豊かであること(1)「小さくても満ち足りた世界」
大相撲初場所を見に行きました。
席はいつも2階。
一番安くて、でも十分に観戦を楽しむことができます。
会社を早あがりして、お弁当とハイボールを買って、14:00前からさぁ、観るぞ!とワクワクして席につくと。
後ろの席に一列、70代と思しきお父さんお母さんの団体が。
日本酒片手にお国言葉全開の大きな声でおしゃべりしていました。
そうかぁ、今回はこのお父さんたちと一緒か。
4ヶ月に1回のご褒美相撲観戦を楽しみにしていた私は、ここで少しテンションが下がります。
まあ、しょうがないか。
前回の、北の湖や千代の富士を現役では見たことない、ずーっとキャアキャア騒いではヘンなところで掛け声入れちゃう20歳そこそこのすー女たちにも耐えたし。
相撲観よう、相撲を。
しばらく後ろから大音量で流れてくる話を聞いていて分かったことがいくつか。
お父さんたちは70歳で高校の同級生。
岩手県出身。
相撲は場所中毎日見ている。
昨日の取り組みの状況、力士の出身地など、やたら詳しい。
わりと頻繁に国技館に来ている。
今回は錦木(岩手出身)と炎鵬を応援しに来た。
………。
筋金入りじゃん。
取組みが進むにつれ、お父さんたちのトークもさらに炸裂。
「石浦応援すっからな。まだまだ、ここじゃない。」
…………(すぅーっ)ぃしうらぁーっっ
「入ったべ?」
「んだんだ、入った」
「えんどーっっ! ……遠藤は左だべ?」
「右だよぉ(笑)」
(遠藤は電車道で土俵下へ)
「ダメだぁ、審判! なんで物言いつけないのぉ! 今の取り直しだべ!」←物言いの余地なし。
とにかくトークが面白い。
そして、掛け声が絶妙のタイミングでキレイに「入る」。
……なんか、今日はお得だぞ。
まるでBSチャンネルの副音声でも聞いているかのように、ハイボール飲みながら結びの一番まで楽しみました。
そして弓取り式が終わると、お父さんたちの話題は帰りの新幹線のことに。
そうか、今日岩手に帰るんだ。
明日からはまた、テレビ見ながら東京でやってる相撲を楽しむんだ。
お父さんたち、岩手でどんな生活してるんだろうな。
雪がたくさん降るところにいるのかな?
孫もじいちゃん、じいちゃんって寄ってくるのかな?
犬とか飼ってて。
畑もちょっとあったりして。
で、相撲があるときは15:00からテレビの前で、日本酒片手に観戦。
きっと今日みたいに「よしっ! さあ、行くぞ!」と力士と同じ気持ちで向かい合って観てるんだろうな。
私の妄想はとどまることを知らず、打ち出しの太鼓を聞きながら気持ちよく国技館をあとにしました。
小さいけれど、満ち足りた豊かな世界。
お父さんたちと共にできて幸せ。
みんな、今年もいい年でありますように。
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【追記】
今は5月。
この記事を書いてからたった4ヶ月で、世界はこんなにも変わってしまいました。
私やお父さんたちが楽しみにしている大相撲も、国技館に観戦しに行くどころか、テレビの前で応援することすら叶いません。
あのとき、私たちはなんと豊かで幸せな時間を共有していたのでしょう。
忘れないで。
豊かさは、いつもこの掌の上にある。