○14章 アナログゲームのそれから ~ゲームの原点が魅せる底力~
「ロードス島戦記」と「ドラゴンクエスト」誕生を見るにはTRPG文化の誕生と発展を見る必要があるとし、アナログウォーゲームの系譜も重要であり、「モンスターメーカー」のような存在もその過程で生まれたという話はしてきた。
既に名前を出したものをざっと再確認しておこう。
◆ファンタジー黄金期前夜のアナログゲー◆
□TRPG
ダンジョンズ&ドラゴンズ(1974年)
□ゲームブック
火吹山の魔法使い(82年/日本語版85年)
パックス砦の囚人(85年)
ペーパーアドベンチャー、ハローチャレンジャーブック、ファミコン冒険ゲームブック、
アドベンチャーヒーローブックスなど(ドルアーガの塔とドラゴンクエストを紹介)
□ウォーゲーム
ウォーハンマー:ファンタジーバトル(83年)
バトルテック(84年)
□カードゲーム
モンスターメーカー(88年)
□プレイバイメール
ネットゲーム90 蓬萊学園の冒険!(90年)
□ドラゴンクエストのアナログゲーム
パルプンテ、メガンテ、キングレオ、ダンジョン、銀のタロット、バルザック、アレフガルドなど(80年代末期~90年代初頭)
□その他
ビックリマン(初期型77年/悪魔VS天使85年) シール
エスパークス(89年) 文房具
甲竜伝説ヴィルガスト(90年) ガチャポン
バトル鉛筆(93年) 文房具
黄金期である90年代作品も入ってるいるが、ここからは未紹介のものを中心に見て行くとしようか。
まずはTRPGだ。
「トンネルズ&トロールズ(75年)」は「D&D」のすぐ後に出たファンタジー系TRPGとして世界的に名高い。通称を「T&T」といい、「ロードス島戦記」をTRPGとして遊んだものをまとめた文庫シリーズでは「T&T」版も収録されている。
「トラベラー(77年)」はSF系だ。星間国家を舞台に遊ぶ作品としてファンタジー系と甲乙つけがたい人気を誇った。「ルーンクエスト(79年)」も非常に有名なTRPGであり、ここらへんは世界的に知られたTRPGの最初期古典組とされている。
80年代は日本におけるTRPG布教の時代だったわけだが、「エンタープライズ(83年)」「ローズ・トゥ・ロード(84年)」「クトゥルフの呼び声(86年)」「ウィザードリィRPG(88年)」などが出てくる。
「クトゥルフの呼び声」はラヴクラフト世界を遊ぶためのTRPGだが、23年現在最も有名かつ人気の現役TRPGとも言われている。ただ、80年代末期~90年代のファンタジー黄金期においてはどちらかといえばマイナー側の存在ではあった。
TRPGをデジタルゲームとして遊ぶために生まれた「ウィザードリィ」のTRPG版も出ていることは、アナログとデジタルとRPGの関係性として微笑ましい。
ゲームブックで「火吹山の魔法使い」を紹介したが、この作品は「ファイティング・ファンタジー」というシリーズ作品でもあり、TRPGとしての「ファイティング・ファンタジー(84年)」も展開された。
他に、ロボとファンタジーの章で紹介した「聖刻シリーズ」は小説が原作作品でないことは紹介済だが「ワースブレイド(88年)」というTRPGが小説とならんで中核を成す作品となる。
また、「シャドウラン(89年)」は、サイバーパンク世界でファンタジーを遊ぶというコンセプト作品であり、「ファイナルファンタジーVII」のような世界表現の大先輩という言い方もできるかもしれない。
「ソード・ワールドRPG(89年)」(以下:ソード・ワールド)は最も成功した国産TRPGとも言われている作品だ。富士見書房が全面的にバックアップしたシリーズでもあり、ルールブックやシナリオ集、プレイした様子を読み物化したリプレイ集などはドラゴンブックから刊行された。
ドラゴンマガジンでの連載、ファンタジア文庫から小説版の刊行など、ライトノベル初期黄金期における富士見書房の躍進と持ちつ持たれつの関係だったと言えるだろう。
また水野良を含むグループSNE作品として、ソード・ワールド世界=ロードス島戦記世界であることが正式に設定されている(クリスタリアも)。
現実の世界地図で例えると『ソード・ワールドのメイン舞台はユーラシア大陸で、ロードス島はオーストラリア、クリスタニアはアメリカ大陸』のような関係性だ。
