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【#ぱソ天】Half-Life: Alyxをクリアまでプレイした二人が感想を語る:VRゲーム編

2022年1月29日、Twitterのトーク機能であるSpaceにてぱソんことアロハ天狗の二名によってHalf-Life: Alyxが語られた。口頭の対談を読み物として最適化した上で記事にしました。

Half-Lifeシリーズ過去作の感想については以下の二つの記事をご覧ください。

登場人物

ぱソんこ


筆者近影

ゲームデザイナー兼ゲームライター。副業でゲームメディア向けにVRゲームの記事を書き、本業ではVRゲームのゲームデザイナーをしている。Twitterやゲームでは”Passonco”、メディア向けには”渋谷宣亮”名義でIGN JAPAN他にて活動中。2022年9月に初めて自分が開発に関わったゲームのリリースに立ち会った。

●ポートフォリオ
ぱソんこ|note
ぱソんこがライターとして書いた取材・レビュー記事一覧(2021)|ぱソんこ|note
渋谷宣亮 (ign.com)
DYSCHRONIA: Chronos Alternate(ゲームデザイン一部)

アロハ天狗


天狗近影

Twitter上でゲームや映画のレビューを精力的に行う傍ら、カクヨムやnoteでWeb小説を執筆。代表作は『シェイドウォーカーズ(個人の感想です)』、『柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』など。最近は『Supraland』にハマっている。
ウォー
ボン…ボボン…

●ポートフォリオ
アロハ天狗(@Aloha_Tengu)のまとめ - Togetter
シェイドウォーカーズ(個人の感想です)|アロハ天狗|note
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!(アロハ天狗) - カクヨム (kakuyomu.jp)

前回のあらすじ

ぱソんこ 以下、P(本文中では”ぱソんこ”):前回はTwitterのSpace上で、Half-Life1と2を語る流れで、私からVR大作ゲーム『Half-Life: Alyx』(以下、Alyx)について簡単にご紹介しました。今回はアロハ天狗さんがとうとうAlyxをプレイされたということで、改めて二人の視点から語っていきたいと思います。対戦よろしくお願いします。

アロハ天狗 以下、A(本文中では”アロハ天狗”):前回から半年経ってしまいましたね。Half-Life初代と2の話をした最後に「『Half-Life: Alyx』も超名作だよ」という話をぱソんこさんからしていただきました。

そこで私が「いやいや、アレすげーやりたいんですけど……でもPCのVRってお高いんでしょう?Valve Indexとかで……広い部屋の四隅にカメラ置いて……初期投資15万くらいして……」とか宣ってたら、「いやOculus Quest2で全然できますよ。アロ天さんの持ってるスペックのゲーミングPCと無線で繋げば数万円で簡単にプレイできます」とのことでしたので、早速Oculus Quest2を購入してHalf-Life: Alyxをやりました。

実際Alyxを体験した感想ですが、マジで凄いな…という感動と衝撃に尽きますね。Alyxのコメンタリーモードや他のVRゲームも経由してから改めてお話しようということでしたが、ズルズルと間が空いてしまいました、お詫びします。

ちなみに、Oculus(現:Meta Quest 2)は性能に対して安すぎてアメリカでは独禁法に引っかかりかねないというニュースもあったくらいなのでオススメです。この性能で3万円台ですからね(※2022年9月に37000円から59800円に値上げされた)。安すぎ(※2022年10月時点ではそうでもない)。スタンドアローンで動作しますし、PCとの無線連携も簡単にできます。便利ですね。噂の『VRChat』ももちろんできます。

Half-Life: Alyxはめちゃくちゃ面白い

P:いきなりですが、『Half-Life: Alyx』はとにもかくにも面白い。めっちゃくちゃ面白いです。

A:いちおう読者の方に向けて『Half-Life: Alyx』の概要を簡単にご説明しますと、基本的にはVRで体験するシングルプレイのFPS兼アドベンチャーになっています。ステージを進みながら敵と戦い、多少のパズルを進めつつ、ゴールまで道なりに進んでいくという、一般的なシングルプレイFPSをVRでやるという感じなんですが、むちゃくちゃ面白い!

P:今までのHalf-Lifeシリーズも1,2ともにゲーム史に残る高評価タイトルですが、Alyxもそれに匹敵するどころか今まで以上と言っても過言ではない完成度です。

A:私も本作をプレイしてみた感想が「VRゲームとしてはよかった」というレベルではなく、「全ゲームの中でもオールタイムベスト」というレベルになっています。本作を手がけたValveという会社の特徴として『テストプレイ主義』が極めて徹底されていて、テストプレイヤーからのフィードバックをとにかく徹底的に改良・修正して製品版に落とし込むという開発手法があります。

こうした思想はゲーム内におまけモードで収録されているオーディオコメンタリー(ゲーム内に仮想ヘッドホンが浮かび、実際のプレイ進捗に合わせて、そのシーンにおける開発上の裏話がスタッフから語られる)からも知ることが可能です。「普通のシングルプレイFPSをなんとなくVRで作ってみました」という感じではなくて、徹底的にVRという環境に最適化した上でゲームとしての完成度を果てしなく高め続けたゲームですね。

企画が発表されてから発売までは半年程度と非常に短かったんですが、開発期間は5年以上ということで、秘密を徹底して守りながら5年間ずっとブラッシュアップし続ける開発体制も特異ですね。

VRゲーム市場を見ていて思うのが、超大作ゲームは非常に少なく、2000円規模のインディーゲームが多数を占める独特の市場になっています。超大型のデベロッパーがAAA規模の予算をかけたVRゲームって存在自体がレアですよね。VR対応のAAAタイトルとしては『バイオハザード7』や『エースコンバット7』などもありますが、それらはあくまで「大型タイトルにVR対応がオマケ的に付随してる」という感じですし、「Asgard's Wrath
」とかもありますが知名度がついてきませんね。

P:開発に5年かかったと言っても古びていることは全くなく、むしろ「あれ?2020年に2025年の未来のゲームが出てきた」と本気で思っています。『未来のゲーム』です。VRのシューターはそれなりの数がありますが、ほとんどが対人系・PVPが中心となっており、10時間単位のキャンペーンモードがじっくり遊べるゲームは『バイオハザード4VR』が出たりはしたものの新作ではないので、純粋な新作は本当に『Half-Life: Alyx』とごく一部ぐらいしかめぼしいタイトルがないです。

A:アリゾナサンシャインとかは一応そんな感じですかね……。『Sniper Elite VR』もシングルプレイはありますが、超大作という感じは全くしませんでした。徹底的に作りこまれた一人用のゲーム体験、およびストーリーがプレイできるゲームがHalf-Life: Alyxくらいという感覚は同様です。そんな競争が無い環境下にも関わらず、異常に出来がいいという化け物みたいなゲームになっています。

P:良くも悪くも市場が小さいから実験作とかスピンオフしか作れない状況で、本当にド直球のAAAを出したというのが本当にすごい。

A:私もHalf-Life: Alyxの話を聞いた時には技術デモ程度のVRスピンオフ、くらいをイメージしていたんですが、いざプレイしてみたら正当なナンバリング・タイトルというタイトルでした。

P:時系列としてはHalf-Life 2の前日譚なのですが、『Half-Life 2』『Half-Life 2: Episode One』『Half-Life 2: Episode Two』の先を待ち続けたファンの期待を大きく超えてくれる内容になっていて、ストーリーも非常に面白かったです。

未来からやってきたゲーム

P:じゃあどの辺から話し始めましょうか。全部良すぎてどこから話せばいいのか困ってしまいますね。

A:総論からいくと、私は先ほど『VRゲームのベストではなくて全ゲームの中でもベスト級』と話しましたが、私自身のゲーム歴を振り返った時、本作に匹敵するゲーム体験は『Grand Theft Auto: III』や『Portal』、『スーパーマリオ64』に『Fallout 3』、『ゼルダの伝説:ブレスオブザワイルド』、『Half-Life(初代)』を初めてプレイした時などですね。「未来のゲームだ!」と先ほどのぱソんこさんと同じことをプレイ中はずっと思っていました。

