますが?」 いやいや。 なんでちょっと発音良くなってるねん。 やむを得ず、店員との攻防戦がはじまった。 「その、ラクリマってのはなんなの?」 「
ここはファンタジー世界。 魔王が復活してからなんかいろいろ「イヤン」なことが起きており、人間みんな困っちゃっていた。 そこで勇者率いる討伐隊が選抜されるに至った。 その旅もついに終盤!彼らは魔王と対峙する!! 「フハハハハハハ!勇者よ、その胸に秘めたる属性の力とやらワシに見せてみよ」 見せてみよとウェルカムしてもらったところ悪いのだが、勇者は困っていた。 いや、胸に秘めたる属性の力とやらがない訳ではない。 旅の準備段階で、村の入り口のおじさんが気軽に目覚めさせ
故郷納税ならぬ故郷モーゼ―が導入されたので日本中の海が騒がしい。 瀬戸内海だろうが伊勢湾だろうが、パッカンパッカン割れ放題だ。 これに困ったのが瀬戸内海の海産資源の皆さんだ。 こう日に何度もパッカンパッカンやられたのではおちおち村上水軍ごっこもしてられない。 抗議はどこにしたらいいだろう、国かモーゼ本人か? 「俺でもいいけど、ヘブライ語だぜ?」 尋ねたモーゼの返事がこう。 よし、国にしよう。今のん関東弁だったけどなんかやばいから国にしよう。 国だ国だと言っ
恋に落ちたあの人にある時ばったり再会する。恋心が再燃する。 そんなことってないかい? 俺にはある。過去16回はある。 そんなあるんかい、それはありすぎだろって人は言う。でも出会いって劇的で唐突なもんだろ? そうして俺はまた出会った。 憧れのあの人に。 俺は普段、寿司屋で見習いをやっている。今日もしぶいポーズで握りを決める兄弟子を尻目に下ごしらえに余念がない。 そんな俺の目にあの日のシーンが飛び込んできた。 ガラリ、 扉が空く。扉をくぐってきたのはあ
世を忍びお天道さんを忍びて己が本心をも忍ぶ。 これぞ男の道だよ忍者道だよ。やっぱ忍者は最高だ! そう思って「真の忍者を育てるのだ!」と志抱き、忍者学校を開設したまでは良かった。 でもちょっと経営のこと考えてお上品さを出して「おしのび養成学校」と名付けたのがどうやらまずかった。 どうにもこうにもまずかった。 『おしのび』の文字が悪かった。 「ああこれは、VIPに世の中の世知辛さをほんのちょっと覗き見さしてくれる学校だな」と誤解された。 いや誤解と言うか、文字解釈的に
「号外!号外~~~~~~!!大スクープだぁ!なんとなんとの大仰天!リンゴと蜂蜜恋をしたーー!!」 おいらは勢いよく新聞をばらまく。 枯れ木に花よの大盤振る舞い。紙の吹雪が街路に咲く。 「いや、言われなくても知ってるよ。バーモントじゃん。バーモントカレーのCMじゃん」 そんな声が聞こえてくるのは100も承知、知ってるさ!! そいつを見越して、記事はバーモントカレーの空き箱に書いてるって寸法さ。印刷とかよく分からないからマーカーペンで手書きだぜ! ドッヒャー!こ
組まれた足は長く、美しく、優雅に過ぎる。 インタビューに答えるそのロックシンガーは完璧な美貌を称えていた。 美しく雄々しく、工芸品の美と野生の美を兼ね備えている。 歌唱力にも同じことが言える。天才的な技術と、信じがたい音域・音量を持つ。 パフォーマンスレベルも世界に通用する。 これだけ揃って人気が出ない訳がない。 訳はないのだけど、そうなんだけど、なんかあんまり大した人気じゃない。 その理由は、 「俺たちはさ、地球という箱舟に乗り込んだ、翼の折れたエンジ
ナ・ガイが「ちょっといいか」ということらしいので俺たちはカフェスペースで落ち合った。ナ・ガイは同期だ。 「会社を辞めようか迷っている」 開口一番、度肝を抜いてきた。 この後必要だし説明口調で驚きを表現するか。 「ちょっと落ち着けよ。どうしたってんだよ。お前は同期の、いや、会社の出世頭だ。年収は4500万を超えているし来期にはさらに出世して2億円プレイヤーになるって噂さえある。一体全体なんの不満がある?」 そうナ・ガイは同期の出世頭だ。息を吐くようにガンガン稼いで
地蔵さま方は度肝を抜かれた。 確かにここは豪雪地帯、牡丹雪に降られる我らの姿は人にはなるほど不憫に見えるのだろう。 頭上に笠をかけてくれるのはよい。 石仏の身なので寒さに震えることはないが、気遣われる気分は悪くはない。 しかしこの笠はどうだろう。 笠というにはシャンプーハットすぎないか? 「お~どうぞ、ぬくまってくだされぇ。ぬくまってくだされぇ」 爺さまは呟きながら拝みながら地蔵さまに笠を被せていく。 いや、笠ではない。明らかシャンプーハットだ。 「笠が売
「来ちゃった」 そう、来てしまった。 ペリーが来た。 チャリで来た。 漁師が「なんか波打ち際に変な奴がいるでやんす。いるんでやんすよ、ダンナァ」って騒ぐもんだから来てみたらこのザマだ。 マウンテンバイクを前に憮然としていた。 なんでチャリで来ちゃうんだよ、船で来いよ。それが売りの部分だろ。 煙モクモクさせてろよ、民衆が川柳作れないだろ。 いや、煙はモクモクさせていた。チリリン鳴る奴の隣になんかぼこっとくっついてる。 「その煙出てるのなんなの?」 「アロ