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光害関連ニュースまとめ 2024年12月

2024年12月の光害関連ニュースです。今回はヘビーな話題もあって少し時間がかかってしまいました。衛星コンステレーションによる光害について、経団連は経済活動を守るために過度な規制をすべきでない、といい、一方で先住民の観点では天体も含めた宇宙空間そのものを尊重して持続可能性を議論するべき、というまったく反対の考え方の記事を偶然にも同じタイミングで紹介することになりました。


地上の光害に関するニュース

環境省令和6年度冬の星空観察について

2024年12月2日に環境省から発表されたもの。環境省は肉眼とデジタルカメラを使った夜空の明るさ測定を毎年夏と冬に呼び掛けています。今年度の冬のデジタルカメラによる調査期間は2025年1月20 日~ 2月2日。日没後1時間半~3時間半の間に、標準レンズで天頂方向を撮影したデータを提出することになります。寒さ対策をしっかりしつつ、私も撮影して参加する予定です。自分の住んでいるあたりの夜の暗さはどれくらいか、他の地域と比べてみてどうかなど、参加してみて初めて気づくこともあると思います。お時間と機材があれば、ぜひ参加してみてください。

環境省令和6年度夏の星空観察:調査結果

同じく2024年12月2日に環境省が発表したもの。2024年8月から9月にかけて実施された夏の夜空の明るさ調査の結果がまとめられています。有効データ数471件、天の川が見やすいと考えられる20等級/平方秒以上であったのは86地点とのこと。調査結果についてはいつも別記事として投稿していますので、今回も詳細についてはまた改めてご紹介します。

満天の星空鑑賞を蓄光がエスコート。 星空保護区®登録へ向け、最新技術がサポート

2025年12月5日付で株式会社humorousが発表したプレスリリース。千葉県南房総市主催の星空観察会で、電気を使った照明器具ではなく蓄光素材を使った装置の試用が行われたことを伝えています。南房総市和田町上区の星空保護区への認定を目指す動きがあるそうで、その星空を多くの人に体験してもらうための星空観察会だったようです。夜間照明は安全確保などのために重要ですが、蓄光素材でその目的が達成できるのであれば、効果のある場所だけでも置き換えられれば光害の低減につながりそうです。蓄光発光の継続時間や明るさはよくわかりませんので、こうして試用してその効果を確認するのは重要ですね。

滋賀県多賀町「小中学生による星空調査」第9回レポート

2024年12月5日にアストロアーツのウェブサイトに掲載された記事。滋賀県多賀町では2010年から2年に1度、夏の大三角の周辺に見える星を調べることで夜空の明るさの調査が行われているとのこと。今回は2024年夏の結果が紹介されています。336名の児童生徒が参加して、有効データは631件。琵琶湖の東にある同市内の20か所に分けて結果が取りまとめられています。こういう地道な測定は大変すばらしいですね。

結果は「平均限界等級」という数値で示されていて、最も明るいところで3.9等、最も暗いところで4.3等とのこと。町としては西に彦根があり、東側は山間部という地形ですが、夜空の明るさについては町内でそれほど顕著な違いは見られないようですね。報告では「谷状の地形の集落の中で街灯の影響により暗い星が見づらいことも感じられます」ともあり、街灯の光が直接目に入るところで観察してしまっているのか、それとも集落に街灯がたくさんあって光害があるということなのか、すこし判断がつきません。可能なら、街灯の光が目に入らない場所で調査できると空の本当の明るさが調べられるでしょう。

10年の推移グラフがあり、「年ごとに暗い星が見えるようになってきている傾向がうかがえます」と説明があります。が、全体の変化が0.1等級分しかないので、これが有意な変化であるか誤差の範囲かこのグラフだけでは判断しきれません。測定全体のばらつきをもとに誤差範囲が明示してみるとよさそうですね。

夜間の⼈⼯光がハエの繁殖を後押し? 〜都市の明るさはハエの成⻑や繁殖に多様な影響を与える〜

2024年12月10日に千葉大学から出されたプレスリリースです。都市に住むオウトウショウジョウバエと郊外に住む同種のハエの2つの系統を、夜間照明のある環境と弱い照明の環境で飼育して比較した結果が報告されています。どちらの系統でも、夜間光を受ける環境で飼育されると体が小さくなり、雄の求愛行動が減衰する一方で雌の産卵数は2倍以上に増加することが報告されています。また、都市系統のハエは夜間⼈⼯光の影響を受けにくいということも明らかにされました。これは夜間光に適応しつつあるということなのでしょうかね。過剰な夜間人工光は星を見えにくくするだけでなく、周囲の動植物にも影響を与えます。こうした研究を丁寧に重ねることで夜間光の影響を明確にし、科学的根拠を持って光害の抑制につなげたいものです。