P:まさに『Half-Life: Alyx』はVRゲームのフラッグシップを確立したゲームであり、2016年のVR元年から2020年のHalf-Life: Alyxにたどり着くまで4年かかったんだなあと実感します。今後VRゲームを語る上でHalf-Life: Alyxを避けることは難しいレベルの圧倒的な品質です。

A:今一番危惧しているのが、結局VRゲーム市場が盛り上がりきらずにこれを超えるゲームが一つも出てこないまま収束してしまうんじゃないかということです。

P:昔はHalf-LifeのライバルとしてQuakeやUnrealが、Half-Life 2の時期にはFarcry(無印)やDOOM 3といったライバルがいたのに対して、現状Half-Life: Alyxには同じ土俵で評価できるVRゲームすら存在しません。ただ、Half-Life: AlyxがPS VR2に移植されるという噂もあるので今後ますますAlyxのプレイヤーが増えることは間違いないと思います。Alyxのリリースは2020年ですが、リリースから2年以上が経過した現在もその輝きは全く色褪せません。

A:後追い作品すら出てきていない気がしますね。

P:Half-Life: Alyxは特にUIが高品質で、AlyxのUIのうち特にグラビティグローブだったり手首の収納ポケットを真似たVRゲームは最近頻繁に見るようになってきました。

シンプルなリニア構造だが、それを感じさせない

A:このゲームは割と一本道の進行になっていて、ゲーム側が接待プレイをしてくれているんですよね。過酷な戦闘を乗り越えたご褒美に派手な見せ場を入れようとか、ここはプレイヤーの視線を誘導して、ちょっと油断させた後でびっくりさせようかとか、ゲーム側が完全に「お前はこう思って行動するだろう、なぜならテストプレイを500回ぐらいやっているから我々にはだいたいわかるのだ、わかったか」みたいな感じでプレイヤーの意図を読み切ってやってくれます。

これに近い体験はディズニーランドのアトラクションだと思います。とはいえ、乗り物にのって安全バーを下げて「さあ後は勝手に運ばれてください」みたいな形はなくて、キャスト参加型のアトラクションで自分たちで自由に歩き回りながらワーワー騒ごうという感覚。それでも「お前たちが何をやるかは我々の方が知り尽くしている」みたいな、開発者側の手のひらの上で転がしてくれる感覚ですね。

P:構造自体は割とリニアですけど、それを感じさせない作りになっています。

A:本作の道筋は微分していくと実際には一本道なんですが、上に行ったり下に行ったり、右に行ったり左に来たりみたいな形で、一本道がかなりジグザグしているので実際にプレイしている最中はリニア感が全くないです。二周目プレイのときにようやく「意外と一本道だな」と気づく感じですね。

過去作とは違うサバイバルホラーとしての怖さ

P:Half-Life: Alyxの特徴として、決してホラーゲームという訳ではないのにめちゃくちゃ怖いと言われています。

このスクリーンショットがホラーゲームじゃないんだから驚きである。

A:むちゃくちゃ怖いですね。本作はSF設定のゲームで、エイリアンに侵略されて支配された地球が舞台で、主人公のアリックスはレジスタンスとして父の救出に奮闘するという筋書になっていきます。ホラーの筋書ではないですよね。終盤はエイリアン政府側の敵兵士がメインの敵なんですが、序盤からよく出てくる敵として、宇宙クモのヘッドクラブに寄生されてゾンビ化した市民がいるんですね。これがめちゃくちゃ怖い。あと、このゾンビの頭に寄生しているヘッドクラブ自体がクリーチャーとしてあちこちをカサカサしたり、プレイヤーの顔面に飛び掛かってきたりもします。これも超怖い。

ただ、恐らく普通のFPSで同じ敵が出てきても恐らくはさほど怖くなくて、この怖さには本作特有の事情が二つあります。

まず一つ目に「照準の狙いが難しい」ことがあります。FPSでは基本的にマウスで狙ったとおり、照準の真ん中に簡単に弾が飛んでいきますよね。リアル志向のゲームでも狙いの周りに弾が散らばったり、反動で照準がブレる程度です。ところがVRになると、実際に両腕、そして頭部を使って、しっかりと照準と照星、更に目の位置を揃えて狙いをつけないと全く当たらない。狙いもつけずに反射的に撃っているだけだと、驚くほど当たらないです。

左がアイアンサイトを使ったエイム、右がドットサイトを使ったエイム。ドットサイト越しだと敵の弱点がハイライト表示される。

二つ目は、銃の装弾数が少ないこともあってすぐに弾切れになるので、敵の目の前でリロードしないといけないこと。後でもう少し丁寧に説明しますが、このリロードがめちゃくちゃ焦る。

この二点が、戦闘における"怖さ"を引き立てていますね。サバイバルホラーだと『不気味なエリアを探索している時の方が怖くて、いざクリーチャーが出てきて戦闘になるとむしろ恐怖が減衰する』ってことも多いんですが、Alyxは戦闘そのものが一番怖い。もちろん、VRならではの視覚的な立体感や臨場感がそれを引き立てているという点もありますが、どちらかというとゲームバランスによって「戦闘そのものが怖い」ように調整されていますね。

要するに、『にじり寄ってくるゾンビに慌てて乱射しても全然当たらずに、弾切れになったところを齧り殺される』というベタなゾンビ死を完全な形で体験できます(笑)

P:先ほど言及されたように、初期装備だと照準と照星を使ったアイアンサイトで狙うしかないんですけど、あれで当てるのがいかに難しいか身をもって知ることができます。序盤はゆっくり歩いてきて近距離で闘うゾンビや、固定された標的が相手なのでまだ何とかなるんですけど、中盤から出てくる兵士相手だと全く当たらない。我々はレーザーサイトに頼らないと鉄砲一つマトモに当てられないのかと暗澹たる気持ちになりました(笑)逆に言うと、中盤以降で手に入るレーザーサイトが本当に強力なんです。

A:レーザーサイトを取った瞬間にゲームの難易度が二段階くらい下がると思います(笑)VRじゃない平面のFPSでは対人戦ならともかく、シングルプレイのキャンペーンモードだとレーザーサイトでもドットサイトでもアイアンサイトでも大した違いってなくて、言ってみればフレーバー(※ゲームプレイには影響しない雰囲気の要素)じゃないですか。ところがVRだと、本当に自分が構えて狙って撃つという一連の動作の中での、レーザーサイトの異常な強力さを実感しました。チート兵器。異世界レーザーサイト転生。

P:Alyxの「かなり慎重に狙わないと当たらなくて、しかもゲーム内の弾数が少ない」というのはサバイバルホラーとしてのリソース管理として理想的ですね。管理能力と射撃能力の天秤が非常に意識させられる。『バイオハザード4』(以下、バイオ4VR)も2021年にVR版が出ましたが、オリジナルのバイオ4は手元の照準を意図的にブラしてバランス調整してましたね。ところがバイオ4VRはエイムがゲーム側にズラされることはなくて、基本はプレイヤーの腕次第です。VRゲーム初心者はかなり外すかもしれませんが、VRゲーム上級者はズバズバ当たります。

バイオ4VRはプレイ感覚がかなりAlyxに近いんですよ。部位破壊やシビアな弾数管理とかがだいぶ調整されていて、常にギリギリのリソースの中でにじり寄ってくるゾンビに対応しなきゃいけないせめぎ合いが強い。僕はHalf-Life: Alyxの開発スタッフがオリジナルのバイオハザード4とPSVRのバイオハザード7から影響をかなり受けていると思うのですが、バイオハザード4VRは逆にAlyxを意識している点もあると思います。

A:そうですね、Half-Lifeは1と2も銃弾がかなり潤沢で、比較的素直なFPSという感覚でした。サバイバル的な緊張感はありましたが、ヘルスとアーマーが主要な管理リソースで、弾薬の枯渇に困った印象はありませんでした。一方でAlyxは本当に銃弾がカツカツで、ゲームバランスとしては明確にサバイバルホラーの調整です。特に序盤はこれが顕著。しっかり探索すれば弾薬もそれなりに拾えるんですが、普通に進むとマジでギリギリになる。プレイヤースキルに応じて、弾薬や回復アイテムの数がゲーム側で自動的に調整されてるところも巧みなんですよね。

