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三平くんの科学リテラシー

「釣りキチ三平」という漫画があります。
 
三平三平(みひらさんぺい)という釣り大好き&超絶スゴ腕の少年が、日本各地で大人顔負けの釣り技を見せつける、言わずと知れた矢口高雄の大ヒット漫画。
 
私の父がなぜか好きで、家に単行本が全巻そろっていた。

そのせいで、特に釣りに興味のなかった子供のころの私もよく読んでいました。
 
その矢口さん、2020年にご逝去。
 
父と矢口さんの誕生日がたった3日違いと知ったのはその後のこと。
 
同じ秋田出身でもあり、漫画に描かれている山深い自然の趣に懐かしさを感じていたのかも知れません。

同郷・同年代の作者への想いが、単行本全巻そろえさせたのでしょう。

ちなみに三平のせいかどうかは知らないけど父も釣り好きで、よく連れて行ってもらいました。

しかし腕前はからっきしで釣れた記憶まったくなし、まさにゼロ(亀が釣れたことはある)。


トモ釣り勝負

釣りキチ三平の第一巻は、三平が地元のアユ釣り大会で、並みいる大人たちを抑えて優勝を勝ち取るところから始まります。
 
この結果に納得いかない若者3人組が三平にイチャモンをつけ、アユ釣り勝負を行うことに。
 
ここでのアユ釣りの方法は「トモ釣り」というもの。
 
普通釣りと言えば針にエサをつけて釣るのを想像しますが、トモ釣りではエサを使いません。
 
その代わりにおとりとなる別のアユを使います。
 
糸にこのおとりアユをつけ、さらに糸のその先の部分にはエサの付いていない針があります。
 
一般にアユは川底の石についた藻をエサとしますが、この藻をめぐってアユはそれぞれ特定の石を縄張りとします。
 
そして自分の縄張りに他のアユが近づいて来ると体当たり。

これを追い払う。
 
トモ釣りはこの習性を利用します。
 
釣竿を使っておとりアユを操作し、川底を這わせるわけですね。
 
他のアユの縄張りに入るとこのアユが体当たりしてくる。
 
そのときに仕掛けの針にひっかかって釣れる、と。
 
おとりアユの活きの良さが釣果に影響するので、通常は釣れた鮎を新たにおとりアユに使う、ということをたびたび行います。

おとりアユは一匹限定!

さて、三平がイチャモン3人組とやる羽目になった釣り競争。

2時間に設定された制限時間の中で3人組中最も多く釣れた人と三平とで釣れた数を競うわけですが、三平の祖父・一平は特別ルールを設定しました。
 
それはおとりアユの交換禁止、というもの。
 
つまり最初に使い始めたおとりアユだけをずっと使い続けなければならない。
 
死んだらもちろんアウトだし、弱って泳力がなくなったアユでももう釣れなくなる。
 
わざと設定されたこの厳しいルールの下で4人は勝負、となった訳です。
 
ま、漫画だからね。

ストーリーをより面白くということでしょうが。

核心を突く論理思考の妙

結論から言うと三平が3人組を圧倒し見事勝利となる訳ですが、勝因となるこの時の三平の勝利への道筋、戦略のその立て方がこの特異な条件にピタリとはまっていた。
 
背後には、勝利を手繰り寄せる論理思考の妙があったのです。

目標の具体化

まず目標設定ですね。
 
なるべく具体的に、達成したかどうかがはっきり分かり、達成のためにやるべきことが明確になり、そして期限を切った形で目標を定められるかどうか。
 
この釣り勝負、勝利の条件は3人組のだれよりも多く釣ること。
 
2時間という時間の中、たった一匹のおとりアユでそれを成し遂げなければならない。

問題点を洗い出す

目標設定の次は、クリアすべき問題点を明らかにすること。
 
おとりアユは一匹限定ですから、その一匹をなるべく疲弊させないように釣る戦略が必要になる。

2時間という時間設定、釣りにしては短いようだがおとりアユ一匹に対しては絶妙に長い。
 
長時間釣り続けると当然弱ってしまいます。
 
勝負はあくまで釣った数なので、おとりアユが弱る前に、つまりなるべく短時間で効率よく釣ることが求められる、ということになります。
 
同じ川で、同じ方法(トモ釣り)で勝負する中で、この問題を克服するために何をしたらよいのか、そのビジョンを具体化できるかどうかがカギとなります。

克服のためにとった行動:アユを漁場に集中

三平の戦略は「短時間で効率よく」釣ることに特化したものでした。
 
まず、川の中で石に藻がたくさん付いた淵(川底が掘れて深くなっている部分)を見定めます。
 
藻がたくさんあるということは、そこにアユがたくさん住みついているということ。
 
三平はここに集まっているアユを、トモ釣り可能な瀬(川が浅くなっている部分)に追い立てることにしました。
 
どうやって?
 
泳いで。

水に入る下準備

ならば競技開始とともにすぐ泳ぎに行くのか?

いや、空腹で泳ぐのは危険。

ということで競技開始の合図とともに3人組はすぐに釣りを開始しますが、三平はまず腹ごしらえ、落ち着いておにぎりを食べ始めます。
 
ま、この辺はいかにも漫画って感じだけど。
 
で、腹ごしらえが済むなりやをら裸に、水泳開始。
 
ハタから見るとただ遊んでいるよう。

3人組も高笑い。

しかし事実は上述のとおり、戦略的に泳いでいたのだった。

釣るために休ませる

で、アユたちを瀬に追い立てた後、すぐ釣りを始めるかというとそうではありません。
 
追い立てられ興奮状態のアユは、そのままでは釣れません。
 
岩の上で30分昼寝して、アユたちを落ち着かせたのでした。
 
かくして制限時間の最後の30分、この短時間のうちに一匹のおとりアユを使い三平は、瀬に集められたアユたちを効率よく釣って見事勝利、と。

論理的戦略の組み立て

あくまで漫画でありフィクションです。

しかも自然を相手に、実際にはこんなに都合よくいくものではないでしょう。
 
しかし三平(というか作者・矢口)が戦略を立てる道筋は、論理思考の観点から見ると理にかなったものになっていたと言うことができます。
 
それは1)具体的な目標設定、2)問題点の見極め、3)問題克服のためとるべき行動の具体化、とまとめることができます。

(※)著作権料がバカ高く(講談社め)三平の絵は自作にて。下手くそご容赦。 

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