「星空保護区」認定願う 南房総・和田町上区 生徒ら対象に授業

2024年12月11日に東京新聞に掲載された記事。上の蓄光素材の話題でも触れた千葉県南房総市で、光害に関する授業が行われたことが報告されています。講師はダークスカイ・ジャパン代表の越智信彰 東洋大学准教授。南房総の話ではありませんが、星空保護区を目指す活動の中で「星空が見えて何になるの?」「夜は明るい方がいいんじゃないの?」という声が住民から上がったことがあり、そんなときには光害を防止する意義をきちんと学んで理解している子どもたちや若者たちの声が非常に重要だった、という実例を聞いたことがあります。南房総市での活動がどのように進んでいるか私は直接は把握していませんが、若者だけでなく様々な人たちがその意義を理解したうえで行政も一緒に動いて行ってもらえたらなと思っています。

見たくないすべての光

https://www.washingtonpost.com/opinions/interactive/2024/light-pollution-health-problems-birds-pollinators/

2024年12月11日にワシントンポストに掲載されたオピニオン記事。原題は"All the light we would rather not see"。星が見えなくなるだけでなく人の健康や生態系に影響を与えること、そしてそれを防ぐためにできることがあると述べています。また、光害を起こしにくい、質の高い照明がどのようなものであるか、シンプルなイラストで示してくれているのもよいですね。

この記事の中に、光害軽減につながる法律がある米国の19の州の情報が出ていました。アリゾナ州では一部の例外を除いて一定以上の明るさの屋外照明器具には必ず笠をつけることを求める法律があります。またデラウェア州では、光害を低減しない照明は州のお金での設置を禁ずる法律があります。アリゾナやハワイなどの天文学観測が盛んな州以外にも法律がしっかりあるのは少し意外でした。


中国で「星空経済」が勃興中、現地施設の開発は「まだ大きな余地あり」

2024年12月18日にRecord Chinaに掲載された記事。中国での星空観光の目的地となりうる場所がどんどんできていて、「星空経済」が盛り上がりつつあるそうです。「中国気象サービス協会」の報告書をもとにしているようで、光害に注意を喚起する記述もあるとか。無秩序な開発一辺倒ではなく、その地の環境や性質にあった目的のための開発が求められるというのは、中国だけでなく世界中どこにでも当てはまることです。

「星じゃ飯は食えん」…でも、美星町が〝星空保護区〟を目指したワケ

2024年12月21日にwithnewsに掲載された記事。11月に朝日新聞GLOBE+に掲載された光害特集の記事に岡山県井原市美星町を取り上げたものがありましたが、その際編集版といった感じの記事です。美星町が星空保護区の認定をもらうためには、特別に開発してもらった光害のない防犯灯を既存の防犯灯と取り換えるなどたいへんな手間がかかっています。光害防止条例は1989年に制定されていましたが、星空保護区認定のためにはより厳しい基準を守る必要があったためです。上に挙げた南房総の記事でも触れましたが、「星が見えて何になるのか」という疑問は星に縁遠かった人からは当然出てくるものですので、その目的と意義を地元の皆さんに理解してもらうことは重要。観光誘致のためには交通や宿泊施設など星空以外の整備も必要になります。「星で飯が食える」ようになるのはそう簡単ではないと思いますが、引き続き応援したいと思います。

東京プラネタリー☆カフェ 越智信彰さん

2024年12月21日と28日にTokyo FMで放送されたラジオ番組。星好きでも有名な篠原ともえさんがパーソナリティを務める番組で、上記の南房総の記事でも紹介したダークスカイ・ジャパン代表の越智信彰 東洋大学准教授がゲストとして2回出演されました。リンク先では、トークの内容がテキストで読めます。光害の概要、バイカル湖の星空、青ヶ島の星空、そして星空保護区の認定についてまで、幅広くお話されたようですね。光害研究のきっかけが、「自治体が光害を抑える条例を作ろうとしているが、関係者の理解が得られず頓挫している」というニュースを見て自ら調査に向かったことだそうで、まさに最初から光害と地域の関係をテーマにされて活動されていたのだなぁと感銘を受けました。

