リズム感は社会の潤滑油
これを書いている2023年のセ・リーグは阪神タイガースが優勝。
18年ぶり6度目だとか?どんだけ弱小なんだよ(ちなみに阪神ファンです)。
神奈川生まれ、新潟育ちの私は関西に縁がないのですが、10年前くらいに所用で新大阪駅に降り立ちました。
降りてすぐ、コンコースを歩いているといきなり六甲おろしがどこからともなく。
その時は優勝どころかBクラスに低迷中(阪神には珍しくない)で、優勝の「ゆ」の気配すらないにもかかわらず‥。
大阪の空気感、新鮮でした。
リズム感の定量化とモデル化
街を歩いていると、いろんな音楽が耳に入ってきますよね。
歩いているうち、たまたま聞こえた音楽のリズムに歩調が合ってしまうこと、ありませんか?
東大・総合文化研究科の工藤和俊らは身体とリズムの関係について研究。
リズムに合わせて指をタップしたり、屈伸したりという単純な動作でも、プロのドラマーやダンサーなど、リズム感の卓越したプロフェッショナルとそうではない一般人とでは、習熟度に応じた差が明確に見られることが分かりました(※)。
例えば両手で素早くドラム演奏を行う際の安定性。
プロは均一に左右交互での叩打を続けるのに対し、一般人は時折左右の手で同時に叩いてしまう事象が起きます。
やってみると、やっぱり素早く交互に叩くというのは、思った以上に難しいかも。
身体運動におけるこういったリズムや周期運動の乱れ・逸脱は習熟度の低い人では一般的に見られるもので、それはまた非線形力学系として数学モデルで表される、とのこと。
集団での創発現象
ここまでは良いとして、面白いのは集団内部での同期現象。
演奏もダンスも、一般的には一人で行うより複数で互いに同期しながら行うケースが多い。
その同期は、互いの動き、出している音、またそれらに対する予測などの情報により行われます。
一人でのパフォーマンスに比して、特に複数での場合で創発する事象があります。
まさに非線形なるがゆえ、ですが。
メトロノームに合わせて二人の被験者が同時にリズムを刻む。
手を叩くとかうなずくとか、なんでもよろしい。
初期段階では二人のリズムは完全に合います。
メトロノームの音に合わせるから、当たり前ですね(これができない人は呼ばれません)。
次にメトロノームを無くすと、二人は互いの刻むリズムを見聞きしながら息を合わせ、同じリズムを刻むよう努力する。
実験によると、この時のテンポの揺らぎは、自分自身の過去の揺らぎよりも相手の揺らぎの影響を受け、かつ8割以上のケースで徐々にテンポが速くなっていくことが分かりました。
経験ないですか?私は経験あります。
素人集団での合唱や楽器演奏ではテンポが速くなりがち。
これは相互に「相手に合わせよう」とする双方的タイミング調整の副作用なのだそう。
人と人とをつなぐ
ヒトのこうした集団的振る舞いの同期は、単に物理的なタイミングの一致のみならず、ポジティブな社会的関係と密接に結びつくことが分かったそうです。
例えば単にリズムを一緒に刻むのではなく、1/4周期ずらして刻むというように難易度を上げて協調させる運動をさせる実験。
より強固な役割分担が創発されました。
社会性の低い(我が道を行く)(※例えば私のような)タイプの人が相手をリードし、社会性の高い(相手に合わせる)タイプの方がそれをフォローする役割を、自然に担うようになるんだとか。
この結果を音楽に当てはめると、音楽の一定の周期構造や音の強弱構造が、意図せず運動に影響を与え、運動の安定化、動作の振幅の増大をもたらす、と。
これにより音楽とダンスの不可分な結びつきが生まれ、身体運動の同期によりポジティブな情動やパートナーとの社会的親密感の向上、痛みに対する耐性が生まれる、とのことです。
野球の応援ではスタンドで、身体全体を使ってリズムを刻みヒッティングマーチ歌ったり。
大リーグにはない日本のプロ野球独自のこの応援スタイル、経験上確かに「勝ちの喜び増大、負けのくやしさ減少」感はあります。
その背景にはこういう非線形な力学があるのかも知れませんね。
工藤らは力学的アプローチを個人・対人・集団という異なるスケールでの現象に適用し、そこにスケールフリーな一般原理を見出すことができるだろう、としています。
余談ですがオウムは音楽のリズムを理解し体を使ってリズムを刻んだりします。
動画サイトでオウムを検索してみて下さい。
音楽に合わせて踊る動画、結構ありますよ。
それに比べ犬や猫はそれほど音楽をそれほど理解しているようには見えません。
ひょっとするとオウムという動物種の社会性も、特に犬猫との相違性という文脈で、音楽や協調性を通じて解明できるかもしれませんね。
(※)「リズム音と運動の周期の非対称性が引き込みの安定性に与える影響」、生態心理学研究11(2)、67-68、2018-09-08、日本生態心理学会
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