
【完全保存版】胃がんの全て:症状から最新治療法まで、専門医が教える知識と対策
胃がんは日本人にとって非常に身近な病気です。生涯で男性の10人に1人、女性の21人に1人が発症するという統計があります。本記事では、京都大学病院の消化管外科の専門医による解説をもとに、胃がんの基礎知識から最新の治療法まで、患者さんやそのご家族が知っておくべき情報を包括的にお伝えします。胃がんと診断された方はもちろん、予防や早期発見に関心がある方にとっても、貴重な情報源となるでしょう。
目次
胃がんの基礎知識
胃がんの発生メカニズムと原因
胃がんの症状と自己チェック
胃がんの検査と診断方法
胃がんの進行度(ステージ)について
胃がんの治療法の概要
内視鏡的治療の詳細
外科的治療(手術)の種類と方法
腹腔鏡手術とロボット手術の最前線
術後の合併症とその対策
薬物療法の種類と特徴
治療後の食事と生活の注意点
再発予防と定期検診の重要性
胃がん患者さんの体験談
胃がん予防のための生活習慣
最新の研究動向と治療法の展望
胃がん治療における緩和ケアの役割
医師との上手な付き合い方
胃がん患者さんとご家族へのメッセージ
よくある質問と回答
1. 胃がんの基礎知識
胃がんは、胃の内側の粘膜から発生するがんで、日本において非常に発症率の高いがんのひとつです。厚生労働省のデータによると、日本では年間約12.6万人が新たに胃がんと診断され、約4.3万人が胃がんで亡くなっています。これは、がんの発症数では肺がんに次いで第2位、死亡数では第3位に位置する、まさに国民病と言えるでしょう。
胃は食道と十二指腸の間に位置し、食物を一時的に貯蔵し、消化液と混ぜ合わせて消化を助ける重要な臓器です。胃は大きく分けて、上部(噴門部)、中部(胃体部)、下部(幽門部)の3つの部位に分けられます。胃がんはこれらのどの部位にも発生する可能性がありますが、近年は上部(噴門部)のがんが増加傾向にあると報告されています。
胃がんの発症リスクは年齢とともに上昇し、多くは50歳以上の方に見られます。特に60代から70代にかけてピークを迎えますが、近年は若年層での発症も報告されています。また、男性は女性の約2倍の発症率であることも特徴的です。
世界的に見ると、胃がんの発症率は地域によって大きく異なります。東アジア(日本、韓国、中国)、東ヨーロッパ、南米の一部で発症率が高く、北米、西ヨーロッパ、アフリカでは比較的低いことが知られています。これは食習慣や生活環境、特にピロリ菌感染率の違いが大きく影響していると考えられています。
日本は世界でも胃がん発症率の高い国のひとつでしたが、近年は減少傾向にあります。これは食生活の西洋化や冷蔵庫の普及による食品保存方法の改善、そしてピロリ菌除菌治療の普及などが要因と考えられています。しかし、依然として胃がんは日本人にとって身近な病気であり、早期発見・早期治療が非常に重要です。
2. 胃がんの発生メカニズムと原因
胃がんの発生には複数の要因が複雑に絡み合っていますが、最も重要な原因として挙げられるのがヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)の感染です。胃がん患者の実に90%以上がピロリ菌に感染していたという研究結果もあり、世界保健機関(WHO)はピロリ菌を「確実な発がん因子(クラス1)」に分類しています。
ピロリ菌と胃がんの関係
ピロリ菌は主に幼少期に家庭内で感染します。主な感染経路は、
汚染された水や食べ物からの感染
家族(特に母親)との口移しによる感染
不衛生な環境での経口感染
などが考えられています。
ピロリ菌が胃に感染すると、慢性的な胃炎を引き起こします。この慢性胃炎が長期間(通常10年以上)続くことで、胃粘膜に以下のような変化が段階的に現れます:
慢性胃炎:ピロリ菌の感染によって胃粘膜に炎症が起こります
萎縮性胃炎:長期間の炎症により胃粘膜が薄くなり機能が低下します
腸上皮化生:胃粘膜が腸の粘膜に似た組織に変化します
異形成:細胞の形や大きさに異常が現れます
胃がん:悪性の腫瘍へと進行します
この一連の変化を「胃がんの発生カスケード」と呼びます。しかし、ピロリ菌に感染しても、すべての人が胃がんを発症するわけではありません。発症には個人の遺伝的要因や、食生活などの環境要因も大きく関わっています。
ピロリ菌の除菌治療は、胃がんの発症リスクを約50%低減できることが分かっています。しかし、注意すべき点として、除菌後も胃粘膜の変化(特に腸上皮化生)が高度に進んでいる場合は、胃がん発症のリスクが残ることが知られています。そのため、除菌治療後も定期的な検診が推奨されています。
その他の胃がんリスク要因
ピロリ菌以外にも、胃がんの発症リスクを高める要因としては以下のようなものが挙げられます:
