暇なら見とけ!オタクが勧める「近代アイルランド史のドラマ&映画」
今回は、「近代アイルランド史のことをもっと知りたいけど、英語の本やら論文やら読むのめんどくさい」というあなたのために、オタクがおすすめの近代アイルランド史ドラマ・映画を適当に紹介する。
①「Rebellion(リベリオン)」
オタク向け度:★★☆☆☆
一般向け度:★★☆☆☆
アイルランド独立のきっかけとなった、「イースター蜂起」にまつわる出来事を描いたドラマ。イースター蜂起100周年を記念して、2016年に放映された。
本作最大の特徴は、「女性の視点でイースター蜂起を見つめた」という点。エリザベス、フランシス、メイという3人の架空の女性を主役に据え、彼女たちがいかに蜂起で戦い、困難を乗り越えたのかを描いた…
といった感じのドラマを期待していた。
実際には、イースター蜂起とは直接関係のない不倫ドラマにかなりの時間が割かれており、「その話、イースター蜂起題材のドラマでやる必要ある?」と残念な気持ちになれる。
金をかけただけあって映像のクオリティは高いが、だらだら繰り返される恋愛話にせっかく上がったテンションも直滑降。恋愛シーンを削り、蜂起指導者と女性たちの絡みを増やせばもっと魅力的な作品になったのに…と思わずにはいられない。何かと惜しいドラマである。
「でもあたし不倫ドラマすき」…そんな予備知識のない一般層に勧められる作品かといえば、これも微妙だ。ある程度アイルランドの歴史を知っていること前提で話が進むので、予備知識なしだと展開に付いていくのは難しい。登場人物も多いため、蜂起軍の制服を着ているともう誰が誰だかわからない。名札つけてほしい。
蜂起指導者については、総じてかっこいい描き方はされていないので期待しないほうがよろしい。扱いがそこそこ良いのは、ピアース&コノリー&コリンズ(出番激少)くらいだろうか。
のちのアイルランド大統領エイモン・デ・ヴァレラの扱いは特に悪く、監督の「わたしこいつ嫌い!」という憎悪がビシバシ伝わってくる。なお、一番かわいそうなのは間違いなくクラークおじさん。
ドラマはNetflixで公開されているので、とりあえず「オラ近代アイルランドのドラマがお手軽に見てえ!」という人にはおすすめ。ちなみに、イースター蜂起後を描いた新シリーズも公開されているが、正直見る気が起きない…
②「1916 Seachtar Na Cásca」
オタク向け度:★★★★★★★★★★★★★★★★
一般向け度:★☆☆☆☆
イースター蜂起の指導者7人の人生を、一人一話、全7話で描いたドラマ。2013年制作。元々はアマプラで公開されていたシリーズだが、非常に出来がよく、オタクもニッコリな作品に仕上がっている。
筆者はピアースオタクなので、ピアース回について重点的に書かせていただこう。
このドラマの良いところは、蜂起指導者のクセをしっかりと映像で再現している点だ。例えばピアースなら、①話す時に顎が上がり気味になる、②手に落ち着きがない、③演説がなんかボヤーンとしている…などである。
ピアース役による、陰キャ特有の絡みづらい雰囲気の再現も見事だ。顔が似てるのも相まって、「世界一ピアースを演じるのが上手い人」と呼ぶにふさわしいだろう(?)
