よむラジオ耕耕 #21 「あなたがなりたかったものはなんですか?」
加藤:今回は悩み相談がきています。
加藤:クリエイティブなお悩み相談ですね。ありがとうございます。絵で生計をたてていきたいというひとの相談を受けることはあるんですが、そのビジョンさえを持っていないひとの相談というのははじめてですね。
星野:確かに。
加藤:この方の絵を描く『モチベーション』というのは、この方はどこにあるんだろう。ただ好きなのか。耕耕を聴いてくれているうちに(イラストレーターに)なりたいかもと思いはじめてくれたということかな。一応、Instagram でフォロワーのみなさんにアドバイスを募集してみたところ「好きなアーティストさんの投稿を参考に、発信をしてみたらどうでしょう」というものがあって、僕もそれに賛成できますね。アカウントを作って絵を載せたり、好きなアーティストをフォローしたり。
仕事にするだけが好きなことをする道ではない
星野:絵で生計をたててなくとも、絵を描くことで豊かになっているのでは。SNS での発信に限らず、たとえば、自分の絵を部屋に飾ったり、本棚にイラストでポップをつけてみるのもおもしろいかも。
加藤:毎日絵を描くのが、きっと心にいいんだろうね。好きなことが「しなきゃいけないこと」になった時に、嫌いにならなければいいけど。はたしてイラストレーターや作家になることがいいことなのかという問題もあります⋯。
星野:自分のために絵を描くことをしてほしいですね。
加藤:うーん。もうちょっと話を聴いてみたいな。作品を見せたいのか、見せたくないのか。描くだけで納得しているのか、してないのか。もし描くだけで納得しているのならば、イラストレーターなんかにならなくていいと思うんだよね。正直。イラストレーターになるって『それで食べていきたい』とか『有名になりたい』という気持ちがつき動かすことの方が大きいと思うんだよね。仕事にすることだけが絵を描くことのゴールではないということを、感じてほしいよね。
星野:実際いますしね。
加藤:それでも「イラストレーターになりたい!」というならば、この放送を聞いてもう一度相談してもらってもいいのかな。ただ、発信をしたいと思うのならば、もう発信しはじめたらいいよね。絵を PUNIO だったり PARK GALLERY だったりに持ってきてもらってもいいです。ぜひ見せてください。
星野:待ってます。
加藤:イラストレーターになるとか、絵描きとして食べていくとかの前に誰かに『見せる』って大事だと思います。僕はそのことを、『風に当てる』『風にさらす』と言っていて、外に出して見てもらうことが大事だと思っています。絵も写真も。イラストレーターになる、絵描きになるのはそのあとの話かなと。
星野:風にさらすっていいですね。
加藤:ちなみにイラストレーターを目指すのを止めたいわけではない旨をご理解いただけるとうれしいです。会社員をしながら二足の草鞋で活躍しているひともいるし、子育てをしながらという人もたくさんいます。ここで伝えたいのは、絵を描いてお金をもらうことだけが絵を描く行為のゴールだったり、幸福度の高さだとは限らないということです。それを踏まえた上で、いま、自分が耕したいことを決めて、進んでもらえたらうれしいです。
星野:まさに耕耕ですね。
加藤:何より「いますぐに決めなければいけないこと」ではないと思いますので、まわりの仲間と話してみるとか、ぼくらにまたお便りを出してみるとか、ギャラリーでいろいろな作家と話してみるとか、徐々に徐々に自分の中でかためていくことができるのかなと思います。つまり、あまり棍詰めずに、リラックスして、自分のまわりをみわたしてみてほしいというのが願いでした。
イラストレーターの報酬事情
星野:続いてのお便りです。
星野:僕も気になりますこれ。
加藤:これに関しては広告のディレクターとしてイラストレーターや写真家に依頼をする仕事をしているので答えたいと思います。この報酬というのはご存知の通りとても大事で、そのわりに曖昧になっている場合が多いんですよね。本来は頼む側も受ける側ももっと気にしないといけないことなんですけど、なかなかそうはいかない。そこで、報酬を決めるにあたってパッと思いつくいくつかのパターンかあるんで説明しますね。
というわけで、今までの主流は ① なんだけれど、最近のムーブメントとしては ③(適正価格を作家に聞く)が多いかな。コンプライアンスの視点で、まず作家の希望価格を聞く、尊重するというクライアントが増えてきているのも事実。ぼくは ② が多いです。
星野:それはいい流れですね。
加藤:うん。でも、問題なのはここからで、その時に『作家の希望』といっても、価格帯や相場をわかっていない作家さんがまだまだ多いと思うんだよね。若いクリエイターは特に。ある程度経験を重ねている作家でも、クライアントのジャンルや媒体が違うと迷うよね。今でも。あとは「高い金額を提示してしまうと仕事がこなくなってしまうのでは⋯。」という不安から、低い金額を設定してしまう作家さんがいること。