安田均と水野良以外のクリエイター陣として、山本弘、清松みゆき、高山浩、白井英、下村家惠子、高井信、葛西伸哉、北沢慶、秋田みやび、川人忠明、田中公侍、藤澤さなえ、ベーテ・有理・黒崎などを挙げておこう(※80)。
ウォーゲームからは「チェインメイル(71年)」を紹介しておきたい。「D&D」の製作陣がそれより前に制作したファンタジー系ウォーゲームであり、「D&D」の母体になったとも言われている作品だ。
※80 グループSNE所属でない者や、後継作で活躍した者を含む。また、ライトノベル作家として紹介した友野詳なども関係性は深い
一般家庭に広く普及した人気ゲームも触れておこう。「モノポリー(35年/日本版65年)」「人生ゲーム(60年/日本版68年)」「億万長者ゲーム(73年)」あたりは名前を聞けばピンと来る定番ボードゲームだろう。
「野球盤(58年)」なども大人気だった。「ルービックキューブ」「ジェンガ」「黒ひげ危機一髪」「チクタクバンバン」「水道管ゲーム」などヒット作を挙げるとキリがないが、「ラジコン」や「ミニ四駆」はアナログゲームかというと微妙なところか。
ガンプラが有名になったプラモデル界隈もまあゲームではないか。
そんなこんなの中、日本におけるカードコレクション文化の源流ともされる「プロ野球チップス」は紹介必須だろう。
「プロ野球チップス」は73年にカルビーより販売されたオマケ付きポテトチップス菓子だ。オマケとはプロ野球選手のカードであり、特別なアイテムと交換できるラッキーカードなどのシステムも採用されていた。
日本での野球人気を背景に大ヒット商品となり、このアイデアを直接模倣したかどうかはさておいて、日本全国の駄菓子屋では購入するまで中身のわからないカードを1枚単位で購入するカードコレクションくじなども流行する。
メンコ文化の進化という側面もあっただろう。80年代後半の「ビックリマン」大流行も、そういった流れがあったことを受けてとの研究がある。
「ビックリマン 悪魔VS天使」の後はそちらの模倣と思われる商品が大量に現れ、「ドキドキ学園」「ラーメンばあ」「ガムラツイスト」「ハリマ王の伝説」などが登場した。さらに00年代に入ってからヒットする新作も登場してくる。
コレクション文化を根付かせたという意味で欠かせないのが「ガチャポン/ガチャポン」と「カードダス(88年)」だ。お金を入れることでランダム商品が入手できる、くじの派生・発展系といえるビジネスモデルで、60年代から存在していたカプセルトイの進化系だ。83年のキン肉マン消しゴムが最初の社会的ブームと言われている(※81)。
「カードダス」はそれのカード版であり、SDガンダムやドラゴンボールが人気となった。日本におけるTCG黄金期の下地としてカードダス文化があるとの研究は存在するが、カードダスを参考にTCGが生まれたわけではないので、そこはなかなか複雑な関係性だ。
※81 ガシャポンはバンダイの登録商標なので一般的にはガチャ・ガチャポンと呼ぶことが多い。ソシャゲのガチャのルーツはこれ。なのでバンダイナムコ系のソシャゲはガシャだったりもする
プレイバイメールというカテゴリを改めて紹介しておこう。メールとは手紙の郵送などを指しておりアナログゲームとなる。ルーツの紹介は注釈で軽くしてあるが、現代エンタメとしての日本における源流は、雑誌における読者参加企画とされている。
Beep、ゲームグラフィックスといったゲーム系雑誌で読者がハガキなどを投稿して参加できる企画が行われ、88年にはコンプティークも参戦した。当初はSFやウォーゲームものが多かったが、ファミコン登場と家庭用ゲーム機時代によるゲーム雑誌戦国時代となっていた89年にマル勝PCエンジンが読者参加型ファンタジーTRPGとして「水晶の王者」をスタートさせる。
「ダブルムーン伝説」「デスタワー」「聖獣魔伝ビースト&ブレイド」といったファンタジー色の強い読者参加型ゲーム連載が雑誌界を賑わすようになるが、遊演体というゲーム企画会社がその多くに関わり伝道者としての役割を果たしていた。
プレイバイメールの代表格として紹介済の「蓬莱学園シリーズ」も遊演体による企画だ。
一方でメール=電子メールという概念も登場してくる。それはアナログゲームではなくデジタルゲームだと言われればそれも間違っていない。
