ノンマルト
「ウルトラセブン」。その第42話に名作「ノンマルトの使者」がある。
ノンマルトとは、僕ら人類の誕生以前に隆盛を極めた「前・地球人」。彼らは、僕ら人類の祖先に追われて今は深海にひっそりと暮らしている。
ところが人類は、その深海をも開発しようとして彼らと衝突する。もう、人類は「前・地球人」を深海に追いやった経緯をすっかり忘れてしまっていて、ノンマルトは、ただの異星人。開発を邪魔だてする悪者。しかしM78星雲からやってきたウルトラセブンは、その「過去」を察し始め、ノンマルトを殲滅する自分に悩み苦しむ…
「ノンマルトの使者」はそういう話し。
オフクロの家系でいえばヨコハマに4代暮らす僕は、高校や大学を卒業するまでを別の街で育った人や、あるいは東京の企業、つまり「よそ者」が、好き勝手に、この街をつくりかえていく様をどこかで苦々しく思っていた。その一方で、抵抗勢力になる実力を持たない地元のお歴々を情けなくも思ってきた。
でもね。わが家も4代前は「流れ者」。つまり「よそ者」だったんだ。
江戸時代、ヨコハマ都心の大部分を占めていた吉田新田や太田屋新田という新田開発地。当時は「大量に米を生産できる土地」というだけで金儲けになたから、なぞらえれば「今のみなとみらい」みたいな土地柄。もちろん「よそ者」による「よそ者」のための開発事業だ。
当時、そういうビジネスな開発地ではなく、旧来からの住民がお金を出しあってドライランドをつくった「横浜村」もあった。でも、完成させてほんの数十年の後。彼らは幕府に退去させられ、その土地は開港地の一部になった。彼らは深海に追いやられたノンマルトだ。
開港地に集まる膨大な「金」は、神奈川宿、保土ヶ谷宿、戸塚宿などに重ねられてきた歴史やまち文化を吹き飛ばし、かつての中心地を辺境に追いやりながら、より大量の「よそ者」を流入させ、その「よそ者」にこそ、多数決の「多数」を与えてきた。
だからヨコハマ文化には「芯」がない。
今は郊外のニュータウンも、つい最近まで豊かな田園だったところ。出入りが激しい中で、ヨコハマにとって、誰がノンマルトはなのか。そんなことも、もはや不明確ですらある。
わが家もひいばあちゃんがこの街にやってきてから150年近くになる。でも、わが家ですら「よそ者」の系譜、ノンマルトではないんだ。
オヤジの家が東京で分家したのが「暴れん坊将軍」の頃。でもね。本家だって、もともとは、400年と少し前、近江から江戸に下ってきた「新参者」。江戸ノンマルトではない。
ノンマルトって、どこにいるんだろう。僕らに「侵略者」の記憶はない。