星野:なるほど。
加藤:さらに詳しく説明すると、世の中にはそんな作家を保護するためのエージェントというのが存在していて、そこに所属するとマネージャーが金額をある程度、知見の中で平均化して決めてくれる。でもそのかわりに手数料が発生する。だいたいギャラの20%とか30%。でも、マネージャーが交渉のプロならいいんだけれど、そのひとたちの中にも眉つば物がいたりして、たまに間で仲介してくれているひとに対して「大丈夫?」と思うことも少なくないです⋯。ケンカしてエージェントをやめるなんて話もかつてよく聞きました。
星野:全員が全員、優秀なマネージャーなわけじゃないですからね。
加藤:そうあるべきなんだけれどね。となると発注者はいかに『透明度を保ったまま作家にオファーするか』というのが大事になるし、下請けとしては『自分の価値をコントロールすること』が大事で、このふたつのバランスが求められる。たとえば「これを描くのに1日かかってしまうので、1日の給料として1万円、画材やフィルムなどのコストでもう1万円、さらに美術的な価値やプロとしての担保をつけて合計3万円はもらわないといけない。」という金額をある程度設定しておくとして、でもクライアント側が用意している予算が1万円だったら「じゃあ他のひとに頼むので⋯。」となってしまう。もし提示された額が2万円だったら美術的価値の部分を妥協してOKすることもできるかもしれない。これが交渉ですよね。ただ、1日にして作家が生まれているわけではなくて、長い年月をかけた中の1日だからね、1万円なわけないんだよね。まぁこれは極端な例だけれど。これに関しては「ピカソの30秒」の話が有名だよね。
星野:わかりやすいです。
加藤:あとは媒体によっても価格帯が大きく変わるよね。同じ絵でも雑誌のカットだと安くて、ビルボードの広告だと高い。広告がなぜ高いかというと、費用対効果が高い(クライアント的に広告に高いお金を払う価値があると感じている)ということもあるし、契約時のクリエイターの知名度・信用度も報酬としてのってくる。それにクライアント企業が決めた年間の『広告費』という予算というものがあって、その分配が絶対的なんですよね。その代わりイラストレーターが有名で人気である必要がある。雑誌は1冊を作るために決まってる予算がほぼ決まってて、それをページで振り分けて、デザイナー、編集者、ライター、イラストレーター、写真家と、みんなで分け合うので価格は自然と安くなるし、決まってくる。作家が有名だからここの金額がドーンとあがるわけはないし、交渉の余地はあまりないかも。表紙の場合は少しイレギュラーかもしれない。それは費用対効果が狙えるから。カバーで売れるかどうかが決まるからね。
星野:勉強になります。
加藤:金額が明確になるとそれはそれでいいんだけれど、結果的に生まれる悩みとしては、修正がかかったり、コミュニケーションのミスで作業が増えてしまった時に追加で請求ができないということだったりするのかな。ぼくもできるだけ用意するけど、「修正予算」というのを確保してくれる発注者もいる。稀だけどね。だからディレクターやデザイナーとしてはできるだけ修正がかからないように、もっと明確に資料の用意をして、的確な指示をするコミュニケーションをとる必要があるよね。その指示出しが下手で作家のスキルのせいにするやつは素人だと思う。でもそういうクライアント、ディレクター、多いみたいだから気をつけてほしい。そしてどうかひとりで抱えこまないで、少しでもはやく相談くださいませ。悩み無料で聞きますので。
星野:相場がわからないというのは、本当に問題だなと思いました。
加藤:そうなんですよ。レストランみたいにメニューが世の中に出てないし、頼む側も正直わからない。あと、中には「言い値でいいですよ」というひとなんかもいて。そういうひとのほうがチャンスを獲得してお金を稼げている場合もある。相談の答えにはならないかもしれないけれど、本当にケースバイケースなんですよね。なので大事なのは自分の絵の価値を信じるということと、しっかりと経験を積むということ。あとは謙虚でいることかな。自分のスキルに自信がないのに価格帯を跳ね上げて、あとで痛い目に合う可能性もあるので。この金額払ったのに「これ?」と言われてしまうと、もともこもない。となると日々の鍛錬と、異業種との会話が大事なのかと。
もし請求や相場で悩んでいるひとがいれば具体的な相談もぜひしていただきたいです。それ安くない?とか高くない?とか言いますので。
おわり
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