89年の「クアンタム・スペース」は、プレイバイメールの系譜作品でありつつ、同時に電子メールの利用を組み込んだ最初のRPGとも言われている。
「モンスターメーカー」は日本初のオリジナルファンタジーカードゲームとも言われる偉大なる作品だが、「プロ野球チップス」「ガチャポン」「カードダス」「ビックリマン」のようなコレクション要素のないパッケージ完結型ゲームのため、TCGにつながる流れの中に組み込まれることは基本ない存在だ。
だが、遠い未来にあるムーブメントが起きた時に、その源流的存在として再注目されることになる。
本当はボードゲームやカードゲームもライトノベルやゲーム並みに羅列紹介をしたいところなのだが、世界的には高い人気を得ていても、日本では馴染みがないということも多いジャンルだ。
既に超有名とは言えないライトノベルや漫画、それにTRPG戦線などを取り上げているのでまあ大丈夫そうな気もするが、色々考えた結果、ごく一部の紹介のみという形にさせて頂く。
80年代からは「ハゲタカのえじき(88年)」の名前を挙げておきたい。
◆ファンタジー黄金期のアナログゲー◆
日本におけるTRPGの主役として「ソード・ワールド」が大躍進する一方、「ガープス」の紹介と布教というムーブメントも盛り上がっていく。
「ガープス」は80年代から存在するTRPGだが92年に角川書店が「ガープス・ベーシック」を刊行したあたりから、ライトノベル読者層向けの販促展開がはじまる。世界観や物語や設定を他から持ってきてはめ込むことが可能な汎用型TRPGという特色をもっており、ライトノベルのヒット作である「ルナル・サーガ」をTRPGとして遊ぶ「ガープス・ルナル」も同年に刊行された。
汎用TRPGとしては「マギウス(95年)」も存在し、こちらからは「スレイヤーズRPG」などが出ている。
ライトノベルをTRPG化する流れはちょっとしたブームとなり「ルナ・ヴァルガーRPG(91年)」や「フォーチュン・クエスト・コンパニオン(91年)」「フォーチュン・クエストRPG(95年)」などが発売された(※82)。
「モンスターメーカーRPG(92年)」はライトノベルのTRPG化という枠には入らないが、初心者向けに1人でプレイできるルールおよびシナリオを採用するなど、独自の方向性を見せた。TRPG入門として1人で遊べるアナログゲームという意味合いも持って生まれたのがゲームブック文化であることを考えると、この現象は興味深い。
「央華封神RPG(94年)」もこちらが先で、小説版はその派生という形となる。
他に「ブルーフォレスト物語(90年)」「メックウォリアーRPG(93年)」「真・女神転生RPG(93年)」「トーキョーN◎VA(93年)」「ゴーストハンターRPG(94年)」「ロードス島RPG(95年)」「ブレイド・オブ・アルカナ(99年)」などが発売された。
※82 ルナ・ヴァルガーRPGは、正確にはリプレイ本が刊行されそこにルールも記載されているという形式
さて、90年代はカードゲーム界に大革命が起きた年代だ。「マジック:ザ・ギャザリング」の登場である。
「マジック:ザ・ギャザリング」(以下:マジック)は93年にアメリカのウィザーズ・オブ・ザ・コースト社から発売された対戦型トレーディングカードゲームだ。既に散々使ってきたTCGとはこのゲームから生まれた言葉となる。
販売会社は元々TRPG関連会社であり、メインデザイナーもTRPGやボードゲーム愛好家であったことから、それらから多くの着想を得て生まれたと言われている。「マジック」が起こした大革命とは対戦ゲームとしての面白さ以上に、従来のアナログゲームと比較した際に桁違となる拡張性だ。
カードゲームやボードゲームというのは購入したセット内で完結していることが普通であり、拡張版や追加版などが発売されることはあっても補足的要素に過ぎなかった。だがTCGでは無限に新カードを追加することができ、ユーザー側もそのたびに購入するための資金を出すことになる。
ここにカード毎の希少性や入手のランダム性が加わることで、10年代のソシャゲで起きた課金によるゲーム業界売り上げ概念の崩壊のような現象が、カードゲーム業界、アナログゲーム業界ではいち早く巻き起こっていた。
