猫背で小声 | 第19話 | 100%の思い出し笑い
ぼくは『名前フェチ』です。
いい名前や、響きのいい名前を聞くと、その人のことも魅力的に感じてしまいます。いい名前を付けられた本人のことも好きですが、名前を付けた親御さんのセンスに感服してしまいます。
巷では『DQN ネーム』などを付けれられ、名前にコンプレックスを持ちながら生きていく人もいます。ぼくの言う『響きのいい名前』と『DQNネーム』も紙一重。その時代にそぐわない名前だから劣等感を覚える。
時代が早かったのでしょうか?
時代のせいにするよりも、名前を付けてくれた両親のことを毎日思い出し、自分のことを少しでも誇れるように歳を重ねていきたい。
できるなら、自分の名前を好きになれる生き方を。
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さて、前回は「恋だったのか」、「恋に破れたのか」定かではないできごとを紹介しましたが、今回もぼくは引き続き*リワーク施設 に通っています。
*リワーク施設 … 主に仕事などでメンタルの病気になってしまったひとたちが、気持ちや体調を整えるためにプログラムを行う施設
リワーク施設に通う休職中の利用者は、体調が良くなるとそれぞれの会社へ復職していきます。ぼくは会社には所属していなかったので、このリワーク施設のグループ内の<就職活動に特化した施設>に通所することになります。
もうすでに(前回登場した)本屋さん、コンサルさんも、それぞれの想いで旅立ち、続いてぼくも、まるで学校のようなできごとがたくさんあったこのリワーク施設を卒業することになりました。仲の良かった SE くんは進路を変えるべく、ぼくと共に次の施設へ進みます。
新たな場所へと、進級です。
新しい施設はあくまでも就職を決める場所だったので、以前の施設より人間関係もドライで温かみのない場所だと感じました。前のようなワイワイガヤガヤというにぎやかな感じもなく、気持ちの面でも落ち込む自分がいました。明るい自分が出せない。明るい場所ではない。ホント、希望が見出せなかったですね。
すっかり落ち込んでいる時に、その暗々とした施設の、ある利用者さんから声をかけられました。
マルテさんと、いう人。
「近藤さんの言葉はおもしろいですね。」
はっきりとは覚えていませんが、こんな類の言葉をかけられたと記憶しています。どうやら暗い気持ちでワークをしているぼくの、ワーク最後のまとめの発表に対し「こいつはおもろい」と目をつけてくれたらしいのです。無意識のうちにおもしろいこと言ってたんだな、と、またまた新たな自分を発見したわけです。
マルテさんは施設内での顔が広く、商品パッケージのデザイナーだったヨーへーさんという人も紹介してくれました。
マルテさん、なんだか頼れるなぁ。
暗い気分でいる人が多いのではと危惧していたマルテさんは、課外授業として自分たちでワークをしないか、と提案してきました。たしかにここって暗いなーと、気持ちがどんよりしていたので、よろこんでその提案に乗りました。SEくん、ヨーヘーさんも、楽しいことは好きなので、そのプロジェクトに加わりました。
その名も
『OH!プロジェクト』
「風の中のスバル〜♪」的な音楽に合わせ、プロジェクトが始まりました。
「日常の中のちょっと楽しいこと」を提案するチームによる『OH!プロジェクト』。一応、それぞれメンタルを崩して施設に通っているので、このプロジェクトを通して前向きになる!というエッセンスも入っていました。
日常の中になにか楽しいこと。
いきなり誰かにお題を振られても、バカリズムのような気の利いた大喜利の答えは出せませんが、例えば、ただ単にお弁当を食べるのはつまらないので、お弁当の割り箸の袋に、ひと笑いできて気持ちがリラックスできるような言葉を書こう、とか、そのくらいの、
『ひと笑い』
このお題、ぼくしかいないですよね。
マルテさんからの好意に応えようと思い、ぼくはひとりで何十個も、割り箸袋で笑える答えをポンポンと出していきました。
なんかいい感じ。
みんな気持ちのってきた。
おたけさいこっちょ〜。
この施設は、都内に何ヶ所か系列の施設を運営していたので、多拠点へ出向いてプロジェクトのプレゼンも行いました。マルテさんはまとめ役、ヨーヘーさんはクリエイティブ担当、SE くんは WEB 担当、ぼくは作家として、それぞれの能力を活かした適材適所ですね。
ふと思ったこと。
マルテさんや、ヨーヘーさん、SEくんたちは離職中とはいえ、今まで長く仕事をしてきたと思います。でもぼくはまともに仕事をしてきたことがありません。仕事へのコンプレックスを感じていたのです。
でももし仕事をするなら、こんな風にチームで協力しあって進めていきたいし、こんな楽しい気分で働いてもいいんじゃないかな〜と、今まで見たこともない景色を想像し、希望の持てる日々を送りました。
*
ある日、このプロジェクトで飲み会があったのですが、広告関連の仕事をしていたヨーヘーさんから「こんどうさんってコピーライター向いてるんじゃない。」と言われたことがありました。
酒に酔っての軽い気持ちか、「本当にやってみな」という重い気持ちか意味かは定かじゃないですが、その時の将来の目標が『おもしろおじさん』だったので、キャッチコピーをはじめることにしました。短い言葉で相手の心にピタッと張りつく文言を。
前の施設で一緒だったコンサルおじさんからも「君の文章は長い」と言われていたので、ヨーヘーさんとコンサルおじさんにいい意味でギャフンと言わせたい気持ちもありました。
それが今、このエッセイにつながっているのです。
その日、飲み屋から見えた高田馬場駅を走る山手線は少し小刻みに、揺れて、楽しそうに走っていたのを覚えています。
「高架下からの景色もいいな」
と、酒の飲めない夕焼け空に、火照るぼくがいました。
近藤 学 | MANABU KONDO
1980年生まれ。会社員。
キャッチコピーコンペ「宣伝会議賞」2次審査通過者。
オトナシクモノシズカ だが頭の中で考えていることは雄弁である。
雄弁、多弁、早弁、こんな人になりたい。
https://twitter.com/manyabuchan00
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