①パトリック・ピアース最愛の弟「ウィリー・ピアースの足跡」
ガバガバ歴史探求つづき。今回は、パトリック・ピアースの弟ウィリアム・ピアース、通称ウィリー・ピアースについて紹介する。
兄の影にあることを運命づけられた男
アイルランド建国の父、パトリック・ピアースの人生に最も近く寄り添い、心を通わせた人物、それが弟ウィリー・ピアースだ。
彼は偉大な芸術家になることを夢見る、内気で優しい、ごく普通の青年だった。彫刻家や俳優として活動しつつ、兄パトリックが創立した学校「聖エンダ」の運営を手伝った。
しかしある時を境に、彼はアイルランド独立運動に深く関わるようになる。最終的にはイースター蜂起に兄と共に身を投じ、34年の短い生涯を閉じるのである。
芸術家だった彼を、一体何が反乱へと駆り立てたのだろう? ウィリーの生涯に関する記録は少なく、不明瞭な部分も多いが、彼の人生を少しずつ紐解いていこう。
ピアース家の三番目の子供、ウィリー・ピアースは1881年11月15日にダブリンで誕生した。このとき姉マーガレットは3歳、兄パトリックは2歳だった。
パトリックはまだまだ両親に甘えたい盛り。両親はウィリーに構いきりになるだろうことを予想し、パトリックが拗ねないよう「ドビン」という名の木馬をプレゼントした。が、その心配は無用だった。パトリックは弟の誕生を心の底から喜んだ。
ウィリーは兄と同じく、物心ついた時には芸術を愛する少年だった。
イギリス人の父ジェームズ・ピアースは、フランス語やヘブライ語の文法書、世界地図に法律の本、シェイクスピア全集、美術、宗教、歴史、政治に関する本を所有しており、子供達は父の本を自由に読むことができた。
ウィリーは父の本を通して、芸術への興味を育んでいったようだ。
ウィリーが8つになる頃には、兄パトリックや従兄弟たちと劇を書き、俳優として舞台に立つようになった。もちろん、舞台は家のリビングだが。
シェイクスピアをパトリックとウィリーは特別好んでいたらしく、劇の一場面を二人でよく演じていたそうだ。――意外なことに、子供時代の彼らが演じた劇にアイルランドの英雄は含まれていない。
子供時代のウィリーは、ほとんどの時間を家族、とりわけ兄と過ごした。ウィリーが私立学校に通い始めると、兄弟の絆はより深まることになる。
「奇妙な英国人」…孤立し始めるピアース兄弟
1891年、9歳になったウィリーは、パトリックと共に近所のクリスチャン・ブラザーズ・スクールに通うようになった。
ウィリーとパトリックはこの学校でアイルランド語を学んだ。
勉学優秀なパトリックと違い、ウィリーは勉強が苦手だった。彼は当時の暗記中心の教育システムに適応できず、1895年に受けた予備試験では、アイルランド語以外の全ての科目でパスできなかった。
ウィリーの少々変わった性格も、たびたび生徒や教師の目の敵にされたらしい。
クリスチャン・ブラザーズ・スクールは、労働者階級の子供達が多数を占める学校だった。ピアース兄弟の父譲りのブリティッシュ・アクセントは、アイルランド訛りの子供達の中で悪目立ちしてしまった。加えてシャイで、根暗で、スポーツ嫌いな変わり者の彼らは、格好のいじめの標的になった。
同級生でさえ、ピアース兄弟はこの学校に来るべきではなかったと感じていたらしい。生徒の一人は当時の学校の様子をこう思い返している。
虐められることの多かったウィリーを、パトリックはいつしか守るようになった。パトリックはウィリーが軽んじられるのが悲しく、何より許せなかった。
生徒だけでなく、時には教師にさえ立ち向かった。ウィリーがちょっとした悪事によって処罰されそうになった際、彼は我を忘れ「暴力的な抗議活動」を行なった。パトリックは、「これによりウィリーが虐められることは二度となかった」と語ったという。
これはピアース家の秘書、デズモンド・ライアンによる著書『The Man Called Pearse(P71)』に記されていたエピソードだが、実妹のメアリーの著書『Home Life of Padraig Pearse』では、この件についてより詳しく語られている。
兄弟は同級生から距離を置き、二人だけの世界を作るようになった。
つづく
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<参考文献>
本記事を書く上で非常に参考にしたのが、この『16 Lives: Willie Pearse』だ。本書は、イースター蜂起で処刑された16人の生涯を綴ったシリーズの一作。
ウィリー・ピアース個人の伝記が書かれたのは本作が初となる。
ウィリーは情報の少なさゆえに、これまで兄の影のように扱われてきた。本書はそんなウィリーの人となりを探る大変意義深い試みを行なっているが、伝記としては批判もある。
ウィリーは自らの考えを紙にほとんど残さなかった。彼が何を考え、何を感じてきたのかはどうもハッキリしない。憶測で書かざるを得ない部分も多く、本の中では「だろう」「きっと」「おそらく」という言葉が多用されている。ウィリーの友人デズモンド・ライアンや、女優のMáire Nic Shiubhlaighの回想に頼りすぎている点も問題と言える。
参考書籍としては間違いなく優秀なものだが、憶測の多さを踏まえた上で読むべきだろう。
<参考ページ>
『16 Lives: Willie Pearse』の批評記事
https://www.irishtimes.com/culture/books/review-16-lives-willie-pearse-destined-to-stay-in-brother-s-shadow-1.2205060
https://archive.org/details/mancalledpearse00ryanuoft
表紙画像はこちらから
http://www.nli.ie/1916/exhibition/en/content/executed/williepearse/
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