「マジック」の大成功以降、TCGという概念とビジネスモデルは世界を席巻することになる。日本では「ポケモンカードゲーム(96年)」や「モンスター・コレクション(97年)」などが出てくるが、ここで登場するのが「遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム」(以下:遊戯王OCG)である。
原作漫画内で「マジック」をモチーフにしたTCGを描いたことを受けて、98年に「カードダス」としてバンダイより販売された。この時点で実質TCGの形にはなっていたが、ルールの一部が印刷されたカードをエクゾディアよろしく掻き集めないといけなかったのはご愛嬌か。
99年からはコナミより「遊戯王OCG」としての販売が開始される。原作漫画ではマジック・アンド・ウィザーズ、99年発売の初代はデュエルモンスターズ、以降のTCGシリーズではデュエルモンスターズ表記があったりなかったりとけっこうブレが激しいが、基本同じシリーズとなる。
漫画人気・アニメ化人気との相乗効果も大きかったがTCGとしてとにかく売れに売れ、日本での社会現象という枠を超えて最終的には世界で最も売れているカードゲームとしてギネス認定された。
デジタルゲーム業界に与えた影響も大きく、「カルドセプト(97年)」などは「マジック」の方と「モノポリー」などのボードゲーム文化を取り入れた作品としてヒットした先行例だが、00年代は「遊戯王OCG」ブームを意識したTCG要素ありデジタルゲームが急増することになる。
他に、ライトノベルファンやアニメファンとの親和性が高い作品として「アクエリアンエイジ(99年)」に「リーフファイトTCG(99年)」、ガンダム界隈がTCGとして本格参戦してきた「ガンダムウォー(99年)」などが出ている。
世界で一番人気のボードゲームとも言われることになる作品が登場した時代でもある。「カタンの開拓者たち(95年)」だ。日本版では「カタンの開拓」として入ってきたりなどあるが、以降「カタン」で統一する。
「カタン」は無人島を開拓して繁栄を競うというボードゲームだ。日本ではどうしてもすごろくや「人生ゲーム」のようなファミリー向けボードゲームが強かったので、あらゆる家庭で老若男女が夢中になったというわけではなかったが、ボードゲーム愛好者が集まったらまず「カタン」という地位を確立し、23年時点でもトップ人気を誇るボードゲームとなる。
他に「ニムト(94年)」なども長く遊ばれる人気作品となった。
アナログ遊具からは「ビーダマン(93年)」「バトルドーム(96年)」「ベイブレード(99年)」を挙げておこう。
「バトルドーム」は当時から話題作ではあったのだが、未来に動画やSNS文化の方で奇妙にして異常な認知度を得たりする。
ベーゴマやおはじきの進化系とされる「ベイブレード」は、この時代の小学生男子を最も虜にしたアイテムだったかもしれない。
90年代はネット時代による、アナログゲームを遊ぶための補助ツールとしてのネット活用という動きも出てくる。電子メールを利用したプレイバイメールなどはその典型になるだろうが、TRPGやTRPGライクなゲームをパソコン通信(※83)やWEB上の掲示板・チャットなどを使って行おうという動きも出てきており、プレイバイウェブという概念も生まれた。
プレイバイウェブから発展したゲームはデジタル側に所属するものがメインとなっていき、個性的なオンラインゲームとして紹介した「キングダムオブカオス」なども、そのアイデアの源流はここになるような気がしている。
雑誌での読者参加型企画は衰退傾向になる。TRPGをルーツとするようなタイプは90年代末期にはほぼほぼ姿を消していたが、一方で少し違う形が生まれている。「女神スタジアム(92年)」は人気投票に近いタイプの読者参加型企画であり、「シスター・プリンセス(99年)」など、読者参加型企画としての反響を母体にマルチメディア展開したヒット作も生まれた。
※83 80年代後半から90年代が全盛期とされる電子通信サービス。クローズドネットワークと呼ばれる限定的な通信空間であり、インターネットが定着する前はネット通信といえばこれだった。イメージとしてはLINEのグループチャットやディスコードのような任意で参加した特定メンバーだけに解放された空間という感じでもそんなにズレないだろう