P:自動調整機能を入れているとコメンタリーモードで明言していましたね。プレイヤーの状況に応じて自動調整システム”AIディレクター”が調整している。Valveだと2008年の『Left 4 Dead』でも同様のAIディレクターが入っていましたが、プレイヤーが持っている弾薬や体力、その先の戦闘などを監視して木箱や机の中などに追加アイテムが発生するかをゲーム内で常時判定しています。Valveは元々ゲーム内AIでプレイヤーの緊張と緩和を制御するという試みにずっと取り組んできた会社なので、そのノウハウをサバイバルホラーに適用したというのが見事に成功しています。本当に相性が良いとプレイして感じました。

先述のようにHalf-Lifeシリーズは元々リソース管理は重視してなかったんですが、今作の武器の種類は最終盤でもピストル、サブマシンガン、ショットガンの三種類しかありません。武器の種類を厳選することで、最後までプレイヤーが強すぎず弱すぎないバランスを維持して緊張感を保ちつつ、3つの弾薬のリソース管理に集中できる。シンプルにどうまとめるかが練られています。

VRゲームの銃の取り回し

P:照準の話が先ほどありましたけど、VRは照準が困難というのも「狙いづらくて面白くない」ではなく「命中させるにはよく狙う必要があり、そこが面白い」というのが正確なところです。それ故に、部位破壊が重要になるタイプの敵が多いんですよね。体の一部が光っていて、そこを撃てば一撃で倒せるタイプの特殊ゾンビとか、アントライオンは脚部を破壊してから腹部を狙わないといけないとか。狙い撃つ楽しさをしっかりと味わってほしいという意図を感じました。VRならではのリアルな銃の取り回しの感覚と、部位破壊という組み合わせが非常に良いんです。

A:VRの銃コントローラーの楽しさは衝撃的ですよね。通常の平面ゲームにおけるFPSのエイミングなんかは『ハエたたき』とか揶揄されることもありますが、VRゲームの『実際に両手で構えて、銃の照準で狙って、撃つ』というのは衝撃的な感覚です。実際に手に持っているのは単なるQuestのコントローラーなんですけど、プレイ中は本当に銃を持っているとしか思えない感覚になりますね。

P:右手で銃を構えて、左手を銃床に添えて安定させるというような動作を自然に取ってしまいます。

A:しっかりと手を伸ばして照準を構えて狙っていると「俺かっけー!!」ってなっちゃいますもん(笑)ただ、本作が非常に難しく敷居の高いゲームになっているかというと全くその逆で、恐ろしいほど親切な設計のゲームです。

最序盤は武器すら持たない歩き回るだけの導入パートから始まり、基本的な移動の操作への慣らしが入ります。銃を獲得してからも、実際に危険な戦闘に入るまでにはかなり時間がかかります。銃を取って最初に撃つのは完全に固定された錠前、次にフェンスの向こう側にいる敵、と安全な状態で段階を踏んでいってようやく、ゆっくりとにじり寄るゾンビとの戦闘が発生する。「安心して操作に習熟できる状況を自然に整えてから次に進む」という難易度曲線が非常に上手い。

ゲーム中盤では例えば弱点を狙わないと倒せないような変則的な戦い方が必要な敵も出てくるんですが、その場合も導入的な演出一体になったチュートリアルがほぼ必ず自然に差し込まれるようになっていて、とても親切な構成になっている。

弾数管理も必要なんですが、そこに煩雑さやわかりづらさからくるストレスはない。例えば弾倉内の残弾なんかも、SF的な銃の側面には残弾数を表示するインターフェースが表示されており、直観的に残弾がわかるデザインになっています。

P:本作独特の特徴として、他のVRゲームでのショットガンって一般的には両手持ちの銃だけど、このゲームだと片手持ちです。それは勿論実銃の観点からもビデオゲームのお約束からもちょっと変です。しかし、VALVEが開発中にテストプレイで検証したところ、VRコントローラーで両手持ちの銃をやろうとすると現実世界では銃身が固定されていないためどうしても変なプレイ感覚になってしまうので、片手持ちに切り替えたんだそうです。

A:これ私は別のVRゲームで両手持ちの銃も使ってみたんだけど、Valveは正解だったんだと理解しました(笑)終始こんな具合で、多少リアルさを曲げても遊びやすさを最優先してくれている。

P:ゲームの世界観に合わせてゲームプレイを調整しつつ融合させているのは、Valveが単なる『シミュレーションとしての正確さ』ではなくて『遊びとしての楽しさ』を最優先に置いている会社なのだと伝わってきます。

A:リアルにした方が面白いところは残しつつ、そうでないところは躊躇なく切り捨てていく。今作で特に印象的だったのは、普通のFPSのリロードはマガジンの中に残っている弾丸もそのまま弾薬として回収されるじゃないですか。ところが本作はマガジンを捨てると余った弾が丸々捨てられてしまうんです。先ほども言った通り、サバイバルホラー的なバランスで弾薬が非常に貴重なのにそうなってしまう(笑) 

その結果何が起きるかというと、弾丸を無駄にしたくないから、マガジンの中に二発とか三発とか中途半端な弾しか残っていないのにウロウロさせられて、いざ敵と対峙するとすぐにその弾丸は撃ち尽くしてしまうので、敵の真ん前でリロードを余儀なくされるという非常に緊迫した状況が自然と生まれる。普通のゲームだったら戦闘の合間の安全地帯にリロードをするものですけど、本作はそれをさせてくれないんです。で、このリロードが慣れるまで結構大変なんですよね(笑)

P:右手のボタンでマガジンを排出して、背中のバックパックからマガジンを取り出し、それを銃弾に差し込んだ上でスライドを引いて薬室に弾丸を装填させる、というところまでやらなきゃいけなくて、めちゃくちゃ工程が多い。普通のゲームならリロードボタンを押すだけで済むところですよ。「これ敵の真ん前でイチイチやるの!?」というところと「リアルに考えたら、そりゃそうだよな!」がとてもいい塩梅で両立する。

A:「スライドを最後に引く行程」を毎回忘れて、迫りくるゾンビの前で引き金をカチカチ引いても弾が出なくて焦るんですよ(笑)。逆に、弾が装填済みなのに慌ててスライドを引きまくって弾を無駄にしてしまうことも”あるある”ですね。このリロードメカニックの本当に素晴らしいところが、最初は今言ったようにめちゃくちゃ焦ってガチャガチャして失敗して無様に慌てるんですけど、ゲームの終盤には普通のFPSで「R」キーを押した時くらい素早くリロードができるようになってるんですよ!

P:『Half-Life: Alyx』はどんなVR初心者でもクリアする時には熟練のVRゲーマーに仕上がるVRゲームですからね。

A:この上達の自己満足が尋常じゃなく気持ち良くて、スムーズに高速リロードを決めた時の「俺カッケえ~~~!!」感が尋常じゃないんですよね。これと同じ事がショットガンのリロードとサブマシンガンでのリロードでも起きるのでホント楽しい。Valveもこのリロードメカニックは最初「大丈夫かな?」と不安だったらしいんですけど、テストプレイで恐ろしいほどに好評だったので残したという経緯があるようです。

P:プレイヤーも慌ててリロードミスしてそのまま死ぬというパターンが多かったらしいんですけど、「リロードし損ねてゲームオーバーになる」という体験自体に好評なフィードバックが多かったとコメンタリーモードで言われてました。

A:今作には過去作には存在しなかったアップグレード要素も導入されていて、道中で集めた強化用トークンを使って武器を強化できるんですね。リロード周りも強化することができて、例えば拡張弾倉を購入すると、単純にリロードの頻度が半分にできる。そんな具合に便利にはできるんだけど、とはいえリロードのメカニックという”一仕事”自体がゲームからなくなることはない、という塩梅もよかったですね。

P:あとショットガンのリロードも欠かせないですよね。中折れ式のショットガンで、弾を差し込んだ後に手首のスナップでガチャッ!って銃身を戻す。絶対に銃を痛めると思うんですけど(笑)、めちゃくちゃ気持ちいいですよねアレ。

A:アレ本当に楽しいですね。手でも戻せるんですけど、スナップでやる方が確実に楽しい。サブマシンガンは結構フィクション製の高い未来武器って感じでリロードメカニックも簡素ですね。とはいえ「実質最強武器なのでリロードも楽」ということで丁度良かったとも思います。あとぱソんこさんが仰っていた照準関連のアップグレードも良くて、最初はアイアンサイトの目視照準なのでかなり難しいんですけど、ドットサイトを付けると一気に照準合わせが楽になる…からのレーザーサイトですよ。

