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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第34話「茶の味わい」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった…
 みんなで読もう『美味しんぼ』!あけましておめでとうの2025年第一投稿、今年もこのマガジンをよろしくお頼もうしますー


■ あらすじ

 今回の栄養素:反社は身近にいらはりますえ

 田畑さんの姪っ子・ひとみが京都の修学旅行から戻り、田畑さんに京都土産を手渡す。色んな人が私用で会社のオフィスを訪れているが、そういう時代だったんだろうね。育休中の社員が諸々の手続きがてら、お子さんと一緒に来るくらいしか私は経験したことないや。(他人の子供にどれだけ構っていいのか、距離感が掴めずにいるパスタライオン)

おおらかっていうか、やっぱ会社=家族的な価値観が強めなんだろうか?

 ひとみがお土産に選んだのは特選宇治玉露、100グラム2,000円もするという超一品だ。今は物価も上がっているので単純比較は出来ないが、現代でもファミリー向けの緑茶は100gでだいたい300円くらいで売られているので、おいそれと飲むことはできないお茶だということはわかるだろう。

 ひとみが買ってきたのは超高級茶()の茶葉を、姪御が叔母に買った旅行土産と知らずに見せられた山岡は「そんなの、ハシにも棒にもかからないクズ茶」だと言い捨てる。これが致命的に良くなかった。
 山岡は「言わずにはいれない男」なのだ(第3話参照)。感じたまま、知っているままの言葉を剥き出しでぶつけてしまう。ぶつけられて方はたまったものではなく、ひとみはキッとまなじりを釣り上げ外へ駆け出していってしまう。どうするんだよこれ…という感じの気まずい空気の昼休みが終わると、今度は速攻でひとみがお礼参りに来た。

ひとみの一人称が俺になっている。

 古式ゆかしきジャパニーズ・スケバン・スタイル。
「よくも俺に恥をかかせてくれたなあ」「俺の買ってきたお茶に汚ねえケチつけやがってよ」
と山岡にすごむ。この場合は「お茶」と書いて「ブツ」と読むのがいいのだろうか?
 上のコマでわかるとおり、ひとみはただのヤンキーではなく、番長格・親玉だ。取り巻きが揃いも揃って"ばくだんいわ"みたいなブサイクばかりなのは、度重なる抗争でひとみ総長の代わりに敵に向かって突撃した名誉の負傷の結果であると考えられる。
 取り巻きは山岡にひとみセンパイに恥をかかせた落とし前をつけてやると意気軒昂、ハイエース的な車まで用意し「人目につかない所でギッタギタに痛めつけてやる」つもりなのだ。山岡は狼狽しつつも、ひとみが土産物屋にカモられ騙されても気づかない節穴だといい「こんな相手なら石っころもダイヤだと言って売れる」と煽る煽る下手したらうっかりで死ぬぞ山岡。しかしひとみはいくらか冷静で、山岡の言うことに耳を傾ける。

しかし「適当なことを言っていたらタダではおかない」というゲージは更に溜まったっぽい

 そうしてスケバン連中をずらずら引き連れて、東西新聞社の会議室で実際にひとみが買ってきた玉露()を、部長をはじめとした文化部の面々で飲んでみようということになったのだが、ひとみの玉露()は色・香り・味、全てにおいて問題外のつくりであった。(飲めませぬ、飾りかと…)
 なにせこれまでの回で試食役に回る際には一番の味音痴の役回りであった富井副部長にも、その味の劣ることを看破された上、しかもその指摘は本質をついていたのだ。この玉露()には着色料や化学調味料がふんだんに添加され、本来の玉露とは全く別のものになっていたのだ。

 自分が「ハシにも棒にもかからない」偽物を掴まされたと悟ったひとみは恥と土産物屋への怒りで顔面を紅潮させながら山岡に詫びを入れる。これにて一件落着…かと思いきや山岡は思わぬ行動に出る。
 なんと山岡は「こんなお茶売りつけた土産物屋をこのままにしといて気がすむかい?」とひとみたちをまた煽って、引き連れて新幹線で京都までお礼参りに行くというのだ。何をやっているんだ山岡…

「じゃ、急ごうや」『オッス!!』じゃないだろお前らぁ…

 そんなこんなで本当に京都についてしまった山岡御一行(山岡・栗田・田畑・花村&ひとみたちスケバン)まずは「本物の玉露」を味わってみることに。実際に比べてみると、見た目も違うし味なんてもっと違う、本物の方は茶葉をそのままかじってもふくよかな味わいがあり、清々しい香気がある。東西新聞社の会議室で試飲した、「ハシにも棒にもかからない」偽物の味とは雲泥の差であった。本物との差を体験したひとみはさらに怒りのゲージを高め、偽物を売りつけた土産物屋へカチコミをかける。

「七人の侍」とか意識してる?

