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はじめて母になった記録
突如母になった。
滞在中のNGOの敷地内でワンちゃんが出産した。4匹の可愛い子犬が産まれた。白と黒の模様をしたかわいらしい子犬たち。
お母さんとなったワンちゃんは、妊娠中のときから(なんならその前から)、食事を求めてよく私たちのキッチンのところに来ていた。お腹が大きくなってきていたから、もうそろそろかな~と気にかけていたタイミング。だから、出産したことが分かってとても嬉しかった。
わが子におっぱいを一生懸命あげる姿はお母さんそのものだった。
思わず「おめでとう!よく頑張ったね!」って久しぶりの日本語で声をかけた。
ところが、4匹の子犬のうち、1匹はすぐに亡くなってしまった。出産したその段ボールの中で、そのまま息を引き取ったみたい。
そしてお母さんは2匹を連れてどこか安全な場所へ拠点を移してしまった。
残された一匹のわんこ。まだ目も開いていないのに、お母さんを求めて鳴いている。
一日待ってみたけれど、お母さんは現れなかった。このままだとわんこが餓死してしまう。
この瞬間から私は人生ではじめて母になった。
電気ケトルが入っていた箱を使って、わんこのおうちを作った。何を思ったのか捨てずに残しておいた箱。こんな形で役立つとは。
古布をいくつか敷いて、わんこを入れた。サイズはぴったり。
次は食事。粉ミルクがあったので、お湯で溶かして人肌にして与えてみた。
自分で飲めるわけがないから、小さなプラスチックのスプーンを使って口に運んでみた。
うまくいかなかった。そりゃそうだよね。わんこはおかあさんのおっぱいを吸うことで食事のとるんだから。吸う力を使ってあげないと。
そう気が付いて、自分の小指を差し出した。最初は戸惑っていたけれどすぐに慣れてくれて。勢いよく私の小指を吸ってくれた。そうしている間にすき間からミルクを流し込むという技を編み出した。
わんこの口の中は温かい。もちろんまだ歯はない。びっくりしたのは上あごのところが人間みたいにざらざらしていたこと。犬の口の中に手を入れたことなんてなかったから驚いた。
夜はおうちごと私の部屋に持っていって一緒に過ごした。ずっとくーんくーんって鳴いていて、夜は寝かせてくれなかった。塀を登って外に出ようとしてときどき落っこちていた。まだ目も見えないのにパワフルすぎ。
次の日。2時間おきにミルクをあげた。仕事に集中できるはずもなく、頭の中にはずっとわんこのことがあった。寝ているときもあるけれど、ちょっと体に触れるとすぐに起きて、くーんくーんって鳴いてくる。その姿が愛おしくて母性がぶわって溢れた。
夜はまた私の部屋へ。昨日よりもより元気で塀を登りまくっていたから、自由にさせたほうがこの子も楽しいかなと思って開放してあげた。私の部屋の中だったら安心だし。ミルクをあげて私は寝た。
次の日の朝もミルクをあげるところからスタート。
人間の赤ちゃん用の哺乳瓶をゲットした。そして牛乳も。
わんこのお世話の体制がどんどん整って、自分も母性が高まって、愛があふれた。スタッフの皆さんもたくさん協力してくださった。
でもなんだかちょっと元気が少なくなっていた。食欲もちょっとなくなってきたし、鳴く声も細々してきた。
午後になると、寝ていることが増えてきて、急に不安になった。
様子を見に行く度に、何もなくて安心する自分もいた。
夜になるとミルクが上手に飲めなくなった。口に入れてあげてもミルクが鼻から出てきてしまう。絶対痛いよね、苦しいよね。でも、ミルクを飲まないと餓死してしまう。心を鬼にして何とか飲み込ませようと必死だった。
夜はまた私の部屋へ。寝ているわが子が可愛かった。
私が寝る前に最後にミルクをあげようと思った。
そうしたら、身体が硬直していた。ちょっと温かった。
私はパニックになって、すぐにおうちごと抱えてスタッフのもとに行った。
彼が確認をして、ここで現実が突き付けられた。
ぶわーっと涙が出てきた。
次の日、キッチンスタッフの方が
「今日の朝、お母さんが来てたよ」って言った。
2匹を連れてどこかへ行ってしまってから一度も来なかったのに。
あと一日、いや半日早ければ・・・なんで・・・。
立ち直れなくて落ち込んでいる私に、現地の方々は、「キミは悪くないよ」と慰めてくれた。神様がそうしたんだ、全力を尽くしたんだからキミは悪くないって。
カメラロールにいるわが子を見るたびに胸がキューってなる。
こうして、私の「母生活」はたった2日で幕を閉じた。
でも、2日間とは思えないほど、初体験のたくさんの感情に揺さぶられ、悩み、葛藤した。これが親になるということなのか、と思った。
自分の睡眠時間を犠牲にしてもいい。
自分の趣味がどうでもよくなる。
わが子の事が頭から離れない。
こんな感情になるなんて、びっくり。
でも本当にあったんだ。これが「愛」なのかな。
わが子には、まだ名前も付けてあげられていなかった。
それが一番の後悔。一度でいいから名前で呼んであげたかった。
天国ではミルクをいっぱい飲んで、思いっきり走りまわって、楽しく過ごしてほしいな。たくさんの想い出をありがとう。
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