P:レーザーサイト(笑)

A:普通のFPSにおけるレーザーサイトって正直なところ意味がないじゃないですか。右クリックの照準状態にしたときに、まあアイアンサイトはちょっと辛いけどドットサイトでもレーザーサイトでも使い心地って殆ど同じで、フレーバー以上の差って正直無い。基本的には画面の真ん中を撃てば当たっちゃいますから。ところが、VRシューターにおけるレーザーサイトの強さというのはもう尋常じゃなくて、本当に究極兵器ですね。

P:レーザーサイトがつくとマウスクリックと同じくらいの気軽さで撃っても当たるようになります。それまで慎重に構えて狙っていたのが、適当に撃っても命中するようになる。Alyxは「序盤はレーザーサイトじゃなくてまずはドットサイトを買おうね」というバランスに言外に調整されているんですけど、あえて序盤をアイアンサイトで我慢してレーザーサイトを一直線に買うとめちゃくちゃヌルゲーになるんですよね。二周目、慣れていたというのもあるんですけどサクサクした無双シューターに変わりました(笑)

A:レーザーサイトを付けた瞬間にこんなにヌルくなるんだって驚きがありましたね。バランス上、レーザーサイトは中盤以降買うことを前提に恐らく調整されてます。なので皆さん、初見プレイをされる場合はレーザーサイトは後回しにしてください、ゲームバランスが破壊されるので(笑)

あとショットガンのオートリロード機能も強い。これを付けると近接戦闘は無敵同然になるけど、ショットガンの弾自体が希少品なのでここも結構いい塩梅でしたね。ここまでお話した通り、Half-Life: Alyxはゲーム体験のコアである「銃を構える」というところが一番楽しいんですよね。

P:この手のVRシューターだと、リロードのマガジンってだいたい腰とか胸のベルトから補充します。これは現実にも即していますが、Alyxは背中のバックパックから肩越しに取り出します。この操作はかなり独特ですが、他のゲームと比べたときに圧倒的に快適で、やはり「リアルさとゲームとしての快適さの取捨選択」が本当に考えられています。他のVRシューターだと座りプレイ中の腰からのマガジン取り出しがストレスになりがちです。

A:逆にアイテム収納も肩越しですし、しかもアイテムの出し入れの際には必要なものを自動で判定してくれる。

P:VRシューターって武器・弾薬・アイテムのインベントリへの出し入れってまだノウハウが確立されていないところがあるが故に、各社色々なアプローチが見られるのは興味深いです。通常のFPSって「最適解」がほぼ見つかってしまっているので、ある程度そうしたUIってデファクトスタンダード的に収斂しちゃっているところもあり、この辺りは開拓中の荒野としてのVRゲームならではの楽しさだと思います。バイオ4VRも結構個性的でした。

A:バイオ4VRはどんな感じなんですか?

P:左手を伸ばすとですね、没入感を無視した謎の四次元UIが派生して、そこからマガジンやアイテムを取り出します。たしかにめちゃくちゃ快適だけど!めちゃくちゃ快適だけどさあ!(笑)って感じですね。

A:まあバイオ4VRは回し蹴りの時にもレオンから視点が離れて、普通に三人称でレオンが村人を蹴り飛ばすのを謎の視点から眺めたりとか、没入体験は二の次に割り切っている調整がありますよね。あれはあれで潔い。

P:『Half-Life: Alyx』は背中のバックパックから肩越し、つまり見せないところで自動処理をしているというのが没入を途切れさせない鍵かもしれない。

A:Alyxは「背中から何かを取り出す」というのが基本的にはマガジンしかないので、その辺りの判定が明快というのもありますね。その時装備している銃のマガジンを引っ張れば良いので。Alyxでは回復アイテムやグレネードは手首の四次元ポケットに一つだけ収納できるので、その場合も「アイテムを選択する」アクションが生じない。縛ることで混乱を防いでいるのはエレガントな調整でした。

P:プレイヤー側であれこれ管理すべき要素は徹底的にそぎ落としている印象を受けます。手首の四次元ポケットは、『After the Fall』っていうVR版『Left 4 Dead』みたいなゲームでそのまんま採用されていて笑いました。一応荒業ですと、その当たりの段ボール箱や木箱に回復キットやグレネードを入れて強引に運ぶってことも可能ではあります。

A:twitterでそんな感じのプレイ動画が小バズして「わーVRすごーい」ってなってましたけど、いざ実際にやってみるとわざわざそんなクソ面倒くさいプレイできるかボケって感じでした(笑)。本作は「高いところから飛び降りる」形で不可逆的な進行を制御している箇所が多いんですが、そうした場合に予め回復アイテムやグレネードなどの消耗アイテムを持ってきて落としておく、といったプレイはやってみましたね。

P:ただ、それをやってみて結果的に気づいたことは、やっぱり面倒になるんですよ(笑)プレイヤーが管理することを極限まで減らしているバランスの中で、アイテムが増えれば増えるほどマネジメントすべき項目が増えてきて面倒になるので、結果的に保持できるアイテムは本当に手持ちの最小限のみ、という調整が正解だったとは感じます。

A:そうですね。一個くらいしかアイテムは持てずに、使い切ったら丁度popする、くらいの現行の調整がサバイバルホラーとしての緊張感を保持しつつ快適ですね。

ゲーム本編の導入

P:Half-Life: Alyxは導入も素晴らしいゲームでした。VRゲームとして理想的だと思ったのが「開始一秒で目に入る光景」が最高なことです。現実的な集合住宅のベランダにいることで足元の現実感を担保しつつ、遠景に見えるSci-Fi的なタワーの巨大さ、壮大さが対比されている。そして、実際に銃を撃って飛んで走って的な本格的なゲームプレイになるまでだいたい一時間くらいの導入パートがあるんですけど、ここも素晴らしい。


ゲーム開始直後の風景。コンバインの要塞が建造中。

A:だいたい最初のベランダあたりで延々遊びますよね。「おー、VRって凄いなー…」って感じで、ひたすらその辺の空き缶を投げてみたりホワイトボードに落書きしてみたり……。ただ「プレイヤーがVR世界そのものに興味津々になってしまい、全然先に進まなくなる」という課題も織り込み済みで、徹底した対策がされているところが更に輪をかけて凄いです。

P:そうですね。序盤の導入だけで圧倒されちゃうところありますもんね。ホワイトボードとか、あとスルーされがちですけどビデオカメラとかも凝ってる。瓶詰になってる宇宙生物にちょっとエサをやってみたり、ラジオのチューニングを合わせてみたり…

自分は今、VRゲーム開発に携わってるんですが、Alyxの「自分の手でちゃんと物体に干渉できる」というのはやはり特別です。VRゲームって、掴んだ瞬間に手が消えて、掴んだ物自体が宙に浮いてる、という形でオブジェクトの保持を処理してるのが珍しくないです。なぜかというとオブジェクトと手の物理的な干渉の処理が非常に面倒臭いから。ただAlyxはそこを完璧に実現してて本当に圧倒されました。作り手になってみたら「このVRゲームとんでもないことやってるな…」というのを改めて実感します。

A:私が恐ろしかったのは液体が入ったボトルですね。ウォッカとかの瓶なんですけど、中身の液体が手の持ち方や傾き、手を動かす速度に合わせて極めて自然に描写されている。「これ実は疑似的な処理で、シェーダーを使って見た目だけ再現してるんだ」的なことをコメンタリーで言ってましたが全く意味がわかりませんでした(笑)これ、発売後にアップデートで追加されたらしいんですけど、これも延々遊んでしまいますね。

P:酒瓶、床や壁に叩きつけたり投げたりして割るのも楽しいですよね。ホテル北極星のエントランスロビーに「さあ遊んでくれ!」って感じで大量に配置されてるのにまんまと釣られてしまいますね。

プレイヤーを恐怖のどん底に叩きつける”ジェフ”とクリーチャーの”イヤさ”

A:酒瓶といえばジェフも欠かせません。「ジェフ」というゲーム中一体限りの固有ボス敵がいて、このキャラクターが出てくる一連のシークエンスは完全にジェフとの対峙を中心としたホラーゲーム寄りなデザインになってます。チャプター名自体も「ジェフ」。

