オルテガの思想とバーベル戦略
最近、スペインの哲学者オルテガの思想に興味をもって、「100分de名著」ブックス オルテガ 大衆の反逆 を読みました。
今回の記事では、この本を読んでの気づきを共有します。
■医療従事者とバーベル戦略
オルテガの説明の前に、バーベル戦略について簡単に説明します。
バーベル戦略は、リスク・不確実性の研究者として有名なナシーム・ニコラス・タレブ氏が提唱している概念です。
彼が提示しているバーベル戦略の定義や具体例は、彼の書籍を参考にしていただければと思いますが、医療従事者であるぼくなりの言葉でいえば、
『医療従事者として働きながら、もう一方で自分がやらずにはいられないと思うビジネス・趣味・社会課題などに対して活動していくこと』
といえます。
ここ、勘違いされやすいところなのでもう少し説明させてください。
勘違いポイント① 副業
バーベル戦略は自分のやりたいことを本職以外でやる、つまり副業ではあるのですが、副業ならなんでもいいのではありません。
『自分がやらずにはいられないと思うビジネス・趣味・社会課題など』に対する副業をすることが、バーベル戦略といえるでしょう。
だから、本業をしながら株やせどりで稼いでます、などという方はバーベル戦略実践者ではありません(株やせどりを批判しているわけではありません)。
勘違いポイント② 医療従事者全員に推奨しているのか
ぼくがバーベル戦略を推奨する際に想定される批判は、「医療従事者をなめるな!」です。
つまり、医療従事者としての仕事に専念しろ、ということです。
これに対する反論はいくつかありますが、ここでは一つだけ挙げると、「全員に推奨しているわけではない」のです。
医療従事者の仕事が生きがいで、まさに「やらずにはいられない」営みなのであれば、どうぞ、専念なさってください。
ただ、このあとオルテガの思想に触れますが、「専門家であることの危険」は認識していただきたいと思います(詳細は後術します)。
一方で、医療従事者の仕事に生きがいを感じられない、またはやりがいはあるのだけど業務量やブルシットジョブの多さに辟易しているという方は、是非バーベル戦略を実践していただきたい。
「やらなければならない」ほどの衝動性をもつ対象がまだない場合、気になることに何でもチャレンジするのが良いでしょう。
こうした対象は、事後的にしか見つからないものですから。
■『専門家であることの危険』を気づかせてくれるオルテガの思想
先述したように、オルテガは1883年にスペインのマドリードで生まれた哲学者です。
主著は、「大衆の反逆」。時代背景的に、ナチスを始めとする全体主義への批判が彼の思想に色濃く反映されていると思います。
この本は特に働き方に関する提言を示した本ではありませんが、バーベル戦略を実践するうえでとても重要な気づきを与えてくれると思います。
それは、『専門家であることの危険』です。
まずは、重要箇所を引用します。
一言で言ってしまえば、「教養のない専門家」が世の中を悪くしている、ということです。
先ほど、ぼくは「医療従事者にはバーベル戦略の実践を推奨するけど、医療従事者に専念したい方はどうぞご自由に。ただ、専門家であることの危険は認識してね。」と言いました。
まさに、オルテガのこの指摘を踏まえての発言でした。
理学療法士であれば、「リハビリの専門家」と言えるかもしれませんし、もっと細分化して、運動器の専門家、脳血管障害の専門家、、、などと自称される方もいます。
そういった専門家に憧れる気持ちは分からなくはないですが、ぼくは専門家という言葉にそれとなく気恥ずかしさを感じます。
この気恥ずかしさはどこからくるのか。
オルテガの有名な言葉に「慢心した坊ちゃん」があります。
専門家という言葉に、根拠のない万能感や傲慢さを見出してしまう。
ぼくが感じる気恥ずかしさは、専門家という言葉に対するある種の危険信号なのだと思います。
バーベル戦略を実践することで、こうした『専門家であることの危険』を回避できるのではないか、と思います。
理学療法士であれば、バーベル戦略として異なる業種の仕事をすることで、理学療法士業界の常識的な思考を相対化することができる。
もちろん、理学療法士であれば、その専門性を高めるために自己研鑽することは大切でしょう。
ただ、「専門家」という響きにあまりにも固執してしまうことは、危険です。その危険を避けるためにも、バーベル戦略は有効である。
オルテガの思想は、医療従事者がバーベル戦略を実践する重要性を、ぼくが今まで指摘してきたのとは別の角度で説いてくれるものだと思います。