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胃の悲鳴を聞こえますか?消化性潰瘍の全てを知る完全攻略ガイド


はじめに

皆さん、こんにちは。今日は「消化性潰瘍」について徹底的に掘り下げていきたいと思います。「胃が痛い」「胸やけがする」という症状、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。その痛みの正体が「消化性潰瘍」かもしれません。

消化性潰瘍は、現代社会を生きる私たちにとって、意外と身近な病気です。ストレス社会と言われる現代において、胃腸の不調を感じている方は少なくありません。しかし、その原因や対処法については、意外と知られていないことも多いのです。

本記事では、京都大学病院の消化器内科医師による専門的な知見を基に、消化性潰瘍の基礎知識から最新の治療法、そして再発予防まで、徹底的に解説していきます。これを読めば、あなたも消化性潰瘍のエキスパートになれること間違いなしです!

目次

  1. 消化性潰瘍とは何か

  2. 消化性潰瘍の現状と推移

  3. 胃の中で繰り広げられる攻防戦

  4. 消化性潰瘍の主な原因

    • ヘリコバクターピロリ菌感染

    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用

    • その他の要因

  5. 消化性潰瘍の症状と合併症

  6. 消化性潰瘍の検査方法

    • 上部消化管内視鏡検査

    • その他の検査

  7. 消化性潰瘍の治療法

    • 薬物療法

    • 内視鏡による止血処置

    • 外科的治療

  8. 消化性潰瘍からの回復と生活習慣

  9. 再発予防のポイント

    • ピロリ菌除菌療法

    • NSAIDs服用時の注意点

  10. まとめ

  11. よくある質問

1. 消化性潰瘍とは何か

消化性潰瘍とは、何らかの原因によって胃や十二指腸の粘膜に傷がついて、えぐれた状態になることを言います。一般的には胃潰瘍や十二指腸潰瘍のことを指します。

潰瘍とは、表面的な傷(びらん)よりも深く、粘膜層を越えて粘膜下層以上に達する損傷のことです。胃や十二指腸の壁は、内側から「粘膜」「粘膜下層」「筋層」「漿膜」という4つの層からなっています。びらんは粘膜内の浅い損傷ですが、潰瘍になると粘膜下層以上の深いところまで達します。

潰瘍の特徴は、その深さだけではありません。潰瘍の周囲には、炎症反応や修復反応として、粘膜の盛り上がりが見られます。これを「再生上皮」と呼びます。内視鏡検査で見ると、中央がくぼんでいて周囲が盛り上がった「火山のような形」をしています。

消化性潰瘍は、発生部位によって「胃潰瘍」と「十二指腸潰瘍」に分けられます。胃潰瘍は胃の中に発生する潰瘍で、十二指腸潰瘍は胃の出口から続く十二指腸の最初の部分(十二指腸球部)に発生することが多いです。

両者は発生メカニズムや症状にいくつかの違いがありますが、基本的な病態や治療方針は共通している点も多いため、一括して「消化性潰瘍」と呼ばれることが多いのです。

2. 消化性潰瘍の現状と推移

消化性潰瘍の患者数は、この数十年で大きく減少しています。データによると、1996年ではおよそ13万人だった患者数が、2020年にはおよそ1万4000人と激減しています。これは約90%の減少率になります。

この減少の背景には、主に二つの要因があります。

一つ目は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの、胃酸を抑える治療薬の開発です。これらの薬剤は強力に胃酸分泌を抑制することができ、消化性潰瘍の治療を革命的に変えました。

二つ目は、消化性潰瘍の主な原因であるヘリコバクターピロリ菌の除菌治療の確立と、ピロリ菌感染率の低下です。以前は胃潰瘍や十二指腸潰瘍は「繰り返す病気」と言われていましたが、ピロリ菌を除菌することで再発率が劇的に下がることがわかってきました。

また、日本におけるピロリ菌の感染率は年々低下しています。高齢者では70〜80%の感染率があるのに対し、若年層では10〜20%程度と言われています。これは、公衆衛生の向上や生活環境の変化によるものと考えられています。

しかし、依然として消化性潰瘍で苦しんでいる方は多く存在します。特に高齢者や、後述する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を継続的に服用している方では、消化性潰瘍のリスクが高いままです。

