見出し画像

【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㊼ 山口 斯 『閑』(京都府)

COLLECTIVE もいよいよ佳境ですね。60を超えたタイトルが会場中に並んでいます。これが、来週で終わるなんて、あまり信じられない。作品の数だけ、とてもパーソナルな青い感情が、種火みたいに燻ってる。本屋では、スルーされてしまうかもしれない、個人的な思いが、パークという場所でクロスオーバーする。消費欲求とは無関係な、能動的な ZINE FUN たちの手に渡ってゆく。ZINE という媒体じゃあなくても、COLLECTIVE 的なスキームはこれからも大事にしたいと思います。東京以外のところに住んでいるみなさんも、今後ともパークをよろしくお願いします。東京に来た時はぜひ、とも思いますが、それぞれの地域で、それぞれの表現で、それぞれが活躍してもらうのが願い。遠く離れていても、きっとうまくいくような、そういうカルチャーのインフラにこれからはしていかないといけません。東京だからいいとか、そういう時代は終わったんです。パークは、あくまで、誰かの活動のきっかけだったり下支えになればいいなと思っています。

画像2

莨を喫するように詩を嗜んでもらいたい

今年になって、アナログに回帰したものが2つ。1つは新聞。ネットだけに頼っていたけれど、新聞を2誌取るようにした。ファクトチェックをしっかりと受けたニュースがデイリーで深く広く手に入るようになった。あと、自分の興味のあること以外の情報も目につくようになった。書き方1つで伝わり方が違うのも実感してる。メリットは情報の収集だけではない。朝のルーティンにもなるし、忙しさや気持ちをはかるバロメーターにもなる。新聞にじっくり目を通す時間がない時はあまりよいことがない。もう1つは、万年筆。PCでスマホでタイピングすれば文字・漢字が出てくる時代に、あえていろいろなものごとを、ペンで書き起こしている。やはり「書く」という行動が1つ入ると、物事のインプット、インプットした情報の定着度が明らかにちがう。常にデザイン的な美しさを意識するのもそうだし、相手にどう伝わるかな?と考える時間ができるのも、いい。少し高いけれど、ずっと使いたいなと思った。

画像4

さて、話を戻す。今回 COLLECTIVE に集まった ZINE の中にも手書きの表現のものはたくさん。ひときわ力強さ、意思というか決意というか、伝えたいというスタンス、ぬくもり、そこに流れる時間が伝わってくる。パソコンなら1分で書けるものも、10分とかかけてる。手書きは、時間が見えるから好きなんだと思う。パソコンがダメとは言わない。それぞれの魅力と、役割がある。

今日紹介する ZINE は、すごい。もはや冊子じゃない。古都・京都から届いたと聞けば納得か、山口斯さんによる ZINE『閑』は、莨(←たばこと読みます)の箱のような箱に入った、莨のような1本1本が、それ自体が1枚1枚が巻物になっている ZINE だ。帯を抜き、するすると紙をめくれば(忍術でも書いているんではないかと錯覚する)、そこには短詩や写真が詰め込まれている。1本につき1編。1本につき1枚の写真だから驚き。手の込みよう。しかも達筆。

たばこも、手巻きなんかで吸うとわかるけれど、紙を敷いて、その上に、たばこの葉っぱをちょうどいい具合に敷き詰める。火を付ける前のたばこの葉っぱには特有のいい香りが立ち込める。火をつけたあとの背徳感のある匂いとは違った、ハーブのような香りを嗅ぎながら、クルクルと小さな海苔巻きでも作るかのように、葉っぱを巻きつける。そして火をつけて、肺にたっぷり煙を吸い込み、深呼吸のようにゆっくり吐き出す。体に悪いとわかっていながらも、この一連の所作のうつくしいまでのフロウと、味わいに、ハマってしまうのだ。

画像3

「莨を喫するように詩を嗜んでもらいたい」=「たばこを吸うように詩を気軽に楽しんでほしい」という作者の企みは成功している。手巻きのたばこを吸うみたいに、筒状の紙とたわむれる。短い詩からは、莨の葉のようなくせのある香りが、する。詩を手にして、むずかしいことばづかいだなと思う人もいるかもしれない。そういうときは、次の1本、次の1本とだらしなくめくってみたりしないで、ちょっと考えてみたり、言葉を調べてみたり、一歩立ち止まるのもいいかもしれない。近くにいるひとと話してみるのもいいかもしれない。「ちょいと一服」と、休息をとるのも、その場で立ち会ったひとと、ささやかな会話を楽しむのも、莨の醍醐味ですから。

さて、改めて、ZINE としてというより、プロダクトとして工夫の詰まったすばらしい手仕事、作品です。会場じゃないとこの良さが伝わりにくいので、ぜひ、足を運んだ際は、気にしてみてください。巻物を、帯に戻せない方はスタッフまで。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


画像1

作家名:山口 斯(京都府)
景に言葉をのせる。うたうたにん。
https://yamagutikaku.wixsite.com/utautanin
【 街の魅力 】
神社と景色。
【 街のオススメ 】
莨屋 ... 情景の一部、情報の集積所。

🙋‍♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁‍♀️