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サウナと枝豆とビール。

色々な事を同時に考えている時というのは、僕の場合大体が意味の無い事やそれに対して答えが無い事ばかりだったりする。

答えが無いというより『まだ起こってもいない未来』に対して、こうなってしまったらどうしよう。という想像でしかない不安をいくつも考えては悩み、そして時間だけが過ぎていく。

気づけば心身共に疲れきり、僕の脳もこんな事でエネルギーを使いたくないと拒絶するかのように思考を停止させる。

こんな時、僕はいつもサウナに入る。
熱と向き合う独りの時間。

僅かに香る壁の木の香り。
遠くから聞こえてくる室内に内蔵されたテレビの音。

定期的に落ちてくるオートロウリュが空間の湿度を上げ、僕の肌から玉のような汗が浮き出る。

ロウリュの効果で木の壁からは樹木の甘い香りが室内に立ち籠める。
アロマなど無くてもこの樹木の香りで充分だ。

深く深呼吸をする。

熱を帯びた空気が僕の肺を満たす。

ゆっくりと長く息をはき出す。

同じ動作を何度も僕はくり返した。

何度も。


気がつけばサウナの12分時計が1周を回っていた。

内臓にも熱が通り、僕の身体は充分なくらい温まっていた。

顔も僅かに赤らんでいるようだ。
顔が赤くなるというのは血流がそこに集中しているという事らしい。
もうすぐその血液は脳に向かう。

脳がものすごい勢いで思考する。

『熱い』と。

余計な事は考えられない。

この『熱い』という事以外は。

このたったひとつの考えだけが僕の脳を支配し、さっきまで悩んでいた僕のちっぽけな悩み事は何ひとつ消え去っていった。

消え去ったというか『気にしなくなった』と言うのが正解かもしれない。

僕の悩み事はサウナの中で熱と共に蒸発していった。


サウナ室から出てシャワーで汗を流した後に、僕はこじんまりとした水風呂に身体を浸した。

冷たいのは一瞬だ。
少しすると身体のまわりに薄い熱の膜のようなものが僕を包み込み、心地よい体温を維持してくれる。

はく息が冷たくなってきた頃合いで、僕は水風呂から出て露天にある椅子に腰を下ろす。

外気浴。そして日光浴。

水風呂から出てきた僕の身体は、表面は冷えているけど内部は熱が残っている。

風の音、葉の揺れる音、遠くの車の走る音。

研ぎ澄まされた僕の身体を心地良い風が通り過ぎてゆく。


心。身体。
全てが開放的になる瞬間。


『無駄な時間なんかない。悩みごとなんてほとんどの事がちっぽけなものだ。』

そういう気持ちにサウナはしてくれる。


身体を拭いて服を着る。

いつも着慣れているTシャツも袖を通す時に繊維の質感を敏感に感じ取れた。

五感が研ぎ澄まされている。


食堂に入り、軽く摘める枝豆と中ジョッキのビールを頼んだ。

このメニューは比較的忙しい時間帯でもすぐに提供してくれるので、サウナ後すぐにビールを胃の中に流し込みたい僕にはとても助かるメニューだ。

こんなことを考えている間に、僕のテーブルには枝豆と中ジョッキのビール素早く運びこまれた。

サウナ後の1杯目のビール。

サウナから出た後にあえて水分補給しなかったのは、この1杯目のビールを極上にする為だ。

ジョッキは一気に流し込む飲み方が僕の流儀だ。

喉を通過する瞬間。そして飲んだ直後の深呼吸。

全てが眩しい。
僕のビールが黄金色に輝いていた。

枝豆を摘みながら瓶ビールも追加する。

ゆっくり飲む時は瓶ビールに限る。

枝豆の甘さと上に降ってある塩の塩味をビールで包みこむ。

食堂の大きな窓から外を覗く。

いつもと変わらない風景が今はとても美しく感じる事ができる。


気持ちが前向きになっている。

サウナは熱いだけじゃない。


気持ちをリセットし、アストラルサイドにもプラスに働きかけてくれる。


同じように悩みを抱え、足踏みして前進できない人たちの。

そんな素敵な居場所をこれからも大切にしていきたいと思う。

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