塩分の多い食生活:高塩分食品の常用は胃粘膜を傷つけ、胃がんのリスクを上げることが複数の研究で示されています。特に塩蔵食品、漬物、塩辛いスープなどの過剰摂取は注意が必要です。
喫煙:タバコに含まれる発がん物質は胃粘膜に直接的なダメージを与えます。喫煙者は非喫煙者と比較して胃がんのリスクが1.5〜2倍高いとされています。
加工肉・燻製品の過剰摂取:ベーコン、ハム、ソーセージなどの加工肉には発がん性のある物質(ニトロソ化合物など)が含まれていることがあります。
アルコールの過剰摂取:特に強い酒の常用は胃粘膜を刺激し、胃がんのリスクを高める可能性があります。
遺伝的要因:家族歴(特に第一度近親者に胃がん患者がいる場合)も重要なリスク因子です。特定の遺伝子変異を持つ場合、胃がんのリスクが高まることが知られています。
既往歴:胃ポリープ、萎縮性胃炎、腸上皮化生、過去の胃の手術などの既往がある場合も、胃がんのリスクが高まります。
これらの要因が複合的に作用することで、胃がんの発症リスクが決まると考えられています。リスク要因を減らし、定期的な検診を受けることが、胃がんの予防と早期発見につながります。
3. 胃がんの症状と自己チェック
胃がんは特に初期段階では明確な症状が現れないことが多く、これが早期発見を難しくする要因となっています。多くの早期胃がんは人間ドックや検診で偶然発見されるケースが多いのが現状です。しかし、がんが進行するにつれて様々な症状が現れるようになります。
早期胃がんの症状
早期胃がんは基本的に自覚症状がないことが大半です。しかし、一部の患者さんでは以下のような軽度の症状が見られることもあります:
軽度の胃部不快感:特に食後に感じることが多いですが、胃炎や胃潰瘍なども似た症状を示すため、専門家による診断が必要です。
食欲不振:特定の食べ物を避けるようになる、以前より食べる量が減るなどの変化が見られることがあります。
軽度の消化不良:胸やけ、げっぷが増える、胃もたれ感などの症状が続くことがあります。
口当たりの変化:特定の食べ物(特に肉類など)に対して突然嫌悪感を感じるようになることがあります。
これらの症状は胃炎や胃潰瘍、機能性ディスペプシアなど他の胃の疾患でも見られるため、症状だけで胃がんと判断することはできません。しかし、これらの症状が2週間以上続く場合は、医療機関を受診することをお勧めします。
進行胃がんの症状
胃がんが進行すると、より明確で深刻な症状が現れるようになります:
持続的な上腹部痛:食事に関係なく続く痛みや不快感が特徴です。
体重減少:食欲不振や消化吸収障害により、意図しない体重減少が起こります。短期間(3ヶ月程度)で5%以上の体重減少がある場合は注意が必要です。
吐血または黒色便(メレナ):胃がんが粘膜の血管を破壊すると出血が起こり、血を吐いたり、消化された血液が黒い便として排出されたりします。
貧血症状:慢性的な出血により鉄欠乏性貧血を引き起こし、顔面蒼白、疲労感、めまい、息切れなどの症状が現れることがあります。
嚥下困難:特に食道と胃の接合部(噴門部)に発生したがんでは、食べ物を飲み込みにくくなることがあります。
腹部膨満感:がんによる胃の出口(幽門部)の狭窄や、腹水の貯留によって、お腹が張った感じがすることがあります。
早期満腹感:少量の食事でもすぐにお腹がいっぱいになる感覚です。
これらの症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。ただし、これらの症状があるからといって、必ずしも胃がんであるとは限りません。専門医による適切な検査と診断が必要です。
自己チェックと注意すべきポイント
胃がんの早期発見のために、以下のような変化に注意することが大切です:
食習慣の変化:食欲低下、特定の食べ物への嫌悪感、食べる量の減少など
体重の変化:意図しない体重減少(特に短期間での5%以上の減少)
消化器症状の持続:2週間以上続く胃部不快感、消化不良、胸やけなど
便の色の変化:黒色便や血便
疲労感や倦怠感:原因不明の疲れや体力低下
腹部の違和感:上腹部の持続的な痛みや不快感
特に以下のような方は、症状が軽度であっても注意が必要です:
50歳以上の方
胃がんの家族歴がある方
ピロリ菌感染者または感染歴がある方
萎縮性胃炎や腸上皮化生と診断されたことがある方
喫煙者
塩分の多い食事を好む方
これらのリスク要因を持つ方は、症状の有無にかかわらず、定期的な胃がん検診を受けることをお勧めします。早期発見が治療の成功率を大きく高めることを忘れないでください。
4. 胃がんの検査と診断方法
胃がんの検診と診断には様々な方法がありますが、最も確実な診断方法は上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。ここでは、胃がんの検査と診断に関する詳細について解説します。
