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書評「ロックで独立する方法」
「ロックで独立する方法」忌野清志郎著
忌野清志郎の印象は、自転車が見つかった人ぐらいのものだった。音楽は、好きな方だと思う。好きなアーティストがカバーしたりして、積極的には好きでもないけど、嫌いじゃないぐらいだった。この本も大ファンだから購入したというより、古本屋で、ふと目にして、買った。古本にしては、400円で高いかなと思った。でも、よくよく値段を見ると、普通に買っても、630円(税抜)だから、内容が濃いのかなと思った。
読み始めて、めちゃくちゃおもしろかった。どんな言葉も、うん、うん、わかると思って読み進められた。
それにロックミュージシャンではないけど、この時代に小説を書き続けている私ってちょっとロックだと思うから。
内容は、まさにロックで独立するための方法だった。経験に裏打ちされたメッセージが心に、脳に、迫る。
フリーターでもやっていける時代に、ミュージシャンになる覚悟が試される時代になったと。フリーターにいつでも逃げられるという逃げ道になるなら、「音楽で独立する」覚悟がなかったんだと。
「ほんとに聴いてほしい曲、だれかに聴かせたいものが自分にあるのかっていうのが一番の問題なんだ」(ℓ17)
結構ほんとうに聴いて欲しいかどうかをあいまいにして、今や曲はいろんな形で届けられるから、ちゃんとこう思いながら曲を作ってる人ってどれぐらいいるんだろう。小説だってそうだ。技術を磨けば、ある程度のものはできると思う。それはそんな難しいことじゃない。だけど、ほんとに読んで欲しいものと言われれば、きっともっと頑張らねばと思う。
「ホンモノの自信とは、どこからどのように生まれてくるものなのか、と。すまないが、やっぱり月並みなほどシンプルな言い方しかできない。それは、「努力」からしか生まれない」
(ℓ29)
自信がないんです、と悩みがちな人生のいろんなことの中で、やっぱりそれは、努力なしに身につけられないと言われれば、やるしかないという気持ちになる。
「たった一曲だって、他人に最後まで聴かせるということは、けっこうすごいことなんだ。音楽に限らず、映画だってマンガだってお笑いだってね」(ℓ37)
ますますそういう時代になっているんだろうなと思う。音楽も一つのフレーズだけは、繰り返し聞いているが、一曲を通して聞くことも少なくなってるのは、確かに感じる。小説だってあらすじだけでわかったと思われちゃうのだから。
「もちろん本を読んでるヤツが偉いとも思わないし、賢いとも限らない。でも、表現するネタは、自分の中にいっぱいあったほうがいいに決まっている。少なくともオレは、あの時代に本を読んでおいてよかった、と思っている」(ℓ45)
私もそう思う。本を何冊読んでるとかそういう問題でもなくて、なんだろ。この言葉の通りだと大きくうなずく。
インタビューに対してこんなことを述べている。
「要するにこちらに言わせたい答えや結論は、最初から決まってるんだ。それを本人に確認しに来るのならまだわかるんだが、確認する内容も勝手に決めちゃってるわけだ」(ℓ124)
どこのインタビューを見ていても、読んでいても、思うことがある。それは、質問じゃなくて、ただの確認じゃないかなと思う。知りたいことは、もっと新しいことなのになと。答えありきのインタビューほどつまらないものはない。わかりきったインタビューで納得する人も確かにいるから成り立ってるのだろうか。そんな結論ありきのものは、読んでみたり、見ていたりすると、がっかりすることもある。話が通じるかどうかってとても大事なんだと思うんだけど。自己主張の強い質問ではなく、興味を持って、あれも聞いてみたいと思ってる人にインタビューさせてあげて欲しいと心から思う。その方が誰にとっても無駄な時間が減るから。
何万枚売れたばかりが取り上げられ、音楽そのもののことが伝えられていないことを嘆き、
「数字を扱うのは業界ビジネスマンたちの仕事だろ?ようするにビジネスマンの業績がニュースになってるだけなんだよ」(ℓ166)
最近よく耳にするニュースだ。それが今や再生回数に置き換えられると思う。
「プロの自由労働者は、才能や技術が枯れてしまったら一寸先は闇、というある種ギリギリの生き方を選択した人間なんだよ」(ℓ208)
著者のように表現を考えて、試行錯誤して生きてきた道のりは、尊い。音楽業界や小説など表現する仕事に就きたいと思ってる人は是非読んで損はないと思う。音楽業界なら、その独立するために何が必要だったかまでしっかりと書いてある。自分の失敗ちゃんと伝えくれる。きれいごとばかりが並べられているということはない。この本を読んだぐらいで、わかったような気にはならないけど。きっと教えてくれようとしたんだなと思った。きっと優しい人なんだろうと思う。誰かの経験談を読むのも、読書のいいところだ。
読みやすいし、文庫で場所も取らないし、おもしろいと思います。
こういうのを課題図書にしたらいいのにと思ったりしました。
(おしまい)