処刑シーンにもこだわりがある。処刑される際のBGMは指導者ごとに変わり、それぞれとゆかりのあるアイルランド民謡が流れる。こういった細かい点にも制作側の愛を感じるのだ。これ作った人たち絶対オタク。
1時間ドラマなのでどうしても展開は駆け足になるが、ほかの指導者の話を含め、外してはいけないポイントをしっかり押さえており、視聴後の満足感は大きい。オタクなら一度は見るべきシリーズだ。アマゾンでDVDがお安く買えるので今すぐ買え。
ちなみに、DVDは英語音声とゲール語音声を選ぶことができる。英語字幕? そんなものはない。日本語字幕? あるわけがない。ゲール語音声を選べば、ゲール語部分だけは英語字幕が表示されるので、あとは根性でリスニングしよう。英語とゲール語が同時に学べるなんてお得だなあ。
③「Trial of the century」
オタク向け度:★★★★☆
一般向け度:★☆☆☆☆
イースター蜂起の後、リーダーのパトリック・ピアースが「もしもちゃんとした裁判を受けていたら?」という内容のIFドラマ。2016年制作。
オタクなら知っていると思うが、実際のパトリック・ピアースは、イースター蜂起の後すぐに軍法会議にかけられ、家族と面会する間もなく処刑されてしまう。本ドラマは、そんなピアースを正式な裁判にかけ、蜂起の責任をビシバシ追求していこうというのだ。
裁判とはいえ、ことはイギリス側に有利に進んでいく。召喚される証人たちも、イギリスに有利な証言をするよう誘導され、ピアースに反論の機会は与えられない(とはいえ、ピアースは裁判で勝利しようとは思っていないのだが)。
登場する証人はさまざまだ。イギリス軍の士官や兵士、ダブリン市民、検死官、政治家、蜂起軍に子どもを殺された母親などなど…。
なかには有名な人物もいる。ピアースを民族主義の世界に引き込んだオーエン・マクニールや、劇作家として名高いグレゴリー夫人。共に蜂起を戦ったジェームズ・コノリーや、ジョセフ・プランケット。最後の証人として、弟のウィリー・ピアースも召喚されている。オタク垂涎の超豪華メンバーといえよう。
ピアースの人間性の描写もとても丁寧で、こういったドラマとしては珍しく、ピアースの秘めた性的指向にまで踏み込んでいる。
一見モブらしき登場人物が本当に実在していた人であったり、語られるエピソードも実際に起きたことであったり、とにかく制作陣の知識量が半端ではない。超こだわり派のオタクが紛れ込んでいるのだろう。
裁判のなかで、イギリス側はピアースの名を貶めようとあの手この手で攻めてくる。メンタルボロボロのピアースをこれでもかと見せられるドラマなので、オタクはストレスで心臓が潰れそうになるだろうが、どうか最後まで見てほしい。乗り越えた先にある弟ウィリーとの会話は、マジで涙なしには見られない。ウィリーマジ天使。
ちなみに、DVDは発売されていない。内容がオタクすぎて人気がなかったのか、発売予定もない。ネットの海に潜って根性で探しましょう。
④「Michael Collins(マイケル・コリンズ)」
オタク向け度:★★★☆☆
一般向け度:★★★★☆
アイルランド独立の英雄マイケル・コリンズの生涯を描いた映画。イギリス・アイルランド・アメリカの合作で、1996年に公開された。
コリンズといえば、アイルランドで最も人気&有名な政治家なので(多分)、アイルランド史に興味を持った人がまず見とく作品ではなかろうか。
忠実と異なる描写が多い&イースター蜂起が速攻で終了するので蜂起オタク的には不満もあるが、予備知識がなくても何となく理解できる内容に仕上がっている(多分)。とりあえず「コリンズかっけー!」となれるので、近代アイルランド史ビギナーにおすすめ。
⑤「The Wind That Shakes the Barley(麦の穂をゆらす風)」
オタク向け度:★★★★☆
一般向け度:★★★★☆
アイルランド独立戦争&内戦の悲劇を描いた映画。田舎町で暮らしていた兄弟が、アイルランド独立を夢見て武装組織「IRA」に加わり、反英テロ活動に身を投じる…というお話。2006年製作。
イギリス軍による苛烈な弾圧、内戦によって傷つく家族、引き裂かれていく兄弟の絆、内輪揉めの殺し合い…などなど、悲惨なシーンを上げたらキリがない。オタクも一般人も死ぬほど落ち込める。
個人的には鬱映画で名高いダンサー・イン・ザ・ダークより嫌だが、一度は見てほしい作品。直接的なグロ描写はないが、マイルドな拷問シーン(爪剥がし)があるので、苦手な人は注意されたし。
本当に完成するのか!? 公開予定の映画
ついでに現在製作中(らしい)映画も紹介しておこう。
「THE RISING」
アイルランドを独立へと導いた、偉大な指導者たちの英雄的な物語を描いた最初の映画となるであろう…とのこと。全3部作(!?)を予定しており、第1部ではイースター蜂起を描くらしい。頓挫する予感しかしない…。
このプロジェクトが立ち上がったのは2012年なので、おそらくイースター蜂起100周年(2016年)での公開をめざしていたと思われる。まあ、もう100周年から3年以上過ぎてしまったのだが…。
キャストは一通り決まっているようだが、製作費がまだまだ足りないらしく、公式HP(https://www.therising.ie/) で寄付を募っている。映画の公式ツイッターはまだ生きているので、いつか公開されることを信じて、お金に余裕があるマンは積極的に寄付してあげよう。
以上、おすすめ近代アイルランド史ドラマ・映画の紹介であった。いろいろ書いたがまあ気軽な気持ちで見るといいだろう。おいでよ近代アイルランド史の森。
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