消化性潰瘍は、適切な治療を行わなければ、重篤な合併症を引き起こす可能性がある疾患です。患者数は減少しているものの、依然として注意が必要な病気であることに変わりはありません。

3. 胃の中で繰り広げられる攻防戦

私たちの胃の中では、常に「攻撃因子」と「防御因子」が攻め合っています。このバランスが崩れると、消化性潰瘍が生じると考えられています。

攻撃因子

胃の中の主な攻撃因子には以下のようなものがあります。

胃酸

胃では、食べ物を消化するために強力な胃酸(塩酸)が分泌されています。この胃酸は、pH1〜2という非常に強い酸性を示し、食物に含まれるタンパク質の変性や細菌の殺菌などの役割を果たしています。しかし、この強力な酸は自分自身の胃粘膜も傷つけてしまう可能性があります。

ペプシン

胃から分泌される消化酵素の一つで、胃酸によって活性化されます。タンパク質を分解する働きがありますが、胃粘膜のタンパク質も分解してしまう可能性があります。

十二指腸液

十二指腸では、膵臓からの膵液や肝臓からの胆汁が流れ込みます。これらの消化液には、食べ物を消化する働きがありますが、胃や十二指腸の粘膜も傷つけてしまう可能性があります。

ヘリコバクターピロリ菌

最も重要な攻撃因子の一つです。胃の中は強い酸性環境にあり、通常の細菌は生息できませんが、ピロリ菌は特別な酵素(ウレアーゼ)を産生することで生息が可能になっています。ピロリ菌そのものや、ピロリ菌に対して起こる炎症反応によって胃粘膜が障害され、潰瘍が生じやすくなります。

防御因子

一方、胃や十二指腸には、自分自身の粘膜を保護するための防御因子もあります。

粘液層

胃や十二指腸の表面は、粘液によって覆われています。この粘液層は、胃酸やペプシンが直接粘膜に触れるのを防ぐバリアの役割を果たしています。

重炭酸イオン

粘液層の下には、重炭酸イオンが豊富に存在し、胃酸を中和する働きがあります。

豊富な血流

胃や十二指腸の粘膜には豊富な血流があり、傷ついた粘膜の修復に必要な栄養素や酸素を供給しています。

プロスタグランジン

胃や十二指腸の粘膜で産生される物質で、胃酸分泌を抑制したり、粘液や重炭酸イオンの分泌を促進したり、血流を増加させたりする働きがあります。

これらの攻撃因子と防御因子のバランスが維持されている限り、胃や十二指腸の粘膜は健康を保つことができます。しかし、何らかの原因でこのバランスが崩れると、粘膜が傷つき、びらんや潰瘍が生じることになります。

次に、このバランスを崩す主な原因について見ていきましょう。

4. 消化性潰瘍の主な原因

消化性潰瘍の原因はさまざまですが、特に重要なのは次の2つです。

  1. ヘリコバクターピロリ菌感染

  2. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用

これらは「消化性潰瘍の2大リスク因子」と呼ばれています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ヘリコバクターピロリ菌感染

ヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌)は、1982年にオーストラリアの研究者によって発見された細菌です。この発見は後に消化性潰瘍の原因解明と治療に革命をもたらし、2005年にはノーベル医学生理学賞の受賞につながりました。

ピロリ菌は、通常の細菌が生きられないような強い酸性環境にある胃の中でも生息できる特殊な細菌です。ウレアーゼという酵素を産生して尿素からアンモニアを作り出し、周囲を中和することで自らの生存環境を作り出しています。

ピロリ菌が胃粘膜に感染すると、以下のような機序で粘膜障害を引き起こします:

  1. 直接的な細胞障害:ピロリ菌が産生する毒素(VacAやCagAなど)が胃粘膜細胞を傷害します。

  2. 炎症反応の惹起:ピロリ菌の感染に対して体は炎症反応を起こします。この際に放出される炎症性サイトカインや活性酸素種が粘膜を傷害します。

  3. 胃酸分泌の増加:ピロリ菌感染によって、胃酸分泌を調節するホルモンのバランスが崩れ、胃酸分泌が増加することがあります。

  4. 防御因子の低下:ピロリ菌感染によって粘液の産生が減少するなど、防御因子が弱まります。

ピロリ菌の感染率は年々減少していますが、日本の40歳以上の方では、いまだに30〜50%程度の方が感染していると言われています。特に高齢者では感染率が高く、70歳以上では70〜80%の方が感染しているというデータもあります。

