ショートストーリー? 転生したら女子高生の人面瘡だった件 第10話
「じゃー、私の話をしますね。私は燕ヶ丘高校に通う高校3年生で、年は17歳」
女は自分の素性について話し出してゆく。
僕は少し驚く。燕ヶ丘高校⁇大阪の名門高校ではないか。元々、兵庫に住んでいた僕でも知ってる名前である。もしかしたらこの女はどこぞやのお嬢様なのかもしれない。
「どこにでもいる現役jkってやつかな〜」
女は笑いながら僕に話し続ける。
「それで、グミが好きで、水族館が好きで、好きな科目は国語で…それで、普通な私は今、バイトしながら一人暮らししてて…それで…」
「なんで燕ヶ丘高校に通う川口さんがバイトなんかして一人暮らしを?」
思わず口を挟んでしまった。
「ちょっと、吉田さん、口を挟まないでくれませんか?最後まで人の話は聞くものよ?」
蜘蛛がじっと僕を見つめる。僕は再び黙って話を聞く。
「それで…、んー、どこまで行ったかな〜。あ、そうだ!それでね、私は元お母さんだったの」
「え……?」
唐突な言葉。口を挟まないと決めたそばから、思わず声をあげてしまった。
そんな僕を咎める事なく女は優し気に返す。
「気になりますよね、それ。実はね、ここからが私の話の本題なのよ。ねぇ、聞きたい?」
どうやら、僕が驚く事がわかっていたのだろう。そう言う話し方だ。僕はこの女に翻弄されている。しかし、話の中身が気になった。生唾をごくりと飲む。彼女は僕の言葉を待たず、話し始める。
「これは大体、一年くらい前の話かな。私がまだ二年生だった頃の話。この頃の私は人生が輝いていたの。眩しいくらい」
話す声色が、がらりと変わる。女優だなと僕は思った。
窓を越えた月明かりがじんわりと僕等を照らす。彼女は美しい姿で言葉を紡いでいるのだろうな。僕は思う。そして、きっとこれから何か哀しい話が始まるのだろうなとも僕は思う。なぜなら先程、シャワーで洗い流した僕の顔に、また新しくも温かい水滴が伝ってくるからだ。きっと、この水滴を止める栓はずっと前から壊れてしまってるんだろうな。水滴はじんわりと僕の心に染み溶けていく。
僕はそんな彼女の事を見ることはできない。彼女も僕を見ることなく話す。その姿を見る事ができるのは、じっと僕等を優しく見つめる天井隅の8つの目だけである。教えて欲しい。今、彼女はどんな表情をしてるのだろうか。
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