縄文人に見る “祈りと感謝” の精神文化〜その2〜
執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰
土器の発明・制作・利用の歴史が、縄文文明発展への引き金となった。
縄文土器の多くは、飾って眺めるためにつくられたものではない。土器の内外面には、しばしば食物の残り滓が焦げついて薄膜状に付着し、煤の付着あるいは火熱による二次的な変色が底部に見られる。つまり縄文土器は、容器の形態をしてはいるが、たんなる食物などを一時的、あるいは長期的に蓄えたりするものではなく、ほとんどすべてが食物の煮炊き用に使用されていたことを物語っている。
食物は、「生で食べる、焼いて食べる、そして煮て食べる」の三種の調理法に区分される。これらは食物の摂取方法だけではなく、社会学的、呪術的意味のうえで重要な特色と意義があるとレヴィ・ストロースは、彼の著書「料理の三角形」で、この問題を論じている。土器との関係で問題となるのは煮炊き料理であり、そもそも自然界にある食料は、火を通さずに口にできるものは限られている。植物性の多くは生食には適さず火熱を通してはじめて食物となるものが多い。
トチの実やドングリ類がやがて縄文人の主食の一つに格付けされ食糧事情が安定するのは、まさに土器による加熱処理のお陰である。煮炊き料理によって植物食のリストが大幅に増加し、動物性蛋白質の摂取に偏っていた食生活のバランスは栄養学的にも向上したのである。日本列島の各地の縄文遺跡で出土される食用植物の遺存体は60種ほどであるが、未出土ではあるが食していたに違いないウド、タラの芽、ワラビなどの多数を加えるとすれば、300種類をはるかに超える数になると思われる。
「縄文人に学ぶ」を著した上田篤氏によれば、縄文人は、今日、私たちがいう<旬>をすでに意識していたという。東日本では、春にはイワシ、ニシンが盛りを迎える。夏になると本格的な魚のシーズンで沿岸各地ではアジ、サバ、クロダイ等が獲れ、秋にはサケが遡上し、里山では木の実のシーズンとなり、クリ、クルミ等が収穫を迎える。冬になればキジ、カモ、それにイノシシ、シカ狩りが本番を迎え、年を越せばワラビ、クズ、ゼンマイなどの若葉、若芽、根菜の採集が始まる・・・。縄文社会が大陸における農業を基盤とする農耕・牧畜社会に劣ることなく、堂々と肩を並べるほどの文明文化の充実をはかることができたのは、自然の恵に富んだ四季折々の風土環境と、縄文土器の発明と煮炊き料理の普及にあったといっても過言ではない。
煮炊き料理の名残は、今日、「鍋料理」として、現代日本社会の食文化として深く根付いている。狩猟・漁労・採取の三本柱を基盤とする世界でも類を見ない自然循環型の縄文文明の絶大なる歴史的意義は、もっと高く評価されてしかるべきではないだろうか。(つづく)
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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】
◎立命館大学 産業社会学部卒
1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
1990年、株式会社 JCN研究所を設立
1993年、株式会社CSK関連会社
日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
マーケティング顧問契約を締結
※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。
◎〈作成論文&レポート〉
・「マトリックス・マネージメント」
・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
・「コンピュータの中の日本語」
・「新・遺伝的アルゴリズム論」
・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
・「人間と夢」 等
◎〈開発システム〉
・コンピュータにおける日本語処理機能としての
カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
・TAO時計装置
◎〈出願特許〉
・「カナ漢字自動置換システム」
・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
計測表示できるTAO時計装置」
・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等
◎〈取得特許〉
「TAO時計装置」(米国特許)、
「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等