ジェフは『完全無敵で倒せない。盲目な代わりに音で反応する』というタイプの敵なので、武器は使えないし、音を出してもダメっていうタイプのステージです。ここでめちゃくちゃ嫌らしいのが、蒸留酒の工場が舞台なので、さっき言ってた酒瓶とかがあちらこちらに転がってるんですよね。油断すると瓶が割れて追いかけまわされたり、おまけに工場だからか、エレベーターのボタン一つ押すだけで辺り一面にサイレンが高らかに鳴り響き、ドアは大音量でギシギシと軋んで「お前ふざけんなよ!」ってなります(笑)

P:このジェフの章は通常のゾンビやエイリアンは基本的にはほぼ出てこないから銃を撃つ必要はなくて、この章だけがホラーアドベンチャーって感じで延々ジェフと追いかけっこホラーにゲーム性が変わるんですけど…この章は正直めちゃくちゃ面白いです。

あちらこちらにさっき言ってた武器アップグレードのトークンがあったりして「このアイテム取りたいけど…でもこれ取ると絶対あの酒瓶が玉突きで落ちて割れるよな」とかのジレンマが多いんですよね。うまく行っても失敗しても楽しい。

ジェフはエイリアン化により視覚を失っている設定なんですが先述の「ジェフと二人でエレベーター内に閉じ込められる」というシーンで超至近距離で息を殺して対峙させられる。ここはゲーム中通してもハイライト的なシーンでしたね。

A:その前後で、エイリアンの肉腫が建物を覆ってるんですけど、これが胞子を噴出してて主人公がその煙を吸うと「咳き込んで」しまうんですよね。それを防ぐために「口に手を当てる」ってアクションが自然と入ってくるのも感心しました。

P:あれ凄いですよね。あと二周目で気づいたんですが、これ道中にガスマスクがあってそれを装着すると無効化もできるんですよね。

A:えええ!?そうだったんですか!?ただの雰囲気オブジェクトだと思ってました。

P:それと、道端に落ちているヘルメットにも実は意味があるんです。バーナクル(シリーズ恒例の天井からぶら下がったフジツボ。垂らした触手に触れると釣りあげられて大ダメージを受けてしまう。注意すればなんてことはないが、意外と油断したタイミングで引っかかる)、ヘルメットを頭にかぶってるとヘルメットだけ持って行ってバーナクルの攻撃を無効化できるんですよね。

A:そっちは気づいてました(笑)たんなる飾りと思ってたアイテムに攻略上の意味がこっそりとあるのはいいですよね。バーナクルを倒すと、今までバーナクルが食べていた人体とかゾンビの骨や肉片が吐瀉物としてビシャーって降って来るんですが、VRだとイヤさが倍増でしたね。

その流れで今作で一番イヤさが増しているのはヘッドクラブ(Half-Life恒例の雑魚的。プレイヤーの顔面目掛けて飛びついてくる宇宙肉クモ)でしたね。1とか2とかだと結構マスコット的な扱いを受けていたキャラですけど、VRだと本気でイヤですよ(笑)

人間の顔に取り付いて寄生するクリーチャー「ヘッドクラブ」の裏側。顔に引っ付かれたときの生理的嫌悪感はひとたまりもない。それとこのスクリーンショットではプレイヤーがヘルメットをかぶっている。

P:本当にイヤですよね(笑)。もしこれからVRゲームを作ろうと思った方がいて、イヤすぎる敵を作ろうと思ったらプレイヤーの顔面に飛びつかせるといいと思います(笑)

A:少し話が戻ってジェフの部分なんですが、延々追いかけまわされる下りがチャプター1つ分まるまる続いた果てに、超気持ちよくジェフにトドメをさせるってのもよかったですね。正しくパニックホラー映画の文脈。

この章、実は丸ごとゲームからカットしても特に影響はないんですが(笑)、章単独での起承転結が非常に上手くいっていて本当に優れたシークエンスだと思いますね。コメンタリーを見ていてもValveのスタッフの一番お気に入りのパートというのが伝わってきましたよね。本編を無視してこの章だけやっても高品質、という感じ。

P:他の章に比べてもコメンタリーの数も突出して多いですよね。ジェフというのはキノコのバケモノに寄生された肉腫まみれの人体という形で…例えが古いですがバイオハザード2のG第二形態みたいな感じのデザインなんですが、もともとは故障したロボットの予定だったようです。

A:テストプレイも含めてロボットだとそこまでプレイヤーの恐怖を煽らなかったということのようですね。VRということで、見た目の生理的な嫌悪感の恐怖への繋がりがますます重要になっていくということでしょうか。敵兵士だと距離を開けての銃撃戦なので見た目のグロテスクさは求められないですけど、ゾンビとかはどうしても近づいての戦闘になるので、「近づきたくないデザイン」が重要だなって感じです。

テストプレイ主義とイテレーション

P:テストプレイの面白い逸話として、プレイヤーが序盤で敵兵士と出会った際に、プレイヤーが「あっ、人だ!」と思って友好的にノコノコ近づいていく傾向があったそうです。それまでゾンビの群れか無人かという道中でトボトボ歩いているので、人間を見たら安心して近づいていく。それを解消するために、敵兵が無抵抗の市民を銃殺しているシーンを入れて「あっ、こいつらは悪役なんだ」というところをプレイヤーの頭に刷り込んで、プレイヤーが敵兵を撃つのに抵抗感をなくすとか、VRゲームの作劇の参考になります。

今作の敵兵たち。どう見ても悪そうなやつらだが、シチュエーションが異なれば人型というだけで(意図されていない)親しみさえ覚えるのがプレイヤーである。

A:冒頭でも言ってるんですけど、このゲームはValveのゲーム徹底したテストプレイ主義なので、どのシーンを見ても「最初にこう実装したらプレイヤーがこう反応してしまったので、こう修正した」って下りが必ずコメンタリーにあるんですよね。これ私がもしVRゲーム作るとしたら、アレコレ勉強するよりもこのゲームのコメンタリーを7周くらいして丸暗記した方が役立つ気がします(笑)

これだけの傑作を作るような世界最高レベルの能力の方たちでも一回では正解に辿り着いておらず、トライ&エラーこそが正しい道だ、というのは勇気づけられる部分があります。ただ、そのフィードバックをどのように改善するかというのはメチャクチャテンポが良い。エンタメの品質の精度というのはつまるところ、フィードバックからのトライ&エラーをどれだけ練りこんだかというところに尽きると思います。

P:その辺りは任天堂のやり方とも非常に近い気がしますね。

A:いかに練りこんだか、ということですよね。VRゲームはまだマーケットとして大きくないので、やはりインディ的なメーカーが短期間でリリースすることも多いんですが、Alyxはラスボス戦だけで4年間くらいひたすら作っていて、途中で構想も全く変わっているというのが非常に象徴的です。

P:VRゲームに携わっている身からすると、開発期間1年半くらいのリリースが一般的なので、本当に自分だと想像できない規模ですね。

A:コメンタリーで「これこれこんな工夫をしたから工数と予算を削減できたんだ」とかたまに言ってると「キミら予算の概念あったの!?」ってなっちゃいますね(笑)とはいえ、やはりリソースが膨大にある中でもその中で効率化とリソース配分を徹底的に追求していて、その結果として成果物のクオリティが上がるということですね。

人力・手動で作りこんでいる部分も多いですが、逆に自動生成させて省力化やなまじ手動で作るより高品質にしている箇所も非常に多い。コンバイン兵の歩行アニメーションとか顕著ですよね。あれは人力でモーションを作るよりも楽かつ高品質な結果が実現できている。

P:あと、テストプレイって「通し」じゃなくて「部屋」単位でも徹底的にやってるんです。プレイしたらわかると思いますが、このゲームは「マンション」とか「ホテル」をウロウロするシチュエーションが非常に多いんですよ。テストプレイでは部屋単位で「この部屋の仕掛けやギミックは楽しい」かどうかを検証して、評判がよかった部屋を最後に結合してホテル全体のマップにする、みたいなこともやっていたようです。

