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ナレッジワーク流、候補者への向き合い方!成果に直結する採用候補者体験設計(CX)に迫る【PXの実践者シリーズ第二弾】
※本記事は、1月21日に開催したウェビナーを元にした編集記事です。
こちらのnoteでは、候補者本人ですら気付いていない本音を引き出し、転職するつもりのなかったタレントさえファンにしてしまうナレッジワークの採用候補者体験(Candidate Experience / CX)を渡邉さんの体験を交えてご紹介します。
自社の採用力を高めたいとお考えのみなさま、ぜひ最後までご覧ください。
登壇者
渡邉 慎平|株式会社ナレッジワーク HR
慶應義塾大学卒業後、ナイル株式会社に入社。100社以上のデジタルマーケティング支援に携わったのち、人事へ異動し、採用と広報を所管。HRTechスタートアップでの経験を経て、2023年12月ナレッジワークに参画。
「仕事の変革」を最終目的とするナレッジワークのHRの役割
ナレッジワークのミッションは 「できる喜びが巡る日々を届ける」 ことであり、仕事を通じて成果を上げたり成長を実感したりすることの喜び。つまりイネーブルメントをより多くの人に提供することを目指しています。現在「セールスイネーブルメントAI・ナレッジワーク」 というプロダクトを展開しているので、一見するとセールステックの会社のように思われがちですが、私たちが最終的に目指しているのは、「仕事の変革」です。テクノロジーの力で働き方を変える「ワークエクスペリエンス」 領域で事業を展開しています。
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ナレッジワークは全社員約160名(2025年1月時点)のうち約10%がHRに所属するという非常に手厚い体制をとっています。中途採用のみならず新卒採用や教育体制の強化にも本格的に取り組んでおり、HRの役割は採用だけでなく、入社後の組織開発や人材育成を含めた「イネーブルメントの実現」へと広がっています。
リクルーターに求められる2つのスタイル:「パートナー」と「ファシリテーター」
私たちは、部署ごとにスタイルを定義しており、リクルーターも 「候補者向け」と「社内向け」 の2つの軸でスタイルを確立しています。
まず候補者向けのスタイルは「キャリアのパートナーであること」です。これは私たちの行動指針である”Act for People”Be True””Craftsmanship” に基づいています。
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採用活動においては、事業計画や人員計画に基づき採用枠を達成することも重要ですが、それ以上に 1人ひとりの候補者と真摯に向き合うこと を大切にしています。
候補者の状況次第では「現職に残った方がよいのでは?」「他の企業の方がキャリア実現につながるのでは?」といったお話をすることもあります。単なる採用活動ではなく、キャリアコーチングのような役割を担いながら、候補者の成功を支援するという考え方です。
社内向けのスタイルは「採用活動のファシリテーターであること」です。現場の要望に流されたり、御用聞きになることなく、採用活動に対してリーダーシップとオーナーシップを持つことを重視しています。「なぜこの人材が必要なのか?」「今、本当に採用すべきか?」 などの積極的な問いかけや事業部との協働を通じてより戦略的な採用を実現する役割を担っています。
転職意向のないタレントを振り向かせる採用候補者体験:リクルーティングの4S
ナレッジワークには、各業界・企業で活躍してきた優秀で魅力的なメンバーが集まっています。そうした優秀な人材にナレッジワークを選んでもらうための「採用体験」「候補者体験」 をどう設計するかが、私たちの採用活動の鍵となります。
私自身、10年間にわたり、新卒・中途採用を担当してきましたが、ナレッジワークの採用基準や水準を理解し、それを体現するには半年から1年ほどの時間を要しました。それほど、一般的な採用活動とは違う動き方をしている、と言っていいと思います。
ナレッジワークが採用する人材の多くは、大手企業やスタートアップ、外資系企業などで引く手あまたの人材です。そういった優秀な人材は、転職エージェントや転職媒体などの一般的な採用活動だけではアプローチしきれないので、「転職意向はないが弊社が採用したい優秀な人材」に直接声をかけて口説く必要があります。つまり、「現職で活躍されており、現職に満足しているため転職を考えていない候補者」 に対して、どのようにナレッジワークの魅力を伝え、振り向いてもらうかが重要になります。
ナレッジワークCEOの麻野が執筆した『NEW SALES』という書籍では、「新しい営業のあり方」として 7つのSを定義・解説しています。
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この中から 「ストーリー」「サプライズ」「シナリオ」「シンパシー」 の4つの要素を採用活動にも応用し、リクルーティングの4Sとして採用活動の基盤としています。
採用活動においては、「誰に」「何を」「どのように」伝えるかが重要です。
これを 4つのSに当てはめる と、以下のようになります。
「誰に」 = サプライズ(Surprise)
→ 採用候補者に驚きを与えることで、強い興味を引く「何を」 = ストーリー(Story)
