本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年4月5日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
現在の損失を許容できている模様のロシア軍
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
最近、ロシア軍はウクライナにおける攻勢作戦のテンポを上げているが、このことはマンパワーと物資の損失増加という結果を招くことにつながる可能性が高い。しかし、ロシア国防省は、このような損失を緩和するのに成功している模様だ。2023年10月にアウジーウカ占領作戦を開始して以降、ロシア軍はこれまで戦域全体で、主に歩兵主体の「肉弾」突撃を遂行していたが、過去1週間、バフムート西方のチャシウ・ヤール付近、クレミンナ西方のテルニー付近、アウジーウカ西方のベルディチ・セメニウカ・トネニケの各周辺において、同軍はおおむね小隊から大隊までの規模での機械化部隊攻撃を複数回、実施している。ロシア軍歩兵主体攻撃の以前のパターンでは、大規模に装甲車両を投入せず、その代わり、マンパワーのより大きな損失を犠牲にしてきた。そして、ロシアは今も続けられている非公然動員の取り組みをうまく利用して、増大するマンパワー損失を埋め合わせてきたようだ。ウクライナ国防省情報総局(GUR)の副局長ヴァディム・スキビツィキー少将が1月15日に語った話によると、ロシアはひと月当たり約3万人の募兵に成功しているとのことで、この追加兵員を使って、ロシアはウクライナでの損失分を補充し、戦術レベルと作戦レベルの予備戦力をつくっているとのことだ。ロシア軍が現在、以前の戦術規模の攻撃において確認された水準よりも多くの車両を投入しているという新たに観察されたトレンドは、ロシア軍が装甲車両と戦車の損失にもはや制約されていない、もしくは、それらの損失をもはや気にしていないという可能性を示唆している。英国のシンクタンクである国際戦略研究所(IISS)の2月12日付報告によると、ロシアは、主に備蓄分の車両を再使用可能にするという方法によって、少なくとも2年間か3年間、現状の車両損失ペース(年間で装甲戦闘車両3,000両超)を持続できる可能性が高いとのことだ。2月4日にウクライナ人軍事ウォッチャーのコンスタンティン・マショヴェツは、ロシアの国防産業が年間250~300両の「新規生産及び完全に近代化改修を施した」戦車を製造でき、それに加えて年間250~300両の損傷した戦車の修理もできることを伝えており、このことから、ロシアが現在、ソ連時代の備蓄から取り出した車両を改修・整備するという手法で、ウクライナにおける損失を埋め合わすことができていることが推察できる。ロシアのマンパワー面もしくは物資面での損失が、現在のロシアの非公然動員キャンペーンと国防関連生産能力が耐えられる点を超えて、はるかに増大しない限り、短期的にみてクレムリンが不人気な人的・経済的動員を行う可能性は低い。ウクライナ東部でロシアが最近、機械化部隊による攻撃を激化させていることは、機械化部隊攻撃の激化で生じる損失を埋め合わすことと並行して、予想される2024年夏季攻勢の準備を進めていくことがロシアにはできると、ロシア軍統帥部が確信している模様であることを示している。