私が実習で苦労したこと。その経験から学んだ学生さんへの伝え方とは
2020年7月中旬あたり、twitter内での日本のセラピストのアカウントで、臨床実習に関する話題が盛り上がっておりました。
そこで私も投稿しました。
今回の記事は、そのTwitterでつぶやいたことをまとめたものなります。少し加筆しておりますので、Twitterで私の投稿を読まれた方も、今一度読んでいただけるとまた追加要素に気付いてもらえると思います。
この記事によって
・私が実習でどう苦労したか
・実習で来られる学生さんとどう向き合うのがいいのか
これらが伝わればと思っています。
社会人経験者でも病む時は病む。そんな実習だった
私は長期実習1期目で、TKA術後の患者さんを担当させてもらいました。
患者さんの同意もいただき、ケースバイザーと主治医の計らいで、オペ見(手術見学)もさせてもらえました。
さて、そこからは検査測定、評価、レポート、治療の模倣がスタートしたわけです。
当時の母校は実習方針として、今ではスタンダードになってきているけど、10年以上前では少数派だったCCS(クリニカルクラークシップ)を採用していました。
クリニカルクラークシップについては、すでに様々な論文、研究にてその効果、疑問などについて提唱されてきています。
こちらを参考にしてみてください。
CCSの目的としては、
レポートなどの座学的なことで時間を使うよりは、
実習では実技や有資格者たちの臨床思考を学ぶ
となっている。座学は実習後に養成校で補填する、みたいな。
だからレポートには時間を掛けない。書かなくてもいい。
母校でも当時はそんな実習の要項になっていました。
個人的にはCCSでもレポートはやった方がいいとは思います。
臨床思考を紙に落とし込むことで、勘違いや間違いを把握しやすいし、慣れていない学生だからこそ、思考をまとめる作業は必要だと考えるからです。
さて、そんなレポート。
私のケースバイザーはがっつりレポートを書かせるスタイルでした。
まぁそれが正しいかどうか、実習の要項に沿っていないことが
いいか悪いかは、どうでも良くて。
内容への指摘がとても細かかった。
これ以降に指摘された内容の一部を書いてみます。
レポートで私が指摘され、調べるように指導されたこと。
(一部です)
●TKAの患者さんの術創部の皮膚の平均癒合日数は?
●TKAの患者さんのCRPが下がるまでの平均期間
●TKAの患者さんの筋力が元に戻るのに必要な平均的な日数
これ、学生時代に指摘されて、皆さん答えられますか?
ちなみに私は母校を卒業時、養成校を首席で卒業しています。
学内での勉強は並以上には頑張っていた自負がありました。
それに、今でもそうですが、学生時分でも
「わかりません」
と言うのが死ぬほど嫌いでした。
養成校で習う範疇、国家試験レベルのことであれば、
どうにか答えられるように。
思考できるように。
普段からそこを意識して日々勉強していたからです。
さて、話を戻すと。
今でこそJ-STAGEやCiNiiで調べたら多くの、
目的に該当する文献がヒットすると思います。
それに、養成校の図書館などで調べられたら何とかなるかもしれない。
でも当時の私は家庭持ちでした。
仕事をしてくれていた当時の奥さんの晩御飯を作らないといけない。そもそも実習施設と養成校は完全に逆方向。片道1時間は掛かる。
満足に調べられる環境にない、というのは実習開始時点で母校からも私からも話はしていました。充分考慮すると実習初日にはお話してもらっていました。
教科書を調べるものの、そんな「TKAの~」みたいな、
その疾患、術式に特化した、細かい予後なんて書いているわけがない。
Twitterでの私の記事にリプをくださった方がいましたが、
TKAの課題の件はステムの型や皮膚切開の仕方、
安静期間やパスの進み具合でいくらでも変わるので
データは少ないでしょうね
ということがあるわけです。
そんな中で当時の私も必死で調べました。
学生なりに。プライドを持って。
整形外科学、運動療法学、解剖学など、養成校で購入したり、
その他自分で買っていた手持ちの教科書や参考書は全滅。
当時、実習前にクラスのみんなのために、私が発案して
質問用のホームページ(mixiみたいなクローズドなやつ)で
フリーなやつを探して、レンタルして運営していました。
各地で実習を受けているみんなが、疑問や質問を投げかけて、
答えを持っている人がそこに書き込んで回答してあげる、みたいな仕組み。
そこの掲示板でクラスメイトに聞くも、それも全滅。
となると、残りはJ-STAGEやCiNii。
今でこそ論文数は相当ありますが、私が実習を受けていた
2009年の春頃の時点では、今ほどの記事数ではなかったし、
そうなると目的に沿った論文に出会うというのは至難の業でした。
あとはPubMedなど。でも今ほど翻訳サイトの精度も高くない。
それに、日本語での論文サイトを片っ端から漁った後。
すなわち、既に夜もどっぷり更けた深夜から、海外論文を漁るわけです。
深夜、もはや早朝とも呼べる、朝3時とか4時頃に英文読んでも、
そんな集中して翻訳できないし、
自分が欲しい内容がどこに含まれているか、内容を理解するのに
時間がかかる。
それでもクリティカルに欲しい情報が載っている論文に、
そんなに都合よく出会えるわけもなく。
THAやその他の膝のオペに関する論文を
検索→読む→欲しい情報があるかないか
これを繰り返す。
海外の文献なんて、単語を調べながらだから、
そもそも読むのに時間が掛かる。
ケースバイザーから指摘されて項目に該当する、
もしくはそれに近い論文を探し当てるまでに数時間。
それで終わりではなく、その調べた項目を
レポートに反映させなければなりません。
つまり統合と解釈がそこから始まるわけです。
指摘事項によっては、大幅に解釈を変えないといけない。
しかもそれが複数の項目に及ぶ。
レポート以外にも調べ物が課題としてあったり、
