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断片的なもののなかで。

わたしはいま、暖房の付いた狭いアパートの部屋の中で、ぬるくなったカフェラテをすすりながらノートパソコンを開いている。外は雪が降っており、静かにアスファルトの地面に積もってゆく。
つい先程まで、この暖かくした部屋の中で、一冊の本を開いていた。レースのカーテンを数センチだけ開けて、外の景色をいつでも見られるようにして。

板を挟んだお隣さんがいまどこで何をしているのかをわたしが知ることはない。顔を合わせると挨拶を交わすアパートのお向かいさんが、この雪の土曜日に何を考え、この瞬間何をして過ごしているのかわたしにはわからない。

わたしが自分の住まいに籠っているこの瞬間、道路には車が走り、融雪道路から噴き出す水に歩行者がしかめ面をし、家族や恋人と穏やかな休日の午後を過ごす人たちがいる。グーグルマップを少しずつ縮小してゆく。自宅周辺の地図が隣県や日本列島、海やその他の国々を写し、丸い地球が浮かび上がる。

ライターの仕事を1カ月休むことにした。体調のすぐれない日々が続いていたため、とりあえず1カ月休ませてほしいと契約先の企業に伝えた。自分がいかにちっぽけな存在なのかを改めて感じ、見えない障害に苛立ち、それをうまく表現できない自分自身に嫌気がさした。

そんなわたしと社会をつなげてくれた一冊。温かいコーヒーを淹れ直そうと思った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます! 泣いたり笑ったりしながらゆっくりと進んでいたら、またどこかで会えるかも...。そのときを楽しみにしています。