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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第36話「味噌の仕込み」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった…
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■ あらすじ

 今回の栄養素:あるものを褒める時、何かを貶さなければ気が済まない

 栗田のおばあちゃん再登場。山岡の用意した鶏の水炊きを食べてからすっかり元気になって、今回はおばあちゃんが教師をしていた頃の教え子の故郷を訪ね某県に旅行。教え子の一人、君島さんは現在東京でオートクチュールメーカーのデザイナーをしていて現在帰省中。彼女の実家は家業として味噌を作っているのだが、最近は大メーカー(その名も「大銘加」… バカにしてるのか雁屋先生…?)が大量生産する"現代的な"味噌に押され気味だといい、おばあちゃんがせっかく訪ねたのに気落ちしている様子を隠せないようだ。
 君島さんの実家で作っている味噌は「元祖田舎みそ」として商標も取得していたのだが、大銘加は同じく「元祖田舎みそ」という商品名で味噌を売り出し、客の取り合いになった上に、商標の無効を訴えて裁判を起こしており、君島さんの実家は売上ダウンの加え裁判費用のダブルパンチを食らっているのだ。

 事情を聞いたおばあちゃんは、教師魂に火が着いたのか
「うぬぬぬっ、私の教え子を苦しめるような奴は許せんっ!!」といきり立ち、早速行動に出るのであった。元気すぎるよおばあちゃん。

激昂のおばあちゃん

 そして取った行動というのが「県会議員をしている教え子の弱みを言いふらすと脅迫して協力させる」であった。さっき教え子を苦しめるような奴は許さんって…え?

こっちはいじめてもいい方の教え子っぽい、おばあちゃんの基準では

 ニンマリ、じゃないよこの因業教師め!前回登場時には半ばボケた状態だったくせに…ともあれ、この県会議員の教え子の図らいで県知事が君島さんの実家と大銘加、2つの味噌づくりの現場を見学しに来ることになった。すごいよ教え子さん、頑張った。

 まず知事が視察したのは大銘加の工場。大銘加は「安価に大量に供給するのが我々メーカーの業務でして」とまさに正鵠を射た説明をし、知事もその生産システムには賛辞を送る。

早く大量に、を目指した技術が安価な提供につながっている

 次は君島さんの実家であるが、ここでは昔ながらの伝統的な味噌造りを行っている。視察する知事も「大変な作業だなあ」と感嘆するが、大銘加の味噌工場を見たあとでは古臭いという印象になったのかあまりテンションは上がらない様子…

ふうむ…

 君島さんたちは必死に味噌本来の美味しさを追求していることを説明するのだが、知事には響かず、そして決定的な一言が飛び出る

想定問答くらい用意しておけよ…

 こんな初歩的な質問にビシッと回答出来ないようでは、いくら援助をしてもここは早晩潰れるって。知事の言っていることは、生産性の向上と利潤の拡大という観点では正しいのだが、伝統的な地域味噌*の社会的・歴史文化的価値は考慮されておらず「当時はこんな感じで"生産第一"のマインドだったのかな、と思わされるものの、君島さん家はハッキリ言って準備を怠ったということは指摘しておかなければならないだろう。
自分や家族の未来がかかったプレゼンに無手で挑むバカがいるかよ!

 ちょっと君島さん家はそんなメンタル状態じゃないけど、知らん間にくっついてきた山岡の発案で、川縁に知事閣下来訪を歓迎する宴席を設けてあったのでそこへ移動。その宴席の冒頭の挨拶で「大銘加を援助する」旨の発言もあり、なおさら君島さん家は宴どころじゃないほど意気消沈している。

それにしても風流な宴席だ、これを設えた奴は天才

 後ろに褌一丁の男衆が控えてるが、気にしないでください!彼らはここで鯉をとって振る舞うためにこんな格好をしているので!決して宴席を壊しに来たヤカラではありません!
 見事に男衆が生け捕りにしてきた鯉を、板前・山岡が酢味噌和えと鯉こくにして供する。さてその味については知事閣下は「まあこんなもんですか…」と渋い表情、それを見て山岡はもう一膳、別の酢味噌和えと鯉こくを知事に勧める。なんの意味があるのかと訝しみながらも口にした別のもう一膳の方は、先のものと比べ物にならない味わいであった。感激した知事は先のものと一体何が違うのか、山岡に尋ねると…

これ、ハメでしょ。ウチのシマではこれノーカンだから。

 大銘加の人間たちはびっくり仰天、なんとまずいのは大銘加の味噌のせいだと言われてしまったのだ。ハッキリ言ってこれは卑怯である。味比べをするということは聞き及んでいないだろうし、そうなら大銘加側からも調理人を出さないとフェアではない。しかし知事やそのお付たちは山岡にのっかって、今度は焼き味噌を試すと…

ひ、ひどくまずい!! もう少しこう、手心というか…

 知事、そりゃないぜ。
 大銘加だって大メーカーとして、自分の社会的責任を果たすべく、安価に大量に生産して多くの家庭に味噌を届けるための企業努力をしている。味比べなんてもともと彼らのフィールドではないのだ。

掌返し!

 一刀両断に大銘加を切り捨て、君島家を持ち上げる知事。政治家としてそれはどうなんだ?票田にも資金源にもなり得た大メーカーをぶったぎって彼になんの得があるのか。これは私の自説であるが、損得で動かない政治家を信用してはいけない、信念で動く政治家を信用してはいけない。ましてや、仮にも宴席でこんなことを放言する知事は、その資質を疑う。しかし往々にして県知事というのは、自県では王様みたいなものなので(公選制の王)こういう振る舞いも許されるのかな。大銘加の人たちは本当に運がなかった、相手に山岡がいたばかりに…

 さて、そんなこんなで結局は山岡の知恵と腕で、君島家は味噌づくりを続けていけることになり、君島さんは安心して東京でデザイナーとして働けることになった。大銘加以外はめでたしめでたしといったところで今回はおしまいです。

◆ 美味しんぼ方程式の威力

 伝統的な味噌づくりは生産性が上がらないが、手間をかけなくては味噌本来の味わいが失われてしまう、それが今作のテーマのひとつであったろう。味噌の部分を醤油、塩、酒…様々な食品に置き換え可能で、無限に話を作れる魔法の方程式だ。実際におせんべい回(第22話「醤油の神秘」)で醤油について同じ方程式を使った話をやり、今回大活躍だった栗田のおばあちゃんのとき(第9話「舌の記憶」)には鶏で同じ式を使った。
この世にある食材はすべてこの式で美味しんぼ化できるのではないだろうか。
そして生産性に優れたものと、美味を求めたもの、二者が選べる豊かさという概念は美味しんぼには存在しない。 

◆ なぜかモテる山岡

 今回はデザイナーの君島さんが山岡に惚れてしまった。過去には大富豪の妻となる女に惚れられたり山岡は意外とモテる。こと食べ物のこととなると頼りになるからか、それともあの世界では男前なのか、疑問はつきないが後に山岡のロマンスがストーリーの軸になることを考えると、実際に接してみてわかる良さみたいなものが山岡にはあるのかもしれない。ぐうたら穀潰しであったとしても。

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・私の本業は…

 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
鉄道オタクではない 視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、お暇なときにでも、是非以下の記事もあわせてご一読くだされば幸甚です。
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