ピロリ菌に感染していると、消化性潰瘍の発生リスクは約18倍に上昇すると言われています。また、ピロリ菌は胃がんの発生にも関与していることがわかっており、日本ではピロリ菌感染者は除菌治療の対象となっています。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛み止めや解熱剤として広く使用されている薬剤です。ロキソプロフェン(ロキソニン)、イブプロフェン(ブルフェン、イブ)、ジクロフェナク(ボルタレン)などが代表的なNSAIDsです。また、アスピリンも低用量であってもNSAIDsに分類されます。

NSAIDsは以下のような機序で消化性潰瘍を引き起こします:

  1. プロスタグランジン合成阻害:NSAIDsの主な作用機序は、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害し、プロスタグランジンの合成を抑制することです。しかし、プロスタグランジンは胃粘膜保護に重要な役割を果たしているため、その合成が抑制されると防御因子が弱まります。

  2. 胃粘膜血流の減少:プロスタグランジンは胃粘膜の血流を維持する作用もあります。NSAIDsによってプロスタグランジン合成が阻害されると、胃粘膜の血流が減少し、粘膜の修復能力が低下します。

  3. 粘液・重炭酸イオン分泌の減少:プロスタグランジンは粘液や重炭酸イオンの分泌も促進しています。NSAIDsによってこれらの分泌が減少すると、胃酸に対する防御力が弱まります。

NSAIDsを内服していると、消化性潰瘍の発生リスクは約19倍に上昇すると言われています。特に注意が必要なのは、低用量アスピリンを含むNSAIDsを長期服用している方です。低用量アスピリンは脳卒中や心筋梗塞の予防のために多くの方が服用していますが、消化性潰瘍のリスクを高めることがわかっています。

さらに恐ろしいことに、ピロリ菌感染がありかつNSAIDsを内服している場合、消化性潰瘍の発生リスクは約60倍にも上昇すると言われています。これは両者の効果が相乗的に作用するためと考えられています。

その他の要因

最近では、ピロリ菌感染やNSAIDs服用以外の原因による潰瘍も増えてきています。これらは「ピロリ菌陰性・NSAIDs非服用潰瘍」あるいは「特発性潰瘍」と呼ばれることがあります。

その他の要因としては以下のようなものがあります:

  1. 糖尿病:糖尿病患者では自律神経障害や血管障害により、胃粘膜の血流が減少し、防御因子が弱まることがあります。

  2. 慢性腎不全:腎不全患者では、尿素窒素の上昇などにより胃粘膜が障害されやすくなります。

  3. 肝硬変:門脈圧亢進による胃粘膜の鬱血や、凝固異常による出血傾向があります。

  4. ステロイド薬:ステロイド薬もプロスタグランジン合成を抑制し、NSAIDsと同様の機序で消化性潰瘍を引き起こすことがあります。

  5. 抗血小板薬・抗凝固薬:これらの薬剤自体は直接粘膜障害を起こすわけではありませんが、出血のリスクを高めます。

  6. ストレス:重症感染症、多臓器不全、大きな手術、重度の外傷などの強いストレス状態では、「ストレス潰瘍」と呼ばれる急性の消化性潰瘍が発生することがあります。

  7. 喫煙:たばこに含まれるニコチンは胃粘膜の血流を減少させ、防御因子を弱めます。また、喫煙者ではピロリ菌の除菌率が低下することも知られています。

  8. アルコール:大量のアルコール摂取は胃粘膜を直接障害し、消化性潰瘍のリスクを高めます。

  9. 過度のストレス:精神的ストレスも胃酸分泌を増加させたり、胃粘膜の血流を減少させたりすることで、消化性潰瘍のリスクを高める可能性があります。

これらの要因が複合的に作用することで、消化性潰瘍のリスクがさらに高まることがあります。特に高齢者では複数のリスク因子を持っていることが多く、注意が必要です。

5. 消化性潰瘍の症状と合併症

消化性潰瘍は、さまざまな症状を引き起こします。また、適切に治療しないと深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。ここでは、消化性潰瘍の典型的な症状と、起こり得る合併症について解説します。