「バーコードバトラー(91年)」をどこで紹介するか。様々な商品についているバーコードを読み取って遊ぶ電子遊戯機で、アナログとデジタルの融合ゲームとも言えるものだが、コンピュータゲームに上手く組み込めなかったことだし、まあここで紹介でもヨシだろう。
◆ネットゲーム時代のアナログゲー◆
00年代のTRPGだが、一般的に冬の時代とか斜陽時代と呼ばれてしまっている。TCG黄金期やオンラインゲームの発展などが理由としてはよく挙げられるが、ファンタジー黄金期の運転手にして搭乗員にして乗客という要素も大いにあったのが90年代TRPGだったため、ここまでで見てきたファンタジー黄金期からの変容がTRPGに与えた影響も大きいだろう。
「ソード・ワールド」はそれでもある程度堅調ではあったし、01年より展開された「新ソード・ワールドRPGリプレイ」シリーズはTRPG史全体で見ても上位の話題を呼ぶヒット作となり、小説版も展開された。
新作で盛り上げていこうという動きも活発で「ダブルクロス(01年)」「ナイトウィザード(02年)」「アルシャード(02年)」「エンゼルギア 天使大戦TRPG(03年)」「迷宮キングダム(04年)」「アリアンロッドRPG(04年)」「異界戦記カオスフレア(05年)」「ゆうやけこやけ(06年)」「シノビガミ(09年)」などが登場した。
「ダブルクロス」は少年少女が超常的な能力を活用して活躍する作品だが、舞台として現代風の東京も用意されており、ライトノベルにおける現代異能もの傾向に対応した作品とも言われている。
「シノビガミ」は忍者ものTRPGの代表作として人気を得た。
「六門世界RPG(03年)」はTCGとして「マジック」のフォロワー枠である「モンスター・コレクション」と連動した作品だ。
TCGの登場と大流行が他のアナログゲームを斜陽に追い込んで行く一方で、共存や連動を図る試みも行われてはいた。
TRPGにしてプレイバイウェブという新時代対応型とでも言うべき作品も出てくる。「無限のファンタジア(04年)」などがその枠として活躍した。
「ソード・ワールド」は堅調と書いたが、00年代後半には古いゲームとしての見直しを迫られてはいたようだ。08年に「ソード・ワールド2.0」の発売とそちらへの移行を開始している。
また「クトゥルフの呼び声」の第6版が04年に刊行されるが、名称を「クトゥルフ神話TRPG」に変更している。
TCGは完全に全盛期・黄金期だ。90年代組は「遊戯王OCG」以外もそれぞれファンを獲得した。
「ポケモンカードゲーム」は原作がじわ売れの極地のような動きを経て世界的ヒットへのし上がった作品であり、原作と同年発売のカードゲームも当初は多様な販売戦略の1つに過ぎなかったきらいはある。だが、ポケモンそのものが成長する中でこちらの人気もうなぎ上りを続け、このジャンルでもトップ争いを行うことになる。
「マジック」「遊戯王OCG」「ポケモンカードゲーム」がTCG黄金期三強という風情になっていくが、「デュエル・マスターズ(02年)」がここに加わってくる。「マジック」からの派生作品ではあるのだが、日本ではタカラが少年向けのコンセプトで売り出すことで大成功し、「マジック」の仲間というよりも、独立した少年人気の高いTCGという認識が定着していく。
「野球盤」「プロ野球チップス」やデジタル系野球ゲームなどの実績から売れることがわかっている野球ゲーム業界がTCGを見逃すわけもなく、プロ野球を題材にしたTCGの大ヒット作も出ている。
他に、「ガンガンヴァーサス(00年)」「リセ(05年)」「CLAMP in CARDLAND(07年)」「サンライズクルセイド(07年)」「バトルスピリッツ(08年)」「ヴァイスシュヴァルツ(08年)」「ChaosTCG(09年)」などが話題作となった。
TCGはデジタルゲームに与えた影響も大きいと語ったが、アーケードからTCGアーケードが出てきた時代でもある。
いくつかはデジタルゲームの流れを追う際に紹介済だが、まだ紹介していないものとしては「甲虫王者ムシキング」や「オシャレ魔女♥ラブandベリー」あたりだろうか。まあここらへんはやはりカテゴライズとしてはデジタルゲームだろう。