天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

スペースX、スマホと直接通信できる最初の「スターリンク」群を完成

2024年12月4日にUchuBizに掲載された記事。SpaceX社のスターリンクは既に7000機以上が打ち上げられています(参考:Starlink statistics, Jonathan's Space Pages)。そのほとんどは通信に専用のアンテナが必要なタイプですが、一部は一般的なスマートフォンと直接通信できるタイプの衛星も含まれています。現時点ではその数は400機弱。今後もその数は増えていくはずですが、この段階ですでに直接通信のための衛星群が完成したことになるようで、年末にはKDDIが窓口となって日本での携帯直接通信サービスのための免許を取得したことが発表されました。今回の通信は2 GHzを使うもので、電波天文に割り当てられている周波数で観測に悪影響は出ない見込みですが、それ以外の周波数帯での観測にどれくらい影響があるものか注視したいと思います。

また、スマホと直接通信できるスターリンク衛星は従来のものより約5倍明るいという報告も出ていますので、光の天文観測への影響も引き続き注視が必要です。


ISSから観測された謎の「宇宙ホタル」。その正体は

2024年12月10日にギズモードに掲載された記事。国際宇宙ステーションから地球の縁を撮影すると、大気層の上で移動しながら光る点がいくつも写し出されています。リンク先に動画があるのでぜひご覧ください。このnoteで取り上げていることからもわかるとおり、この点は太陽光を反射した人工衛星です。ギズモードの記事では「増える人工衛星と宇宙光害」という小見出しで天文学への影響についても触れてくれています。地上の望遠鏡だけでなく宇宙からでも人工衛星は光って見えてしまうので、ハッブル宇宙望遠鏡などの写真にも写ってしまうことが知られています。記事は「宇宙ホタルなんて、ロマンチックな存在ではないのです…。」と締められています。


スターリンクだけじゃない 中国参入で加熱する通信衛星網ビジネス

2024年12月10日にImpress Watchに掲載された記事。衛星コンステレーションの基本的な説明から各国の計画まで詳しく紹介されています。スターリンクやOneWebのような既に運用中の衛星、Amazon Kuiperや欧州のIRIS2、中国のG60(千帆)やGuowang(国網)の情報もあります。中国の動きは英語文献などでもあまり紹介されていない印象なので、貴重です。中国の3計画だけで3万機を超える衛星が打ち上げられる予定になっていて、天文学としては不安な状況が続きます。とはいえ国際的な規制を作るのもなかなか困難で…(次の記事に続く)

経団連:宇宙活動法の見直しに関する提言

経団連が2024年12月17日に出した提言。宇宙活動法の見直しに際して、特に経済団体という立ち位置からの提言がまとめられています。競争力強化保障の拡充に続いて、宇宙空間のサステナビリティ確保への配慮についても述べられています。「「光害」「デブリ」をめぐる国際的議論への対応」という章もあるので覗いてみると

こうした「光害」をめぐる影響に関する国際的な議論や、デブリ等に対する目標設定・ルール形成等の動きに対し、わが国における宇宙産業活動に過度な制約にならないよう、政府としては、引き続き、国際的な議論に積極的に関与することが求められる。

経団連 宇宙活動法の見直しに関する提言

「過度な規制にならないよう」という言い回しは、経済団体ならそう言うでしょうね、という印象です。上記リンク先の概要PDFでは「目標等設定が産業活動にとって過度な制約となることを懸念」とさらに一歩踏み込んで懸念を表明しています。明らかに後ろ向きですね。一般論として競争力確保のためには余計な規制はない方が良い、という希望があるのは理解できますが、経済的利益以外で失われるものがある可能性を認識しながら積極的な対処はしないというのは、天文学の立場としては受け入れがたいものです。「過度な制約」ではなく「適切な制約」を求めてこちらとしては活動することになるのでしょうね。

増える人工衛星 光害から星空守る議論、急務

2024年12月26日に朝日新聞デジタルに掲載された記事。これも先にあげた朝日新聞GLOBE+に掲載された一連の光害関係記事の関連記事といったところでしょう。米国キットピーク国立天文台などでの取材をもとに、衛星による光害が進んでいく様子、天文学だけではない懸念、一方でこの問題に対応する機関が存在していないことが述べられています。経団連が経済的利益の観点から提言するのはある意味当然ですが、それを踏まえたうえで記事にあった言葉を借りれば「人類全体の財産である星空をどう利用し、守るのか」が重要。できるだけたくさんの方を味方につけて議論に臨む必要があります。

先住民の権利と宇宙活動

2024年12月9日にプレプリントサーバ arXivに掲載された文書。上記の朝日新聞の記事で「先住民の人たちは、伝統的な生活や習慣と密接に結びつく星空が、人工衛星の光害で失われてしまうのなら、それは「宇宙の植民地化」だと天文学のワークショップで訴えた」とありますが、まさに先住民の観点から衛星コンステレーションの課題を論じています。著者はカナダ・ニューファンドランドメモリアル大学の天文学者Hilding Neilson氏。彼自身もカナダのファースト・ネーション(先住民)。国際天文学連合(IAU)は衛星コンステレーションから天文学を保護するためのセンター(CPS)を作っていて、その中の"Policy Hub"というグループの活動の一環としてまとめられたのがこのレポートです。

