本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月29日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
また、記事中の地図はISW制作の地図を使用し、この記事のサムネイル画像はX投稿の画像を加工して使用した。
ロシア空挺軍司令官テプリンスキー大将、ヘルソン方面司令官に就任か
日本語訳:
10月29日、複数のロシア軍事ブロガーは、空挺軍(VDV)司令官ミハイル・テプリンスキー大将が、オレグ・マカレヴィッチ大将に代わって、ヘルソン方面で任務遂行中のロシア軍「ドニエプル」部隊集団の司令官に就任したと主張した。この報告書の公開時点で、ロシア国防省はマカレヴィッチの解任に関して発表しておらず、それを裏付けることもしていない。また、知名度の高い軍司令官の変更を通常、隠す傾向がロシア国防省にあることを考えると、同国防省が発表や裏付けをする可能性は低い。ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、最近の10月19日にウラジーミル・プーチン露大統領がロストフ・ナ・ドヌーの南部軍管区(SMD)司令部を訪問した際、プーチンがマカレヴィッチを解任したと主張した。この軍事ブロガーはまた、テプリンスキーは戦域総司令部副司令官の地位から事実上降格されたと主張したけれども、テプリンスキーが今でも総司令部副司令官の地位にあるのか、そうでないのかは不明だ。クレムリンの影響下にある軍事ブロガー・アカウントの一つは、マカレヴィッチ解任の噂はこの1週間であらわれた噂だと主張し、ヘルソン方面の軍事情勢へのマカレヴィッチの対処を考えると、彼の解任は「もっと早くてもよかった」と主張した。また、この軍事ブロガーは、ロシア連邦軍参謀次長アレクセイ・キム大将が、在ウクライナ・ロシア統合部隊集団のすべてを、事実上指揮しているという見解も加えて示した。これらの主張に関して、ISWは独自の真偽判断ができない。
日本語訳:
マカレヴィッチ解任報告が示唆しているのは、ヘルソン州東岸(左岸)での、いつも以上に規模の大きなウクライナ軍地上作戦を、マカレヴィッチが撃退できるかどうかについて、クレムリンもしくはロシア軍統帥部がかなり懸念しており、また、かなり懐疑的になっている可能性があるということだ。上述のクレムリン影響下にあるロシア軍事ブロガーは、クリンキ(ヘルソン州東岸の集落)にあるウクライナ軍の小「橋頭堡」が、マカレヴィッチ解任の引き鉄になった可能性が高いと主張した。ほかの複数のロシア軍事ブロガーも同じような理屈を繰り返しており、ヘルソン州東岸で繰り返し起こるウクライナ軍上陸行動は、マカレヴィッチの怠慢さと、彼が主導的にまったく指揮できていないことによって可能になったと主張した。軍事ブロガー・アカウントの一つは、ヘルソン州東岸のウクライナ軍「橋頭堡」は危険な前例になっており、マカレヴィッチ指揮下のロシア軍では、ウクライナ軍の脅威への適切な対応・対抗ができなかったと主張した。
日本語訳:
別の見方として、激化するウクライナ軍地上攻撃を背景に、マカレヴィッチの敵対者が、ヘルソン州における彼の指揮の失敗をウラジーミル・プーチン露大統領に納得させることに成功した可能性もある。2023年夏のヘルソン州東岸へのウクライナ軍強襲に対して、マカレヴィッチが適切な指揮をとることに失敗し、また、これらの強襲に対応できるロシア軍の態勢を整えることに失敗したということに関して、ロシア軍事ブロガーのある一部のグループは以前、マカレヴィッチを非難していた。これらの軍事ブロガーのなかには、2023年冬にマカレヴィッチがテプリンスキーに代わってVDV司令官になったという話が伝えられたのち、テプリンスキーを著しく称賛し、その反対にマカレヴィッチを手厳しく批判した者もいた。ワグネル・グループの影響下にある軍事ブロガー・アカウントの一つが主張した内容によると、マカレヴィッチが担当地区に関する正確な情勢情報を上にあげていなかったことを、詳細は不明だが、複数の情報機関当局者がロシア「最高司令部」(おそらくプーチンのことと思われる)に知らせたのち、マカレヴィッチはその地位から解任されたとのことだ。ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つはまた、マカレヴィッチ解任を求めて戦ってきたロシア軍事ブロガーたちにとって喜ぶべきことだと主張した。