悪ガキだった、あの頃
登下校で必ず通る坂道の途中、犬を飼っている家があった。
犬は門の向こう側にいたが繋がれておらず、人が前を通るとものすごい剣幕で吠えた。
誰彼かまわず、その姿が坂道の向こうへ消えてゆくまで吠え続けるのである。
子どもの方も恐ろしかったが、登校時も下校時もかなりの数の人が通る道だったので、無差別に吠え掛かる犬の方も大変だったことだろう。
ある日、近所の仲間5,6人で遊んだ帰りにその家の前を通りがかった。
なぜかその日に限って、門はかすかに開いていた。
私達の心の中には、恐ろしさと毎朝なにもしていないのに吠えられる怒りとが混ざり合った感情がふつふつと沸き上がり、膨張して、爆発した。
追いかけられることを承知で犬の目の前に立ちはだかった。
案の定、激怒した犬が追いかけて来る。
私は鈍足だったので、逃げ惑う仲間たちの最後尾を走った。
確かにあの時、犬の鼻先がふとももにあたる感触がした。死ぬかと思った。恐怖と焦りで心臓をバクバクさせながら、私たちは犬が諦めるまで坂道を駆け上がった。
後日、子ども達の涙ながらの報告を受けた大人達が、飼い主へ苦情を入れたようである。
確かに毎日吠えられることには辟易していたが、あの日先に挑発をしたのは私たちの方だ。
犬にはすまないことをしたと思っている。
ちなみに、犬から逃げた坂道を上った先には別の犬が住んでいて、彼は非常に人懐こいやつだった。
皆、給食で残したコッペパンをちぎって彼に食べさせることを日課としていた。とんでもない話だ。
あの犬にも同じく、すまないことをしたと思っている。
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「今思えば、あれってアウトだったよなあ…」と遠い目をしちゃう悪童エピソード、あなたにもありませんか?