国連の「先住民族の権利に関する国際連合宣言 (Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP、リンク先は日本語訳)」の文脈にも触れながら、宇宙空間での活動に関する先住民の権利宇宙空間での活動に関する新しいルール作りにおける植民地主義的でない方法の必要性、そして先住民の方法論がどのような新しいルールを可能にするかについて述べることを主眼としています。

  • 先住民の多くは、自らのルーツを星の世界に結び付けるなど夜空と深い関係を保って生きてきた。光害や衛星の反射光によって先住民の同意なく夜空が変えられてしまうことは、先住民の権利を無視したものである

  • 打ち上げ場が先住民の土地に作られることも多いが、先住民への同意や経済的補償も無いことがある。打ち上げに伴う騒音や汚染もある。

  • 例えば自らが星の世界から来たとする先住民も宇宙空間の「ユーザー」であり、月などの天体も含めてUNDRIPで定義する"先住民の領域"に含まれる。このためルール作りには先住民も参加する権利がある。

と述べたうえで、国連や関係国にルールメイキングのための先住民を含めることが必須であると訴えています。また、持続可能性の名の下で行われる事業が先住民を圧迫することで成り立ってきたことも指摘しています。確かにそれは持続可能ではないですね。現在の宇宙条約や月開発に関わるアルテミス合意は「どのように宇宙空間を利用するか」という観点で書かれてあり、「宇宙空間に対する我々の責任」の認識が欠けていること、「人間がヒエラルキーの頂点にいて環境は利用するためにある」という西洋的な見方は動植物とともに生きる先住民の見方とは対極にあるとも書かれています。そして「先住民の方法論」、すなわち自然界のすべてを尊重するという考え方に立った議論をする必要がある、と結んでいます。

十分かみ砕いて理解できない箇所もありましたが、大変示唆に富む文書でした。少し話は違いますが、私は環境保護の観点から火星のテラフォーミングには反対の立場です。だれも住んでないんだから火星の環境を壊してもいいじゃない、という考えがあることも理解できますが、それに納得できない私の感情はNeilson氏が言う先住民的な考え方に沿うものかなと思います。

colonization (植民地化), genocide (大量虐殺), assimilation (同化)という強い言葉が何度も出てきますが、これまでの天文学コミュニティに対しても以下のように強い批判をしています。

There is some irony to the astronomy committee advocating for Indigenous voices in the discussion of building a framework for sharing outer space while preferring new observatories over respecting Indigenous rights.
天文学の委員会が、宇宙空間を共有する枠組み作りの議論において先住民の声を擁護する一方で、先住民の権利を尊重することよりも新しい天文台建設を進めることは皮肉である。

Nelson (2024), Overview of Indigenous rights and outer space for the IAU-CPS Policy Hub

都合のいい時だけ先住民を持ち出すな、という怒りが感じられます。全くその通り。


電波天文学の観測環境に関するニュース

SKA-Lowプロトタイプを用いた全天多周波サーベイによる衛星の検出

2024年12月19日に論文プレプリントサーバ arXivに投稿されたレポート。現在オーストラリアには50-350 MHzの周波数帯を観測する高感度な電波望遠鏡SKA-Lowが建設されています。一方で電波を発する人工衛星の数は増大の一歩。SKA-Lowの観測に人工衛星がどれほどの影響を与えるか、西オーストラリアに建設された2つのプロトタイプ望遠鏡(Aperture Array Verification System Version 2: AAVS2, Engineering Development Array Version 2: EDA2)を使って人工衛星からの電波を観測した結果が示されています。20日間ほどの観測で検出された衛星は152機。国際電気通信連合による周波数分配で天文学に優先権がある(保護されている)周波数帯では強い信号は検出されていないようでした。それ以外の周波数帯では、運用を終えたはずの人工衛星からの電波や、人工衛星本体から漏れ出している電波、地上のテレビ局電波が飛行機に反射されたものなど、様々な電波が検出されたようです。今回の観測は、公開されている軌道情報と照合してデータから天文観測に不要な信号を除去するシステムのテストでもあります。人工衛星の数は今後もどんどん増えていくため、特に低い周波数帯の電波観測の困難も増していくことでしょう。

ヘッダのイラストはDALL-E 3 (Microsoft Bing Image Creator)によるものです。

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