 しかしひとみたちは粋がってはいるものの、まだまだ子供。声を荒げ、暴力をちらつかせることでしか攻撃ができないのだが、そんなことでは海千山千の詐欺師(土産物屋)には敵わない。押し問答を繰り返し、これではラチがあかない…という状況で、田畑さんがすっと前に出て土産物屋の店主に何やら耳打ちをすると、店主の顔はみるみる青ざめ、平伏せんばかりに謝り倒し弁償もしてくれることになった。
 田畑さんは一体何を言ったのか…こういう悪徳業者が儲けを隠して脱税するのは読めていたようで

田畑さん…

 こうやって「カマをかけたら当たった見事に的中だったのよ」ということだそうだ。読者はここで「この口調、タダモノではないッ」と直感するのだが、なんと田畑さんはひとみたちのグループの初代スケバンだったのだ。一体どのタイミングで更生したのかとても気になる。そして田畑さんのさらなる闇については…それは、また、別のお話。

悪徳土産物屋も成敗し、ついでに正しいお茶の知識も得ることが出来てめでたしめでたしの京都遠征であった。(その旅費は誰が出してるんだい…?)

◆ 本物と偽物 その2

 これまでこのマガジンではあまり本物・偽物という美味しんぼ的な価値観には違和を唱えてきたわけだが、今回は玉露ではないものを玉露と偽っているという紛れもない偽物(変な日本語…)なので、躊躇なく偽物と表記した。美味しんぼ的価値判断における本物の野菜、本物の鶏…などとは意味合いが全く違うものだ。近いものでは、これまでマガジンで取り上げた題材の中では醤油日本酒があるかもしれない、なぜそれらに私は一定の価値を見出し擁護しながら、今回の玉露については偽物と断じるのか。醤油の回ではまさに「本物と偽物」という小見出しで

何回かこのマガジンで取り上げているが、『美味しんぼ』世界における本物・偽物の基準がどうも私には気に食わないらしい。人口1億ン千万の胃袋を満たすため、もしくは味を届けるための生産・流通はそれはそれで評価されるべきであるというのが私の考えなのだ。もっと品質のいいもの、由緒のあるものを求めたければ他に選択肢があるというのが望ましく、食品における優劣というのは味のみでは決まらないはずなのだ。イチ消費者の趣味嗜好としてならばまだしも、大手マスコミの一員として、山岡はじめ東西新聞社文化部一同が美味いから本物、不味いのは偽物という価値観はどうも納得できないのだ。
(中略)
添加物の何が悪い?本物でないものの何が悪い?といえば言い過ぎか。では味が劣る、伝統的でない、でもあなたの食卓に醤油が届いている。せめてその現実を咀嚼して欲しい。現にあなたがたは気にせず大手メーカーの醤油を消費していたじゃないか。

https://note.com/pastalion/n/ne7a6df3eb613

と書いている、この価値判断を私は大事にしたいのだ。日本酒回でも純米酒こそが本物の日本酒でアルコール添加のものはダメだという価値観にも疑義を呈した。大量の需要に応えるべく大量に生産する必要があり、旧来のやり方では生産量が限られるものを「工夫」によって大量生産を可能にしたものをいちいち偽物と断じて駆逐していたら、食料品の価格は現在の比ではないくらい高騰するなどの大きな社会的影響が生じるし、日本酒のアル添に代表されるように添加物が新たな味わいの地平を切り開くことをも否定し、食文化的な発展も阻害されることになってしまう。伝統のやり方ではないが、より効率的に、より生産的にという努力によってもたらされたものには大きな社会的意義があるのだ。
 翻って今回の偽物の玉露はどうかというと、これはまったく違うお茶を玉露という一種のブランドを盗用することによって高く売りつけるという、まさしく詐欺的商品であって、それには誰かを豊かにすることもなく、社会の需要に応える意義も存在しない。ただ人を騙すためだけに作られたもの、だから偽物と表記することにした。

お茶を喫む、という行為は本来とても豊かなものですよね。普段使いのお茶は私は安~~い焙じ茶を好むけれど(渋くて苦くてアツアツのお茶が好き)やっぱり時折高いお茶を飲むと背筋が伸びるし、同時にその美味しさや香りでリラックスできます。スーパーで売っているような普段遣いのお茶っ葉も最近すごく美味しくなっていると思うし、ここ10年ほどで東京にも日本茶を上手に淹れてくれるカフェ、いや喫茶店がいっぱいできたので、ぜひみなさんも普段のお茶&ちょっと贅沢な日のお茶を楽しんでくださいませ。
ということで今回はここまで!

・ マガジン 今さら読む真面目に読む『美味しんぼ』

これまでの各話も感想をマガジンにアップしています。他の話もよろしければ是非!

https://note.com/pastalion/m/mbaf78f52f8d7


・私の本業は…

 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
鉄道オタクではない 視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、お暇なときにでも、是非以下の記事もあわせてご一読くだされば幸甚です。
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ローカル線の存廃問題についての記事をまとめているマガジンです。
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地方のローカル鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか|パスタライオン ~鉄道と交通政策のまとめ~|note

https://note.com/pastalion/m/mbd462a84ebda


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