「おじいちゃんの秘密のノート」
第1章:ユウタの反発
「もう、うるさいな!」
10歳のユウタは、またお母さんに叱られていた。
「ちゃんと挨拶しなさいって、何回言ったら分かるの?」
「友達との約束は守りなさい!」
「嘘をつくのはよくないことよ!」
ユウタは「礼儀」「正直」「思いやり」なんて面倒くさいと思っていた。挨拶しなくても困らないし、約束を破っても平気だし、嘘をついた方が怒られずに済むこともある。どうしてそんなことを気にしなきゃいけないのか、さっぱり分からなかった。
お母さんもお父さんも、何度も注意するけれど、ユウタは「うるさい!」と叫んで部屋に閉じこもるばかりだった。
「どうしたら、ちゃんと伝わるんだろう……」
お母さんはため息をついた。何度言っても響かない。時には感情的になって怒鳴ってしまうこともあった。でも怒っても効果がないし、優しく言っても聞いてくれない。
そんな悩みを抱えながら、お母さんはユウタを連れて、久しぶりにおじいちゃんの家を訪れることにした。
第2章:おじいちゃんとの再会
おじいちゃんは、田舎の静かな町に住んでいた。昔ながらの木造の家で、庭には柿の木が立っている。
「おじいちゃん、久しぶり!」
「おお、ユウタ!元気か?」
おじいちゃんは優しく微笑みながら、ユウタの頭をなでた。でもユウタは「うん」とだけ答え、スマホをいじり始めた。
お母さんは申し訳なさそうに言った。「最近、ユウタが全然言うことを聞かなくて……。私が何を言っても、反発するばかりなんです。」
おじいちゃんは静かにうなずいた。そしてしばらく考えた後、本棚から一冊の古びたノートを取り出した。
「ユウタ、このノートをあげよう。」
「え?ただのノート?」
「そう。でもこれは、おじいちゃんの『秘密のノート』なんだ。」
第3章:秘密のノートの使い方
「このノートには、"一日一つ、自分の行動を書き留める" というルールがあるんだ。」
「行動?」
「たとえば、"今日はお母さんにありがとうと言った"とか、"友達と約束を守った"とか。逆に、失敗したことも書いていい。たとえば、"今日は嘘をついてしまった"とかね。」
「それ、なんの意味があるの?」
「まあ、1週間続けてみなさい。何か気づくことがあるかもしれないよ。」
ユウタは半信半疑だったが、おじいちゃんがあまりに真剣な顔をしていたので、とりあえず試してみることにした。
第4章:ノートが映し出すもの
最初の数日は、適当に書いた。
「今日はゲームをいっぱいした」
「宿題がめんどくさかった」
「お母さんに怒られた」
でも、おじいちゃんに「具体的に書くんだよ」と言われてから、少しずつ詳しく書くようになった。
「今日はお母さんに『うるさい!』と言ってしまった」
「友達の約束を守らなかった」
「困っていた友達に気づいたけど、声をかけなかった」
何日か書いているうちに、ユウタはあることに気づいた。
「……あれ?ぼく、毎日誰かをがっかりさせてる?」
それまで、自分の行動を振り返ることなんてなかった。でも、ノートに書くことで、自分がやったことが「目に見える形」になった。そして、そのせいで誰かが悲しんでいることに、初めて気づいた。
第5章:小さな変化
ユウタは「試しに逆のことを書いてみよう」と思った。
次の日、意識して「お母さんにありがとうと言う」ことをやってみた。
すると、書いたノートには——
「お母さんが嬉しそうだった」
その翌日、学校で友達が筆箱を落としたときに拾って渡した。
「友達が『ありがとう!』と言った」
「……なんか、いいかも?」
少しずつ、ユウタの行動が変わっていった。
お母さんが料理を作ってくれたら「ありがとう」と言った。困っている子に「大丈夫?」と声をかけた。約束を守るようになった。
そして、1週間後のノートを見返したとき——ユウタは気づいた。
「前半と後半で、書いてることが全然違う……!」
最初は「怒られた」「面倒くさい」ばかりだったのに、後半は「友達が喜んだ」「お母さんが笑った」という言葉が増えていた。
「おじいちゃんの言った通りだった……。」
第6章:お母さんの涙
家に帰ったユウタは、お母さんの前で言った。
「お母さん、いつもありがとう。」
お母さんは驚いたように目を見開いた。
「どうしたの、急に……?」
ユウタは少し照れながら、自分のノートを見せた。
「ちょっと、これをやってみたんだ。」
お母さんはノートを読み、目に涙を浮かべた。
「……嬉しいな。」
子育ては難しい。何度言っても伝わらないことがある。だけど、"自分で気づく" ことができたら——子供は変わる。
おじいちゃんのノートは、魔法のノートなんかじゃなかった。けれど、ユウタにとって、それは本当に「自分の心を映すノート」だったのかもしれない。
—おしまい—
子育てのヒント:物語から学べること
子供に「教え込む」のではなく、気づかせる仕組みを作る
行動を「見える化」することで、気づきを促す
叱るのではなく、小さな変化を認めてあげる
時間をかけて、焦らず待つ
子供に伝わらないと感じた時、ただ言葉で教えようとするのではなく、「自分で気づける仕掛け」を作ることが大切かもしれませんね。
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