Jリーグ創設、衛星放送の普及により気軽に見られるようになった海外試合、ワールドカップブームなどを背景にサッカーフィーバーが起きていた時代でもあり、サッカー系TCGアーケードも大ヒットした。
自由な二次創作界の王者とでもいうべき「東方project」ファン層にもTCGは影響を与え、TCGを題材にした同人作品が一ジャンルを築いたりもした。
ボードゲームとTCG的ビジネス戦略を組み合わせた商品として「遊☆戯☆王 ダンジョンダイスモンスターズ(01年)」も発売されたが、こちらは「遊戯王OCG」と比較してしまうと短命に終わっている。
伝統的なカードゲームとボードゲームからは「カルカソンヌ(00年)」「バトルライン(00年)」「ドミニオン(08年)」「パンデミック(08年)」あたりを挙げておきたい。いずれも現代まで愛される人気作たちだ。
この時代の大流行アナログゲームとして欠かせないのが「汝は人狼なりや?(01年)」(以下:人狼)だ。
簡単に説明してしまうと伝統的遊びの鬼ごっこが鬼と逃亡者で別れるように人狼と村人に分かれて遊ぶゲームだ。人狼が誰であるかはわからないことが鍵となっており、人狼側は正体を見破られずに村人達を殲滅、村人側は人狼を見抜いて退治、というゲームとなる。
役割を演じることが重要なため本来の意味でのRPGであるともされている。
源流は1930年代の伝統的遊びとも言われており、80年代に異なるモチーフながらソビエトでゲーム化もされていたようだ。インターネット黎明期には既にネットで遊ぶスタイルも存在したようだが、日本で認識されたのはやはり「人狼」の発売以降だろう。
日本での大流行は動画文化経由やTV番組経由など色々言われており、インターネット上でプレイするスタイルの方が人気などの話もある。
小説・漫画・ゲーム・映画・舞台と展開される大ヒット作となった。「ライアーゲーム」など、勝負もの作品がモチーフとして採用する事例も見られるようになる。
オマケつき菓子カテゴリから「神羅万象チョコ(05年)」が発売され、「ビックリマン」のライバルと呼ばれるヒット作となっている。
ここで射幸心問題も軽く触れておくとしようか。
「ビックリマン 悪魔VS天使」にはTCGやソシャゲでいうレアリティのような概念が存在した。
ヘッドと呼ばれる最上位はキラキラに輝いている見た目と希少性から人気が高く、ホログラム仕様のものなどは大人気だった。
当時の時点で既に子供たちから数百円で買い取ったヘッドシールを数千円で個別販売する駄菓子屋などは登場している。
大ヒットを支える要素でもあったわけだが、88年に公正取引委員会から勧告がはいる。
勧告内容はざっくりと言うと『特別なシールとかやめようね。見た目の差・1枚毎の製造コスト・封入率などを平等にするといいと思うよ』といったものだ。
これはブームに浴びせた冷や水としてかなり大きなダメージとなったようだが、それでも93年ぐらいまではブームだったとはされている。
この時は射幸心という単語自体は出ていなかったはずだ。そして、パチンコ・パチスロ業界からある騒動がおきる。
パチンコ・パチスロの歴史を詳しくはやらないが、ギャンブル性が高まりすぎて社会問題として見過ごせないとされた大熱狂期があった。
国はギャンブル産業に対してはかなり細かいスパンで規制や緩和を行っているのだが、この大熱狂期を強めに規制する際に『射幸心を煽りすぎてはいけない』という意味に近い言葉が使われていて、注目された。
少年期に「ビックリマン」に熱中後、大人になってギャンブルに熱中する層もそれなりに多く「ビックリマン」規制問題を連想した者もいたようだ。
ソシャゲガチャ時代におけるコンプガチャ問題は軽く紹介したが、この問題を取り上げる際に『射幸心を煽る』という言葉がはっきりと使われだす。
以降、ソシャゲガチャ=射幸心を煽るというイメージが定着することになる。
さて、23年現在、TCGに詳しいものなら希少性とプレミア価格化と転売と射幸心みたいなところには色々と思うところがあるはずだ。
歴史は繰り返すで終わらせていい問題なのかどうかというところだが、ファンタジー論の記事でしたね、これ。脱線にもほどがあるが、まあ全く触れないのも不誠実だろう。