典型的な症状

腹痛(心窩部痛)

消化性潰瘍の最も典型的な症状は、みぞおち(心窩部)の痛みです。この痛みの特徴は以下の通りです:

  • 胃潰瘍の場合:食後に痛むことが多い(食後痛)

  • 十二指腸潰瘍の場合:空腹時に痛むことが多い(空腹痛)、食事で痛みが和らぐこともある

痛みの性質は、鈍痛、灼熱感、締め付けられるような感じなど様々です。また、背中に放散する場合もあります。

食欲低下

痛みや不快感のために、食欲が低下することがあります。特に胃潰瘍では、食後に痛みが増すため、食べることを避けるようになり、体重減少につながることもあります。

吐き気・嘔吐

消化性潰瘍に伴って、吐き気や嘔吐を認めることがあります。特に、潰瘍が胃の出口(幽門)付近にある場合や、潰瘍によって胃の出口が狭くなっている場合(幽門狭窄)には、食べ物が胃から十二指腸へと進まず、嘔吐を繰り返すことがあります。

出血に伴う症状

消化性潰瘍が血管を侵食すると、出血を引き起こします。出血の程度によって、以下のような症状が現れます:

吐血

口から血を吐くことを吐血と言います。新鮮な赤い血を吐く場合もあれば、胃の中で血が胃酸と反応して黒く変色し、「コーヒー残渣様」と表現される黒い吐物となることもあります。

黒色便(メレナ)

潰瘍からの出血が腸管内で消化されると、黒いタール状の便(メレナ)となります。これは消化管上部からの出血を示す重要なサインです。

貧血症状

持続的な出血や大量出血によって貧血が生じると、以下のような症状が現れることがあります:

  • 顔面蒼白

  • めまい・ふらつき

  • 動悸

  • 息切れ

  • 全身倦怠感

特に高齢者では、これらの貧血症状が最初の手がかりとなり、消化性潰瘍が発見されることもあります。

重篤な合併症

消化性潰瘍が進行すると、以下のような重篤な合併症を引き起こす可能性があります:

穿孔(せんこう)

潰瘍が胃や十二指腸の壁を貫通して穴が開くことを穿孔と言います。穿孔が起こると、胃や十二指腸の内容物が腹腔内に漏れ出し、細菌感染を伴う腹膜炎を引き起こします。これは緊急手術が必要な、命に関わる合併症です。

穿孔が起こると、突然の激しい腹痛が現れます。特にみぞおちから上腹部全体にかけての強い痛みが特徴的です。痛みは呼吸や体動で増強し、板のように硬い腹部(板状硬)が認められます。

大量出血

潰瘍が大きな血管を侵食すると、大量出血を起こすことがあります。大量の吐血や黒色便があり、ショック状態(血圧低下、脈拍増加、冷汗、意識障害など)に陥ることもあります。これも緊急処置が必要な状態です。

幽門狭窄

潰瘍を繰り返すうちに、瘢痕(傷跡)形成によって胃の出口(幽門)が狭くなることがあります。これを幽門狭窄と言います。幽門狭窄が起こると、食べ物が胃から十二指腸へと進まず、食後の膨満感、嘔吐を繰り返すようになります。

これらの合併症は、消化性潰瘍の治療が遅れたり、適切な治療が行われなかったりした場合に起こりやすくなります。特に高齢者や、NSAIDs服用中の方では、症状が乏しいまま合併症が起こることもあるため、注意が必要です。

痛みを我慢していると、取り返しのつかない事態になることもあります。みぞおちの痛みや、黒い便が出るなどの症状があれば、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

6. 消化性潰瘍の検査方法

消化性潰瘍が疑われる場合、どのような検査が行われるのでしょうか。ここでは、消化性潰瘍の診断に用いられる主な検査について解説します。

上部消化管内視鏡検査

消化性潰瘍の確定診断には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が最も重要です。この検査では、口や鼻から細い管を挿入し、胃や十二指腸の内部を直接観察します。

