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③栄光のアルスター、落陽の時…コンホヴァル王「死の物語」

アイルランド伝承「コンホヴァルの死」の素人訳。今回は、バージョンCとバージョンDを紹介しましょう。

まずはバージョンCについて。

バージョンCの内容は、バージョンBと大変よく似ています。文章もほぼそのままの部分がいくつか出てきますが、キリスト磔刑を告げる場面はよりドラマチックに描写されています。

バージョンCはつい最近まで学術的に重要視されていなかったようですが、調査により、実は中期アイルランドの編者が過去の資料をまとめ作成した、非常に重要な物語だということが分かってきました。

構成資料は古期アイルランドのものと推定されており、そのうちの一つは「現代では失われた資料」の可能性もあるそうです。ロマンですね。

誤訳指摘していただけると土下座して喜びます。

元文と解説はこちら


The Death of Conchobar
Aided Chonchobuir
コンホヴァルの死(バージョンC)
15世紀の写本Liber Flavus Fergusiorumより


1
ある時アルスターの人々は、ムルセヴネ平原で大集会を開いていました。

すると、詩を学んだ後レンスターを出たレンスター人の男、またドルイドの詩人であるBochrachが集会にやってきました。

コンホヴァルは、彼にLetha(大陸)とアルヴァの情報について尋ねました。


2
「本当に、とてつもなく大きな知らせがあります」

彼は言いました。

「東方の地で起きたことです。ユダヤ人が天と地の王を磔にしたのです。預言者たちとドルイドたちが予言した彼を」

キリストは、アダムの罪から世界中の人々を救い守るため、天国からやってきました。彼は男の存在なしに聖処女マリアから仮初の肉体を得、人類を救うため、ユダヤ人の手によって十字の木に架かったのです。

そしてイースターのころ、苦しみの3日後に彼は蘇り、我々から去っていったのでした。

アルタスは、キリストの磔刑についてコンホヴァルに伝えました。

アルタスは、ローマ王アウグストゥスの息子ティベリウスから受け賜った財宝を交換するため、コンホヴァルのもとを訪れていたのです。

当時、ローマ王の家来は広範囲に渡り旅をしていました。ですから、その場所で起こった全ての名高い物語も、世界中で等しく知られていたのです。


3
そういうわけで、キリスト磔刑の経緯がコンホヴァルに知らされました。

アルタスは、天と地を作ったのはキリストであり、彼は人類の罪を償うため、人の肉体をまとっていたのだと話しました。

彼はキリストを信じていたのです。ゆえに、アルタスはキリスト磔刑にまつわる全ての善事を語り、コンホヴァルも同じようにキリストを信じました。


4
あるいは、このようにして起こりました。

キリストが磔になった日、コンホヴァルは集会に出ていて、彼の周りにはアイルランドの貴族たちがいました。

太陽が闇に包まれ、月が血の色に染まった時、コンホヴァルはカスバズに何が起きたのかを尋ねました。

「おぬしの乳兄弟が」

彼は言いました。

「おぬしと同じ夜に産まれた彼が、十字架に架けられ、今まさに殉教された。あれらはその前兆だったのじゃ」

コンホヴァルは立ち上がり、自ら武装して言いました。

「彼は確かに我が同年の乳兄弟、すなわち私と同じ夜に産まれた方だ」

そう言うと彼は歯を食いしばり、海にたどり着くまで突撃しました。

猛襲の間、コンホヴァルはこのような歌を唄ったといいます。

「王死した後のユダヤ人は哀れなり」…


5
コンホヴァルは、もし自分がキリストの近くにいれば、キリストを磔にした者たちと戦う時、自分がどのような戦いを繰り広げることができたか、世界中の者たちが知ったであろうに、と言いました。

それから彼は、キリストの面前で戦場に馳せ参じたかの如く飛び上がりました。しかしその時、メスゲグラの脳弾が彼の頭から飛び出し、死んでしまったのです。

これが彼に関する言い伝えです。コンホヴァルは、天国へ入った最初の異教徒でした。彼の流した血が、彼自身に洗礼を与えたからです。何より彼は、キリストを信じていたのですから。

コンホヴァルの魂は地獄に連れ去られましたが、キリストが囚われの身の彼を見つけ、地獄の外に連れ出してやりました。

こうしてコンホヴァルの魂は、キリストと共に天国へ登ったのです。

おしまい。


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続けて、バージョンDを見ていきましょう。

バージョンDは大変短い物語ですが、現代では失われたバージョンの「コンホヴァルの死」を要約したものだそうです。確かに、これまでのバージョンでは登場しなかった人物たちがいたり、最後の展開が他のものとは少々違います。

ぜひ他のバージョンと読み比べて、違いを楽しんでみてください。

The Death of Conchobar
Aided Chonchobuir
コンホヴァルの死(バージョンD)
写本Stowe mns. D. 4. 2より


これより以下は、コンホヴァル・マク・ネサの、壮絶な死の記録です。

Daire Dá Báethの浅瀬で、ケト・マク・マーガハはコンホヴァルに石を、すなわちレンスター王メスゲグラの脳弾を投げつけました。

コンホヴァルの魔法使いフィンゲンは、彼の頭から石を取り出そうとするのを許可しませんでした。

職人のMunnaは、彼の頭の周りを布で覆ってやりました。

レンスターの詩人Bachrachは、コンホヴァルにキリストが磔にされたことを伝えました。

彼がコンホヴァルにそのことを話した場所は、Mag Lamraigeといいます。

コンホヴァルはそのまっさらな平原で倒れ、死んでしまったのです。

おしまい。


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