00年代の大きなトピックとしてゲームマーケットの開催も紹介しておきたい。アナログゲームを愛好する有志が当時既に大人気だったコミックマーケット(※84)のアナログゲーム特化版がやれないかと思い立ち、00年から開催されるようになった電源不要ゲームのみを対象にしたイベントだ。
企業によるアナログゲーム体験会や新作発表だけでなく、同人アナログゲームの発表の場としても機能していくことになる。
小説やゲームでの同人発作品はそれなりに紹介済だが、同じようなムーブメントがアナログゲームでも起きていた。
カードゲームやボードゲームはアメリカやドイツなどの海外に有名クリエイターが多く、日本の愛好家もそれらの輸入版を遊ぶことが多かったのだが、国産同人アナログゲーム愛好層というムーブメントも加わっていく。
※84 第一回開催は75年の、長い歴史を誇る同人誌即売会。コミックとあるが小説、解説書、ゲーム、グッズ的なものも扱う。非常に小さな愛好家同士の交流会から発展し、今では世界最大規模のイベントの1つとされる。企業やプロクリエイターも多く参加している
◆なろう系とソシャゲ黄金期のアナログゲー◆
10~16年もTRPGから見ていこう。「ソード・ワールド2.0」は一定の人気を確保するが、TRPG黄金期の初代人気との比較という形になるとやや苦戦する一面も見られるようだ。「モノトーンミュージアムRPG(11年)」「魔道書大戦RPG マギカロギア(11年)」「メタリックガーディアンRPG(13年)」「ログ・ホライズンTRPG(14年)」「隊これくしょん -艦これ- 艦これRPG(14年)」などが新作として出てくるが、ファミコンやライトノベルがそうであったように、WEB小説作品のTRPG化もはじまる。
TRPGは全てのエンタメを並べて各時代で主役だったといえるのは「D&D」だけかもしれないが、日本のエンタメのどの時代のどこを拾っても顔を出してくるので、TRPGなしにRPGやファンタジーを語れず感がやはり凄まじい。
ソシャゲのTRPG化もはじまったと言いたいところだが、「隊これくしょん -艦これ- 艦これRPG」はドラゴンブック刊行であり、「艦これ」とKADOKAWAの関係性、KDOKAWAになっている富士見書房……という事情からの誕生という側面もあり、ソシャゲTRPG化ブームへとは繋がらなかったようだ。
プレイバイウェブだが、積極的に展開していこうという動きは10年代にも見られてはいた。トミーウォーカー、フロンティアワークス、クラウドゲート、フロンティアファクトリーといった組織・企業が恋愛ものから学園ファンタジーまで作品リリースを行っていたが、その多くが10年代後半に撤退や廃業をしている。
フロンティアファクトリーはそういった事業者の受け皿的役割も発揮して事業継承なども受けていたが、22年にプレイバイウェブ事業から撤退している。
プレイバイメールやプレイバイウェブを源流とする新しいゲームの遊び方はこれからも生まれてくる可能性はあるだろうが、それはまた違う名称を授けられそうだ。そういった印象がある。
TCGからは「カードファイト!! ヴァンガード(11年)」「Z/X -Zillions of enemy X-(12年)」「WIXOSS -ウィクロス-(14年)」、TCGアーケードからは「アイカツ!(12年)」などが登場した。
10年代にはTCGをモチーフにしたデジタルゲームとは別に、人気TCGをデジタルツール補助で遊ぶという動きも活発化している。PCの前に自分のカードを並べてチャットでそれを伝えるプレイバイウェブ風の遊び方はかなり初期からあったようだが、「遊戯王OCG」などはデジタル需要も高く、公式側もその方向性の模索をしていくことになる。
カードショップが多く登場した時代でもある。ファミコン黄金期はファミコンショップ黄金期でもあり、TCG登場期には全盛期は過ぎていたとはいえゲームショップは健在で、そこでカードも取り扱ったり、新古書店という古本販売ショップで取り扱ったりというケースが多かった。
希少価値から高額取引されるTCGカードも増えたことから、TCGカードを専門に取り扱うショップが急増することになる。
子供向け玩具として爆発的ヒットとなったのが「妖怪ウォッチ/妖怪メダル(14年)」だ。ひたすら欲しがる子供と探し回る父親という光景が全国で目撃された。