A:たしかに「小部屋の連続」みたいな箇所は非常に多かったですね。それが「先の見通せなさ」にもつながってホラーとしての精度も高めていたと思います。

アリックス・バンスという主人公について

P:Half-Lifeシリーズの従来の主人公「ゴードン・フリーマン」は無言キャラです。ところが今回のVR化された上で一番意外だったのは主人公が結構べらべら喋ることでした。

Half-Life: Alxyのタイトルにも名前が入ったAlyx Vanceは、Half-Life 2本編では24歳の女性だった。

FPSの主人公って、いわゆる「ドラクエ主人公」的な立ち位置で基本では無言・無個性とすることでプレイヤーとの一体感を高めて没入感を強くするという仕組みが一般的です。それこそHalf-Lifeシリーズのゴードン・フリーマンはその代表格なんですよね。あれは劇中に一切顔や感情表現が出てこない透明化された主人公なんですが、今回のAlyxはHalf-Life2(とその後のDLC二作)に出てきたサイドキャラクターである「アリックス・バンス(Alyx Vance)」が主人公に昇格したということもあるんですが、従来シリーズ作と異なり主人公が凄くよく喋ります。

Valveがなぜ主人公を話すタイプにしたかというと、無言型の主人公も試してみたけど、プレイヤーが「今何が起きているのか」についてこれなかった。主人公の独りごと、あるいは無線通信で「主人公はどういう状況でどういう感情になっているのか」への理解に補助線を引いています。完全に主人公が無言だと、却ってプレイヤーとキャラクターの感情が乖離してしまって、プレイヤーが傍観者みたいになってしまう、意図しない結果を産んだようです。

とはいえ、プレイヤーが思ってもいないことをペラペラ喋ってもそれはそれでキャラクターとプレイヤーが断絶するので、ピンポイントに「プレイヤーもこの状況ならこう思うだろう」というようなことを言わせている感じですね。暗いトンネルに入ったら「ちょっと前が見えなくて…不気味ね」とか巨大なゲートの前で「なんて大きなゲートなの…」と、基本的にはプレイヤーの代弁に徹するように調整されてます。

A:「最大公約数」的なセリフを喋らせることで、却ってプレイヤーとキャラクターを一体化させるアプローチですね。実際に上手く機能していたと思います。

P:プラスアルファの”余計な”情報についてはプレイヤーの相棒役のラッセルというキャラがずっと話しかけていて、そちらに任せてるという形ですね。

Half-Life: Alyxで初登場するラッセルは主人公に無線越しで話しかけ続ける心強いパートナーだが、電波接続の悪い場所に入るとすぐ通信不能になってしまうのが玉に瑕。

A:無線もなくアリックスもずっと無言だったら結構寂しい印象ですね。長いキャンペーンで一言も主人公が喋らないというの、VRゲームだと特に「息詰まる」印象がありますね。

今回は先ほど言ったように2の相棒のアリックスという女性キャラが主人公なんですけど、結構最初は困惑があったんです。Half-Lifeの1・2の主人公のゴードン・フリーマンは無個性は無個性なんですけど極めてアイコニックな『シリーズの顔』というキャラなので「ゴードンじゃないの?」というリアクションが私含めて結構漂っていたと思うんですけど、ゴードンが主人公だとどうしてもエピソード2の続きから逃れられないので(笑)(※注釈:ビデオゲーム史上最悪とも呼ばれる『Half-Life 2: Episode Two』のクリフハンガー。結局三部作の予定だったEpisodeシリーズは2作目で凍結した。)、あえて主人公も変えて前日譚にして成功でした。

P:コメンタリーを見てると、ストーリーをどうするかはかなりギリギリまでブレていたようです。それと、ゴードン・フリーマンが主役だと伝説の戦士たる本人が強すぎてホラーとしての怖さがなくなりますよね。アリックスだと明確な戦闘経験やサバイバル経験のない19才の女性を主人公にすることで、サバイバルホラーとしての緊張感を全面に出せたと思います。

A:それはそれとしてアレックスもめちゃくちゃ強かったですね(笑)訳の分からない注射を躊躇なくブスブス挿しては体力を回復して突き進んでいくのはゴードンよりタフかもしれません(笑)

VRゲームとしてやってみると、いかにゴードン・フリーマン(≒普通のFPSの主人公)がバケモノじみたスペックなのかわかりますよね。ハザードスーツっていうパワードスーツを着ているにしても、十数種の武器を同時に担いで持ち歩き、レーザーサイトもないのに腰だめでバシバシ銃撃を当ててバニーホップやストレイフで超高速移動をしていく(笑)

P:DOOM VFR(2017年発売)というDOOM 2016(1994年から続くFPSの元祖シリーズ「DOOM」の2016年版)のVRスピンオフ版もあるんですが、あれの主人公も本編のドゥームスレイヤー(沈黙系主人公の代表格その二。ニンジャスレイヤーくらい強い)ではない、別人の喋る主人公でした。そう考えるとVRが主人公を喋らせるタイプに舵を切ったのは示唆的です。ドラクエ型の沈黙主人公より、癖のないことを言わせるのが最適かもしれません。

A:あと、エンディングが本当によかったんですよ!こんなに燃えるエンディングは、ゲーム人生で一番かもしれません。ラストカットが最高。(記事版では流石に大ネタバレなので割愛)

P:エンディング、ほんっっとうに良かったですよねえ…

シリーズ初の成長要素

P:先ほども語りましたけど、今回は収集要素・成長要素があるので、過去作とはだいぶ毛色が異なりますよね。過去作は基本的には成長要素はなくて、新しいエリアでのギミックに対応するために武器を入手したり、後は武器そのものに関するちょっとした入手シークエンスがあったりとしてエリアを進むごとに武器が増えていく。ただ結構武器・弾薬ともに中盤以降はダダ余りすることも多い印象でした。

A:今作は武器もかなり少なくて、ピストルが初期装備、ショットガンは比較的序盤に手に入りますが、サブマシンガンはゲームの後半2/3くらいでようやく入手という感じで、それで打ち止め。新武器の入手よりも個別武器の強化で少しずつこちらの性能をスケールアップさせていますね。本格的なRPG要素というほどではありませんが。

で、こうしたバランスには二つの目的があって、まず一つは先ほど話したように、プレイヤーのマネジメント要素を減らすこと。もう一つが、マップの探索に報酬を与えることです。

P:本作のVR空間が非常に出来がいいこともあって、プレイヤーは何も報酬がなくても戸棚の中やベッドの下とかを探す傾向があったので、それなら折角だしご褒美を上げよう…ということで報酬トークンが配置されたという形です。

A:弾薬とかはその時のプレイヤーの状況や腕前に合わせて自動生成配置されるんですけど、この強化トークンは固定位置に手動で配置されていまして、結構気の利いた場所やミニパズルとセットで配置されているのでこれの獲得も非常に楽しいですね。ゼルダBOTWのコログのような快感があります。

P:これを探すだけで本当に楽しいですよね。ゲームのプレイ時間として、戦闘時間よりもキャビネットを漁ったり段ボール箱を開けたりといった方が長いくらい。で、そのご褒美としての武器強化が、性能アップも勿論なんですけど、外見にも強化がダイレクトに反映されてどんどんゴツくなっていく。最初はシンプルなピストルだったのがレーザーサイトが付き強化マガジンが付き…とアリックス本人も言及するんですが、最初の原型を留めない形まで強化されていく。銃はずっと持っている訳なので、これがカッコよくなっていくのは満足感が大きいです。

アイテムを取るだけで面白い”グラビティグローブ”

A:そして、今作で欠かせない装備がグラビティグローブです。Half-Lifeというと2のグラビティガンが有名ですが、これは全く別物で「アイテムを引き寄せる」という性質のものです。簡単にいうと、「小物をイチイチVRで手を伸ばして腰を屈めて取りにいくのはダルいので、サイコキネシスで引っ張れるようにしたよ」というものなんですけど、これの手触りが本当にたまらない。