内視鏡検査によって、以下のようなことがわかります:

  1. 潰瘍の存在:胃や十二指腸の粘膜がえぐれた状態(潰瘍)を直接確認できます。

  2. 潰瘍の部位:潰瘍が胃のどの部位にあるか、あるいは十二指腸にあるかを確認できます。

  3. 潰瘍の大きさと深さ:潰瘍の大きさや深さを評価することで、重症度を判定できます。

  4. 悪性の可能性:潰瘍が良性か悪性(胃がんなど)かを評価するのに役立ちます。疑わしい場合は組織を採取(生検)して、顕微鏡で調べることもできます。

  5. 出血の有無:潰瘍からの出血があるかどうか、また出血のリスクが高い所見(露出血管など)があるかどうかを確認できます。

  6. ピロリ菌感染:内視鏡検査の際に、ピロリ菌感染の有無を調べるための検査も同時に行うことができます。

内視鏡検査は、通常は鼻から挿入する経鼻内視鏡と口から挿入する経口内視鏡があります。経鼻内視鏡は細いため患者の負担が少ない利点がありますが、止血処置などの治療ができません。そのため、消化性潰瘍が疑われる場合、特に潰瘍からの出血の可能性がある場合には、治療も可能な経口での内視鏡検査が一般的に行われます。

なお、内視鏡検査は症状がない場合でも、人間ドックや健康診断のオプション検査として行われることがあり、その際に偶然消化性潰瘍が見つかることもあります。

その他の検査

バリウム検査(上部消化管造影検査)

バリウムという造影剤を飲み、X線で撮影する検査です。以前は消化性潰瘍の診断に広く用いられていましたが、現在では内視鏡検査が主流となっています。しかし、内視鏡検査が困難な場合や、胃の形や動きを評価したい場合には、現在でも行われることがあります。

CT検査

穿孔や膿瘍形成など、重篤な合併症が疑われる場合には、CT検査が行われます。特に穿孔が疑われる場合、内視鏡検査を行うことで状態を悪化させる可能性があるため、先にCT検査を行って状態を確認することがあります。

血液検査

消化性潰瘍自体の診断に特異的な血液検査はありませんが、以下のような目的で血液検査が行われます:

  1. 貧血の評価:ヘモグロビン値やヘマトクリット値を測定し、潰瘍からの出血による貧血の有無や程度を評価します。

  2. 炎症反応:白血球数やCRP(C反応性タンパク)値を測定し、炎症の程度を評価します。特に穿孔や膿瘍形成などの合併症がある場合には、炎症反応が強く出ることがあります。

  3. ピロリ菌感染の診断:血清中のピロリ菌抗体を測定することで、ピロリ菌感染の有無を調べることができます。

ピロリ菌検査

ピロリ菌感染の有無を調べる検査には、以下のようなものがあります:

  1. 内視鏡検査時の生検による検査:

    • 迅速ウレアーゼ試験:生検組織をウレアーゼ試験キットに入れ、色の変化でピロリ菌の存在を確認します。

    • 病理組織検査:生検組織を顕微鏡で観察し、ピロリ菌の存在を直接確認します。

    • 培養検査:生検組織からピロリ菌を培養し、薬剤感受性(どの抗菌薬が効くか)を調べることができます。

  2. 呼気試験:尿素を含む試験飲料を飲み、呼気中の炭素同位体を測定します。ピロリ菌がいると、尿素からアンモニアと二酸化炭素を産生するため、呼気中の炭素同位体が増加します。

  3. 便中抗原検査:便の中にピロリ菌の抗原があるかどうかを調べる検査です。

  4. 血清抗体検査:血液中にピロリ菌に対する抗体があるかどうかを調べる検査です。過去の感染でも陽性になることがあるため、現在の感染を確認するには不十分な場合があります。

これらの検査を組み合わせることで、消化性潰瘍の正確な診断と、適切な治療方針の決定が可能になります。

7. 消化性潰瘍の治療法

消化性潰瘍の治療は、潰瘍の原因や状態によって異なります。ここでは、主な治療法について解説します。

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