脱出ゲームのブームにも触れておこう。脱出をテーマにした小説やゲームは古くからあり、映画などでもよく採用される人気ジャンルではある。脱獄ものや推理小説での密室からの脱出などそれはもう幅広いわけだが、密室からの脱出といえば「CRIMSON ROOM(04年)」などは大ヒットし、脱出系ゲームというジャンルを確立させたとも言われている。
そういった背景を受けてかはちょっと難しいところではあるのだが、SCRAPという会社が10年に「リアル脱出ゲーム」を開催したあたりから、アナログゲームとしての脱出ゲームブームというべきものが発生している。
アスレチックや巨大迷路は遊びの定番ではあった。「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」の大ブームなどもあり、子供の頃はアクション系テーマパークが最大の楽しみだったという層も多いだろう。「リアル脱出ゲーム」はそれらの形を変えたものという見方も出来るかもしれない。
唐突に自分語りをぶちこむが下呂温泉に行った際、「冒険者ギルド 猟奇館」というホラーファンタジー全開の脱出ゲーム会場に遭遇した。日本にも冒険者ギルドはある。何の話だよ。
伝統的アナログゲームからは「宝石の煌き(14年)」「テラフォーミングマーズ(16年)」を挙げておく。それから「Heart of Crown~ハートオブクラウン~」を紹介しておきたい。
「Heart of Crown~ハートオブクラウン~」は同人経験もあるプロクリエイターFLIPFLOPsが11年に販売したインディーズカードゲームだ。ライトノベルやアニメ・漫画のファンタジー愛好家と親和性の高いビジュアル・世界観を採用し、デッキを構築するというTCGライクな要素も有している。
パッケージ型ゲームでありながら拡張性が高く、拡張版を投入するたびに遊びの手応えが変わるので飽きが来にくいという評価もされているようだ。
インディーズカードゲームとしては破格の出荷数を達成し、商業アナログゲームと比較してもかなりのヒット作と言われている。
同人アナログゲームやインディーズアナログゲームのムーブメントは、かつて「モンスターメーカー」が構築したライトノベル的なファンタジー色の強いアナログゲームという概念を復活させた。
この動きはとても大きいものとは言えず、なろう系やソシャゲの隆盛の前では目立たない。だが、「モンスターメーカー」を本格的なファンタジーの代表作の1つとする層であれば、現代の本格的なファンタジーを語る際になろう系とソシャゲだけを見てアナログゲーム界隈を見ないというのはフェアではないだろう。
10年代はファンタジーを含んだオタクエンタメ的なインディーズアナログゲーの大発展期でもあるのだ。
◆アナログゲームのそれから◆
記事の方針と構造上TRPGを中心に見る形にはなったが、コンピュータゲームがゲーム界の圧倒的王者として君臨し続ける裏で、アナログゲームもファンの心を掴みつつ発展し続けていることが見て取れる。
TCGはエンタメ世界自体を作り変えてしまった怪物だが、何にせよ、ファンタジーと向き合う上でアナログゲームの重要性は多少伝えられたのではないだろうか。
正直な感想として、さまざまなファンタジー論を見た時にアナログゲームをライトノベルやデジタルゲームと同じ場所に置いて語っているものは多くない。本記事でも別章として切り離し、特化した形での紹介にした方がわかりやすいだろうという判断をした。
アナログゲームはマイナーか否か。メジャーでないものはファンタジー論や本格論などに参戦する資格はないのか。そういったことを考える一助になれば幸いだ。
名前を挙げただけの作品の方が多いわけだが、気になったものがあるならば手に取ってみて貰えれば、それが貴方にとっての理想的なファンタジー作品である可能性はあるだろう。
さて、17~23年を巡る最後の旅への準備が整った。ライトノベル、ライトノベルではない小説、デジタルゲーム、アナログゲーム、漫画、アニメ、映画……エンタメとファンタジーの『今』をはじめよう。
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