本作の第二の主人公と言っても差し支えのない、主人公の両手。左手のハートマークが体力、水色の枠が残弾数や合成樹脂の数をカウントしてくれる。

P:実際の動きを説明すると、手を前に構えて、アイテムを引き寄せるように手首をスナップするとアイテムが飛んでくるので、タイミングよくキャッチします。これがめちゃくちゃ気持ちいい。類似のシステムはVRゲームだと結構導入されていて、Boneworksでも似たようなシステムがあるのですが、それらは選んだ瞬間に手の中にヒュッと飛び込んでくるんです。グラビティグローブはこれらよりも作業工程はむしろ多いのですが、敢えてプレイヤーの仕事を増やすことで、キャッチボール的な身体感覚に基づいた楽しさが生まれる。UIの利便性と楽しさを両立させるValveらしさがここに極まれりって感じです。

A:スナイパーエリートVRとか、下手に真似したゲームもあるけど全然楽しくないんですよね。Valveの徹底した技術と調整ありきのシステムだなと感じました。磨き上げ方が全然違う。単に真っ直ぐ飛んでくるんじゃなくて放物線だったり、遠くのものは早く、近くのものはゆっくり飛んでくるといった感じだったり、キャッチ判定をだいぶ甘くしたりで、プレイヤーが気持ちよく飛んできたものをパシっと掴みとれるための練りこみが凄い。

Half-Life: Alyxのちょっと気になる部分

A:ここまで本当に褒め散らかしていて、まあ実際褒める要素しかないんですけど、ちょっと気になったところも敢えて言うと、ホテル北極星(Hotel Northern Star)のチャプターは少し長いですよね(笑)

P:ホテル北極星というのはそういう名前のホテルを通過するっていうシークエンスがあるんですけど、中はエイリアン細胞や取り込まれた人間の死体とかイヤ系のもので埋め尽くされているんですけどこのシークエンスがかなり長いので、終わって出てくると「久々にシャバの空気を吸ったな…」という感じがありますね。

筆者の知り合いにも「ホテルのステージが不気味すぎて挫折した」というプレイヤーがいなくもないし、本当に思ったよりも長く続くステージである。

A:そこまでも地下鉄を通ってきたので、もうすこし開放感のあるステージを挟んでもよかったかな、というのはあります。サバイバルホラーとしては正解なので痛し痒しではありますが。

あとこれは完全に感覚論なんですけど、ストライダーっていう大型の歩行戦車と最終盤に闘うんですが、コメンタリーだと「めちゃくちゃ力を入れました!」みたいな感じなんですけど、ここはそこまで圧倒的には感動しなかったです。ちょっと取って付けた感があったり、途中で使う固定砲台も「操作ミスが起こりやすいので頑張って調整した」的なことを言うんですけど、それでもやりづらい面はある。最後まで苦労した感が伝わってきました。

P:そうですね、ストライダーのAIもかなり力を入れているっぽいんですけど、かなり追い回されて余裕がないというシチュエーションも含めて、そこに余り意識が向かないですよね。こうした演出優先でスクリプト中心のリニアなシチュエーションは、Call of Dutyとかの方が得意な分野なのでValveがそこを真似してもしょうがないって感じはありますよね。

A:Valveの神がかり的要素は、地味な部分の作りこみです。派手でエピックなシーンよりも普通に遊んでいる時の方が面白い。Valveの本質は淡々としたリアリズムなんですよね。なのでまあ派手なシーンだったり、大げさなボスバトルといった部分はあまり得意でない気がします。

P:それと個人的な不満というか物足りなさは、Half-Life2だとグラビティガンが象徴的な武器だったんですが、本作のグラビティグローブはあくまでユーティリティ程度で、もっと強烈な武器を使ってみたかった。まあサバイバルホラーなのでそこまで強い武器が活躍しすぎてもよくないんですが、終盤でグラビティグローブがイベントで強化されるじゃないですか。あそこなんかももっとド派手に強くなっても良かったのかな…とは思いました。

A:完成されたゲームなんですが、それこそサブマシンガンのあとにもう一個くらい、面白機能を持ったスーパーウェポンがあってもよかったかもしれませんね。

P:このゲームは親切心でプレイヤーの行動にガチガチの制限をかけているので、自由な遊びの幅としては狭いです。武器の中にも打撃系の武器は一切無くて、Half-Lifeシリーズにはシリーズを象徴する武器でバールがあるんですが、それがリストラされています。理由は明快で、VRゲームでの打撃って、殴ることは出来ても殴った感覚のフィードバックが一切無いので気持ち悪いんですよ。なので、物理的にはオブジェクトは全部持ったり動かせたりできるんだけど、それを使って叩いたり投げたりして敵を攻撃することはできない。

A:引き算で作られたゲームなので、それが出来ちゃうとサバイバルホラーとしての弾丸リソース管理も無意味になっちゃいますしね。

P:その通りです。ネットだと車のドアで銃弾を防げた!とか飛び掛かってくるヘッドクラブを椅子で払いのけた!とかのような、ちょっとした物理演算スーパープレイみたいな動画の方が話題になりやすいんですが、そうしたプレイが普通に起きるかというと、狙わないとあんまり起きないので、ゲームの本質とはちょっとズレちゃってますね。

A:椅子でぶん殴ってもダメージ判定は入ってないわけですし…まあそれはしょうがない、Valveがそうしたバランスにしているということはそれが正解ということなんです、しょうがない。Valveがそうしているということには全てそうするだけの理由があってそれが正解なんです、あのValveがやっていることなので……ということで、本日のオチ担当のBoneworks先生にお越しいただきました。

VR界の問題児ことBoneworks

A:BoneworksはHalf-Life: Alyxよりも四か月前くらいの2019年12月に発売されたVRシューターで、どんなVRゲームかというと、とにかく自由です。Alyxがガチガチの誘導と制限によって計算されつくしたゲームプレイを提供するのに対して、Boneworksはゲーム内世界のことは物理演算と(出来の良くない、ほぼほぼラグドールの)敵AIに任せて、あとはもう全部プレイヤーがやりたいとうにできるというゲームなんですね。

必ずしもオープンワールドとかフリーミッションではなくて、ゲーム進行自体は一本道のリニアなステージを戦闘とミニパズルを乗り越えながら進んでいくというゲームなんですが、そのアプローチが完全に自由という感じです。

P:プレイ動画やスクリーンショットを見てもらうと、Half-Life2やPortalの影響をモロに受けてます。Valveめちゃくちゃ好きな連中が集まって作ってるのが露骨なゲームです。で、どんなに自由かというと、例えば敵がいる時にその辺のブラウン管テレビを使って敵をぶん殴っても当然良いし、その辺りにある柱や壁の突起を掴んで、ミニパズルを無視して進行してもいい。銃弾には物理モーメントがちゃんと設定されているので、銃弾を使ってボタンを押したり、オブジェクトを動かすこともできます。

A:イマ―シブシムっぽい感じですね。もちろんAlyxのようにプレイヤーを支配する抑圧的なValve圧政下にあるゲームではないので「打撃?いいよ、好きな鈍器をつかってね、斬撃?ナイフからグレートソードまで好きなものを持っていきなさい!ピストル?カッコいいよね、二丁拳銃なんてどうだ?」という寛容さがあります。ここで二丁拳銃を使うとですね、なぜ現実の戦闘で二丁拳銃が使われないかという極めてシンプルで明確な理由(①リロードが出来ない②これで当たる訳がねえだろう)という答えに辿り着けるという意味でも極めて示唆的なゲームであります。一言でまとめるとバカが作ったゲームなんですよね(笑)

P:Alyxが「いかにVR内でプレイヤーが快適にゲームに集中できるか」という思想だとしたら、Boneworksは「うるせえ折角VRなんだから思いついた要素全部詰め込むぞ、何、問題?我慢しろ」という思想ですね。

A:もちろん移動も、酔いを考慮したテレポート移動のような軟弱なものはなく、ヌルヌルフリームーブです。酔わないのかって?酔いを考慮してないんだから酔うに決まってるじゃないですか、当たり前の事聞かないでくださいよ(笑)

わざわざゲームの中にVR博物館みたいな要素がメタ的にあって、そこに「VR黎明期は酔いとかいう軟弱な発想を考慮してテレポート移動とかいう訳の分からない甘えが一般的だった」…みたいな煽り方をゲーム中にしてますからね。当然ながら動く足場とかも大量に出てきます。酔います。

P:いいですよね、VRとしての問題を一切考慮せずに、その代わりにVRでできることは全て可能とする。こうした自由に自由を重ねたゲームがあることは本当に素晴らしいです。