自己学習も進めないといけない。
だから睡眠時間は毎日1~2時間程度。
寝るのは大体朝の5時過ぎか下手すると6時前。
その時はお弁当を持って行かないといけなかったので、
6時半には起床、弁当を詰めて、実習の用意をして、
8時前には自宅を出て、8時過ぎに実習先に着く。
そんな生活。それが患者さんが退院する約3週間続きました。
少しゆっくりできるのは土曜日だけ。
でも、調べ物やデイリーノート、
レポートの修正加筆があるし、
当時の奥さんが家事ができない人だったので、
休みの日に洗濯や掃除をしないといけない。
そうなると土日でしっかり休む、ということが難しいわけです。
心身疲れが溜まるのは容易に想像がつきますよね。
TKAの患者さんの症例レポートがようやく終わった数日後に、
たまたま養成校の登校日がありました。
すっかり病んでいた私は、教員との面談の時に、
「僕を今ここでこ〇すか、実習中止にしてください。患者さんに迷惑をかける前に」
と言って驚かれたのが懐かしいです。
今でもその時の担当教員の顔が10年以上経っても忘れられない(苦笑)
それくらい病みました。追い込まれていました。
「実習先のケースバイザーやスーパーバイザーに自分で相談したらよかったやん」
と教員からも言われました。
言えるわけないやろ
心底そう思いました。
いくら社会人経験者であっても、年齢を重ねていても、
実習先でお世話になる以上は、上下関係ができてしまう。
それが当時、もっと前から続いている実習の文化、というものでした。
今は少し変わってきているところもあります。
でも、まだまだ理不尽な対応をされている学生さんやその親御さんから
私の元に相談のメッセージをいただくことがあるので、本質的にはまだ
変化しきれていないのでしょう。
当時のケースバイザーは私より年下。でもPTとしては先輩。
向こうも学生の私に敬語と気を遣っていることがよくわかりました。
だからこそ、距離感が難しかったのです。
スーパーバイザーは当時40代。
いくら会社員経験者の私でも、20代でしたから、年齢的にも、
スーパーバイザーという立場の人に、
「睡眠時間が確保できないのでなんとかしてください」
みたいなお願いや要望ができるわけがない。
だって実習とはそういうものだと聞かされていたので。
先輩たちが通ってきた道はそういうものだから。
何より、当時の養成校の教員も、私はそこまで信用していなかったので、
実習先で何か揉めた時に守ってくれると
思えなかったのです。
だから、実習先の方々に相談する、ということができませんでした。
あ、ちなみに今の母校の教員は、当時からほとんど入れ替わっていて、
学生のために動いてくれる教員ばかりです。
そこは誤解のないように書いておきます。
ここまで読まれた方で、
「それくらいのことで病むなんて情けない」
と言われるかもしれません。
でも私からしたら、
そういう人はケースバイザーをしてはいけない人です。
人によって病むレベルやきっかけは異なる。
それを理解していない人は人を指導する仕事をしてはいけない。
そこの心や精神の痛み、ダメージを想像できない人は、
目の前の学生さんのそういうダメージがわからない。
そして病んだ学生さんを目の前にして、
「こんなことで病むとは思わなかった」
「昔の俺たちの実習はもっと厳しかった」
と言い訳をしたり、武勇伝を語ったり、責任を何かしらに転嫁するんです。
私の当時のケースバイザーは、別に私を病ませる気はなかったと思う。
でも、
自分の指導は学生のためになってる。病むはずがない。
という意識だったんじゃないかと思います。
そもそも実習初日に
「中井さんは社会人経験者だから、ハードル高いと思ってください」
と言われてたし。
一般企業で働いていた人なんだから、病むことはないだろう、みたいな。
私、当時IT企業で自律神経失調症になって、うつ病一歩手前までいってましたからね。
私が教育指導者になる時に気を付けていること
指導者である以上、学生は弱者でアウェーの場に来ている、くらいに思っていて欲しい。
そして、自分の発言や立ち振る舞い、課題の出し方や指導の仕方によって、学生にとんでもない負荷を与えるかもしれない、と常に考える必要があります。
私も指導するにあたって意識していました。
プレッシャーを与えない。
Twitterでもこんな投稿をしました。
こういう何気ない質問でも、プレッシャーを与えず、
かつこっちも知りたい情報を得られるようにする。
充実した実習を学生さんに提供するために。
そしてこちらも成長できるようにするために。
そして、指導するにあたって大事なポイントは
『国家試験レベルで指導する』
ことです。
TKAの術創部の皮膚の平均癒合日数
とか国試に出ますか?
確かに知っておいて損はない知識だけど、習ってない学生に独力で調べさせることではないと思う。
ちなみに、当時この情報がどこに載っていたのか。
ケースバイザーが教えてくれたのは、
「PTジャーナル」
でした。
学生がパッと調べるものじゃないです。
今でこそインターネット検索で引っかかるかもしれませんが。
国試に沿った内容、準じたレベルで指導したり、学生に課題をこなしてもらう。
その上で臨床の思考過程や、学校では習わない臨床ならではの知識や介入方法を見せたり模倣してもらったり。
そうしてセラピストや医療・介護の仕事の魅力と責任感を伝える。
それがあるべき実習の姿だと思う。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
実習に向かう前の学生さん。
実習に挑んでいる最中の学生さん。
学生を実習先に送り出す養成校の教員の方々。
学生さんを受け入れる施設のセラピスト。
学生さんの両親など身内の方々。
色んな方々のお役に立てる内容であれば幸いです。
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