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窓際から今日も #03 | 春に寄せて引く波 | 阿部朋未

12年前のあの日から、3月11日という日をどう過ごせばいいかわからなくなってしまった。本来ならなんら変哲もない、ただの春の日だったはずなのに。

もちろん毎年午後2時46分には黙祷している。それは今までもこれからも変わりない。ただ、その瞬間が近づくにつれて悲しみが押し寄せ、日に日に段々と胸が苦しくなる。

家も新しく建って温かい布団で眠れている。ガスも電気も水道も困ることなく使えている。マックにもコンビニにも行きたいタイミングで行ける。スマホの電波は途切れることはない。

それなのに、姿かたちの見えない・わからない「何か」が猛スピードで押し寄せては足元にまとわりつき、深淵へあっという間に引きずり込む。「早く終われ、過ぎ去ってくれ」と、延々念仏を唱えるように頭の中で呟き続け、気づけばへとへとになって呆然と立ち尽くす心身のみが残っている。そうやって毎年3月11日を積み重ねてきた。

いつ道を踏み外してもおかしくない中、今日まで生きてきた。

全てが壊れ失われた2011年3月11日から、傷だらけになりながらも必死に新しいものを積み上げ、今まで出会った人々のおかげで小さな芽が吹き、少しずつ育つように楽しい思い出も明るい思い出も徐々に増えてきた。そうやって長い時間をかけてやっと自分の中で整理がつき、おぼつかなくとも再びちゃんと立とうとしている中で今年も迎えようとしている3月11日。あらゆる楽しい思い出も幸せな時間も、その日が持つ意味と現実を前にするとなす術がなくただただ無力と化してしまう。
それは石巻にいても、塩竃にいても、東京にいても同じで、結局はどうすることもできなかった。

職場のデスクで黙祷する。塩竃の喫茶店で黙祷する。サイレンが鳴らない荒川の土手で黙祷する。どこにいても、誰と一緒にいても、一人では抱えきれない悲しみはどうすることもできない。それでも誰に相談したらいいのかもわからない。家族にすら打ち明けられない。それぞれにそれぞれの震災があるように、打ち明けることで私の震災を誰かに背負わせてしまうようで心苦しくなる。ゆえにより身動きが取れない。何も言えないまま、深い底へ静かに沈んでいく。沈んだ底で1秒でも早く水が引くのをひたすらにじっと待っている。

震災は恐ろしい。何もかも奪っていった上に現在進行形で痛み続ける深い傷を残していった。どれだけ向き合おうと終わりがなくて果てしないし、もしかしたら死ぬまで続くのかもしれない。一過性のフラッシュバックなら極論、病院からの薬でなんとかなる。しかしすべてそうはいかないのも事実で、この苦しみから解放されるのに必要な量の薬を摂取したところで苦しみから解放されるどころか人生や命まで手放してしまうのが目に見えている。結果としてはいいのかもしれないが、多分それはベストでもないしそもそも本意ではない。最適な答えが見つからなくて、もだえながらただその時が過ぎるのを待つしかなかった。

3月11日だけ、透明人間になりたい。

時間が解決してくれるのなら、それがいつになるのかを知りたい。それが遠い未来なら、せめて気休めでも楽になる方法を知りたい。

12年経っても、目には見えない波が押し寄せては引いていく。その波の間で今も必死に息をしている。

阿部朋未


この連載では、写真家の阿部朋未による小さな日々と思い出の記録を綴っていきます。開催中の個展『ゆるやかな走馬灯』に寄せて。この日記から漂う、阿部朋未のひととなりを感じながら個展を、お楽しみください。
『ゆるやかな走馬灯』の図録がオンラインからも購入できます👉
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阿部朋未(アベトモミ)
1994年宮城県石巻市生まれ。尚美ミュージックカレッジ専門学校在学中にカメラを持ち始め、主にロックバンドやシンガーソングライターのライブ撮影を行う。同時期に写真店のワークショップで手にした"写ルンです"がきっかけで始めた、35mm・120mm フィルムを用いた日常のスナップ撮影をライフワークとしている。2019年には地元で開催された『Reborn Art Festival 2019』に「Ammy」名義として作品『1/143,701』を、2018年と2022年に宮城県塩竈市で開催された『塩竃フォトフェスティバル』に SGMA 写真部の一員として写真作品を発表している。
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