A:ここでいう自由とは「豚肉を生で食べてもいい」とか「真っ赤になったストーブを素手で触ってもいい」という意味でもありますね。私、VRヘッドセットを買う前にぱソんこさんに「VRに慣れてない時にいきなりBoneworksやったら多分VR嫌いになります」って言われましたが、本当にその通りだと思いました。

P:わざわざバールを入れてくるValveリスペクトも馬鹿っぽくて嫌いになれないですし、Alyxと対象的に銃弾もジャブジャブに手に入るところも笑えます。

A:ちなみにPCゲームなので、もちろんMODも入れ放題です。ジョンウィック風のMODなんかもあって、ジョン・ウィックのような格闘が出来ます。どうやるんだということでsteamのコミュニティガイドを見にいくと、ようするに「ジョン・ウィックみたいに動け。できるだろ?できないなら練習しろ」というようなことが書いてある。荒野のメキシコですが、そうした無法者の気風も含めて嫌いになれないですね。

P:Alyxはプレイヤーに合わせて徹底的にゲームを調整しているのですが、Boneworksはゲーム側にプレイヤーが全てを合わせてあげる必要がある。その代わりになんでもできる。ゲーム内の挙動と人体の挙動が噛み合ってないのも当然プレイヤーが悪いんですよ、こちらが合わせればいいだけなので。

A:ゲーム中に当然ながら、プレイヤーの人体が全て物理的な実態を持って存在しているので、クライミングしてるときとかプレイヤーの手足や胴体が干渉して大変なことになるんですよね。これも当然「え?チミ現実世界で手足が人体すり抜けるかね?そんなハンパなVR体験求めてないでしょ?」というゲーム側の声なき声がするので、こちらとしてはもうアッハイとしかリアクションとれないですよね。恐ろしいゲームなので皆さん是非一度体験していただきたい。

P:ただ、現時点でも英語しか対応していないので日本語にローカライズされるかは怪しいですね。そこは祈るしかなさそうです。基本VRゲームの対応言語が英語だけのものはけっこうあるので……

A:ストーリーはまったく意味が分からないです。PCでも非ローカライズかつ字幕なしということもあるんですが、それを差し引いても多分ちょっと難解なシナリオですよね。

P:海外のWikiも見た情報によると、主人公はメタバースの仕事をしているエンジニアの企業スパイなんですが、そこで仮想世界の重大な秘密を知ってしまったせいで現実世界の肉体が狙われている…みたいな感じになるんですが、まあストーリーが重要なゲームではないので言っちゃいますが最後は現実の肉体は死んじゃうんですが、プレイヤーの意識はVR世界に残り続ける…という流れです。

A:SUPERHOT VRもそんな感じですよね。

おまけ:SUPERHOT VRとVR固有の表現の問題

P:Superhot VRのストーリーも現実世界で死ぬけどVRゲーム内には意識が残る…みたいな感じで完全に被ってます。やっぱりVRゲームでどうオチを付けるかっていうところで、VRゲーム内でVRゲームをプレイしているようなメタ展開はお決まりになりつつありますし、今後もチョロチョロと出てくると思います。

A:やっぱりVR内の主人公と現実のプレイヤーの境界侵犯っていうのはストーリーとして使いやすいのかなと思いますよね。

P:そうですね。似たようなのをもう一つ上げると『Virtual Virtual Reality』です。

A:アレもそんな感じですね。私はそこまで高くは評価していませんが……

P:私も2018年のVR元年(注:2016年から2022年までは毎年VR元年)にこれが体験できたということ自体に感動しているので、今プレイすると少し感想が違うかもしれません。出オチとまではいきませんが。virtual virtual realityはVRでポータルとstanley parableを合体させたようなメタフィクションパズルアドベンチャーゲームという感じですね。ポータルほどパズルが凝っていたりstanley parableほど徹底した「先回り」をしている訳ではないのであくまで雰囲気ですが。

A:ここでもPortalですね(笑)

P:やはり向こうの人Portal大好きなんだなって感じですね。

A:今話が出ていたSUPERHOT VRはBoneworksと完全に対象的なゲームで、手持ちの武器は一つまで、移動すら不可と超割り切ったゲームですけど、これはこれで今のVRゲームだとベストの作品だと思います。

P:実際にVRゲームで一番売れたゲームはというと言わずもがなのbeat saberなんですが、SUPERHOT VRは二番目の売上のVRゲーム(2022年10月現在)ですね。

A:そんなに売れてるんですか!?

P:SUPERHOT VRは非VR版(通常版)の売上を超えてるんですよ。

A:自分は当初は「プレイヤーが移動できないのは致命的だな…」と思いつつプレイしてみたんですが、アレは単にSUPERHOTをVR化したというよりも、SUPERHOT体験の完成形だなと思いました。その一方で、ストーリー上の自殺描写を削除したことでプチ炎上してましたよね、アレは残念。

P:そうですね、ちょっと残念ではあるんですけど、開発元がそう思うなら…という気持ちもあり。とはいえ、その部分はストーリーの根幹なので釈然としない部分も残ります。ビデオゲームって言ってしまえば「能動的な他殺が許容される」エンターテインメントですが、VRゲームだと自傷行為、自分の頭に向かって拳銃の引き金を引くとか、そういった描写が使いやすい部分はあります。

ただ、自殺という人間が一番やりにくいことをVRでいくらでも体験できるという部分に拒絶反応が出るのは仕方ないかもしれない。それはそれでジャンプアクションゲームで飛び降りるのを自殺シミュレーターと言われると「それを言われたらおしまいなんだけど、否定はできないな」という解決できない問題もあるので、線引きが難しい部分はあるのですが……

A:難しい部分ですね。私はSUPERHOT VRのエンディングの自殺演出削除後にやってから、削除前の演出をネットで確認したんですが、やはりなんというか「目黒のさんま」で旨味が抜けきってしまったさんまのような物足りなさがありましたね。とはいえゲーム本編は文句無しの大傑作なので、画竜点睛という程度です。

(その後もHalf-Life Alyxとはもはや関係ないVRゲームよもやま話は連なり、夜は更けていく…)

あとがき

ぱソんこ:すでにこのTwitterのSpaceを実施したのが2022年1月、この文字起こし記事が完成したのが2022年10月と途方もない時間がかかってしまったのは「文字起こしがめんどくさいので自動文字起こしを使ってみたものの、それでも編集が大分めんどくさい」とそれに対する解決方法を用意できなかった自分の責任です。幸いにもアロハ天狗さんに大幅に助けていただき、無事公開にこぎつけることができました。感謝してもしきれません。

Spaceの収録から記事の公開までの9ヶ月の間に『Boneworks』の続編である『Bonelab』がリリースされて記録的なヒットを飛ばし、有志による『Half-Life 2』全編VR化MODがSteamで公式にリリースされました。日本におけるVRゲームはMeta Quest 2の大幅値上げによって手厳しい状況にはありますが、TGS2022でMetaやPicoなどVRプラットフォームが存在感をアピールするなど着実に変わりつつあります。今後もVRゲームの情報をゲームライターとして届けつつ、VRゲームの開発者としても提案できればと思います。

アロハ天狗:ぱソんこさんに段取りから録音・自動文字起こしのセッティングと面倒な部分を一通りやっていただいたので、私は喋ったり書いたりと楽しい部分のみを担当してしまいました。改めてお礼申し上げます。

Spaceの収録から記事の公開までの9ヶ月の間にVRゲームをゴリゴリやったかというとResit(サイバーオープンワールド管理都市を…レジスタンスになり…スパイダーマンスタイルのグラップリング・スイングで飛び回り…二丁拳銃で…敵の巨大歩行戦車と戦い…それを、VRで!!!というバカの考えた理想のゲーム。ゲボクソ酔う以外は最高)くらいしかやっておりませんが、PSVR2にAlyx移植という話も現実味を帯びてきました。Alyxはあと3年くらいは『未来のゲーム』のポジションにいるはずですので、本記事をきっかけにこの衝撃的で感動的なゲーム体験に触れる人が一人でもいてくれれば、この上ない喜びです。わたしはバイオ4VRにそろそろ手をつけようと思います。

Half-Life: Alyxはこちらのリンクから購入可能です


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ぱソんこ
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