一次検診のオプション
胃がん検診の一次検診には、主に以下の2つの方法があります:
胃部X線検査(バリウム検査):
バリウムと呼ばれる造影剤を飲み、X線を使って胃の形や粘膜の状態を観察します。
比較的安価で広く普及している検査法ですが、小さながんの発見率は内視鏡検査より低いとされています。
検査前の食事制限や、検査後のバリウム排出のための下剤服用などが必要です。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):
口または鼻から細い内視鏡を挿入し、胃の内部を直接観察する検査です。
小さながんの発見率が高く、同時に組織検査(生検)も可能です。
検査時の不快感が不安な方には、鎮静剤を使用する選択肢もあります。
近年では経鼻内視鏡(鼻から挿入する胃カメラ)も普及し、嘔吐反射が少なく検査時の負担が軽減されています。
日本消化器病学会や日本消化器内視鏡学会では、より精度の高い上部消化管内視鏡検査を一次検診として推奨する傾向にあります。特に50歳以上の方や、ピロリ菌感染者、萎縮性胃炎と診断された方などは、内視鏡検査を優先的に受けることが望ましいとされています。
精密検査の方法
胃がんが疑われる場合や、一次検診で異常が見つかった場合には、以下のような精密検査が行われます:
生検(組織検査):
内視鏡検査で異常が見つかった場合、その部位から小さな組織を採取して顕微鏡で調べる検査です。
これにより、がんであるかどうか、がんであればその種類(組織型)を確定することができます。
生検の痛みはほとんどなく、組織を採取する時にわずかに圧迫感を感じる程度です。
超音波内視鏡検査(EUS):
通常の内視鏡の先端に超音波装置がついた特殊な内視鏡を用いる検査です。
胃壁の層構造を詳細に観察でき、がんの深達度(胃の壁のどこまで広がっているか)を正確に評価できます。
特に早期胃がんの治療方針を決定する際に重要な情報を提供します。
CT検査(コンピュータ断層撮影):
X線を使って体の断層画像を撮影し、胃がんの広がりやリンパ節転移、他の臓器への転移を調べます。
造影剤を使用することで、より詳細な情報を得ることができます。
放射線被曝があるため、必要に応じて行われます。
PET-CT検査:
がん細胞が正常細胞より多くの糖を取り込む性質を利用した検査です。
全身のがんの広がりを一度に調べることができますが、小さながんや粘液産生型のがんでは検出されにくいという限界もあります。
保険適用は限られており、主に転移や再発の評価に用いられます。
MRI検査:
磁気を利用して体内の画像を得る検査で、放射線被曝がありません。
主に肝臓への転移の評価や、特定の状況での局所評価に用いられます。
腹腔鏡検査:
お腹に小さな穴を開け、腹腔鏡という細い管を挿入して腹腔内を直接観察する検査です。
CT検査では検出が難しい腹膜播種(腹膜への転移)の有無を確認するために行われることがあります。
主に進行胃がんで、根治手術の適応を最終判断するために行われます。
これらの検査結果を総合的に判断して、胃がんの診断と病期(ステージ)の決定、そして最適な治療方針が決定されます。
検査の流れと注意点
一般的な胃がん検査の流れは以下のようになります:
問診と身体診察:症状や既往歴、家族歴などを確認します。
一次検診:胃部X線検査または上部消化管内視鏡検査が行われます。
精密検査:一次検診で異常が見つかった場合、生検を含む内視鏡検査やCT検査などが行われます。
ステージング検査:がんと診断された場合、進行度(ステージ)を決定するための追加検査が行われます。
検査を受ける際の注意点:
食事制限:多くの検査では、検査前の一定時間(通常6〜8時間)は食事を控える必要があります。
服薬:常用薬がある場合は、事前に医師に相談しましょう。特に血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)は、検査や生検の際に出血のリスクを高める可能性があります。
不安の緩和:特に内視鏡検査に不安がある方は、事前に医師に相談しましょう。鎮静剤の使用や経鼻内視鏡の選択などの対応が可能な場合があります。
検査結果の理解:検査結果については、医師からしっかりと説明を受け、分からないことがあれば質問することが重要です。
これらの検査によって、胃がんの正確な診断と病期の決定が可能となり、個々の患者さんに最適な治療方針を立てることができます。早期発見・早期治療のためにも、定期的な検診を受けることをお勧めします。
5. 胃がんの進行度(ステージ)について
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