→ ナレッジワークの魅力を、採用候補者のキャリアの文脈に合わせて伝える「どのように」 = シンパシー(Sympathy)とシナリオ(Scenario)
→ 採用候補者の意向をベースに共感を作りながら、戦略的なプロセス設計を行う
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採用候補者ごとのシナリオ設計を行い、HRチームメンバー同士でフィードバックしながらブラッシュアップする体制をとっています。
①サプライズ(Surprise)
ナレッジワークが採用を進める人材は、多くの企業からアプローチを受けている方々。そのため、採用の前半フェーズでいかに「この会社は他と違う」と思ってもらえるかが鍵になります。
これは「アドバンスドリード」 という考え方で、初回接触時から質の高い情報提供を行ったり、採用候補者ごとに戦略的な初期コミュニケーション設計を行います。
以下は幹部採用での具体例です。
創業期、CEO麻野は多くのCTO候補と面談を重ねていました。その中で「この人だ!」と確信した採用候補者には、2回目の面談で30枚ほどのプレゼン資料を用意し「なぜあなたと創業したいのか」を熱意を込めて伝え、現CTOの川中との創業が実現しました。
一般的な採用活動では、後半フェーズになってからようやくアトラクトに力を入れるケースが多いですが、ナレッジワークでは「採用すると決めたら、初手から全力で理想的なプロセスを設計する」ことを重視しています。
② ストーリー(Story)
3C分析 や “Will・Can・Must” のフレームワークを活用しながら、採用候補者ごとに刺さるポイントを見極めていきます。
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3C分析のフレームワーク
・自社(Company) : ナレッジワークが提供できる価値
・競合(Competitor) : 他社が採用候補者に提供できるもの
・求職者(Customer) : 採用候補者が求めているもの
3Cでは、3つの要素が重なる 「バリュープロポジション」 を明確にし、採用候補者ごとに何を訴求するのかを設計します。その際はHRチーム内だけでなく、事業部とも連携しながら「どのようにアプローチするか」を綿密に議論しています。
“Will・Can・Must” のフレームワーク
・Will(やりたいこと) :採用候補者が目指すキャリア
・Can(できること) :採用候補者が持つスキル・経験
・Must(求められること) :ナレッジワークが必要としているもの
”Will・Can・Must” についても3つが交わる部分を見つけ、採用候補者に「ナレッジワークでの未来」を具体的にイメージしてもらうことが重要です。
直近の事例をご紹介します。該当の候補者は、以前営業として活躍していたものの、育休明け・時短勤務でフルタイムのエンタープライズ営業をやるのは難しいと考えていました。そのため別ポジションで選考が進んでいましたが、CEOの麻野が最終面接で「本当は営業がやりたいんじゃない?」と問いかけたところ、本人も 「やっぱり営業がやりたい!」 と気付き、最終的に営業職として入社され最短での受注を成し遂げる活躍をしました。
このとき、私が麻野からもらったフィードバックは 「HRの仕事は、採用候補者や現場マネージャーすら気づいていないキャリアの可能性を見出すこと」 というものでした。私自身のHRとしてのスタンスを大きく変えるきっかけとなったエピソードです。
③シンパシー(Sympathy)
シンパシー(共感)は、「エンゲージメント」の考え方と深く結びついています。「アクティブリスニング(積極的傾聴)」 を重視し、採用候補者のキャリアや価値観を理解することが大切です。
多くの採用プロセスでは 「自社の魅力を伝えること」 に重点が置かれがちですが、それ以上に重要なのは、採用候補者がどんな意思決定をしてきたのか、なぜ今、転職を考えているのか、これからどのような未来を描きたいのか、を理解することです。
単に「給与が上がります」「ポジションが魅力的です」 という説明をするのではなく、採用候補者のキャリアの流れに寄り添いながら、「あなたが大切にしてきたことは〇〇ですよね。ナレッジワークならその実現を支援できます」 といった形で対話を進めます。
元来、人は「自分の話をするのが好き」なもの。採用候補者のエンゲージメントは「自分のキャリアを深く語る」 ことで高まります。私たちは 一方的に企業の魅力を伝えるのではなく、いかに採用候補者に話してもらうかを重視しながらコミュニケーションを進めています。
④シナリオ(Scenario)
最後に「シナリオ(Scenario)」 です。ここでは「プロジェクトマネジメント」の視点が重要になります。
採用活動は「採用候補者がナレッジワークに対するエンゲージメントを高め、最終的に入社を決意するまでのプロセス設計」 が重要です。ナレッジワークでは、採用候補者が最終面接を迎える前に、以下のプロセスをしっかりと踏むようにしています。
ナレッジワーク3つの評価軸
・スタイル面接(Style) : 価値観がナレッジワークと合うか?
・スキル面接(Skill) →:役割に必要なスキルを持っているか?
・エンゲージメント面接(Engagement) : ナレッジワークに入りたいという意志があるか?
エンゲージメント面接(CEO・CTOとの面接)では、単なるジャッジメントではなく、 「なぜナレッジワークなのか?」「なぜこの採用候補者なのか?」 を双方で確認する場となります。
そのため採用候補者の意欲が十分に高まっていない場合、以下のような対応を取ります。
・追加の面談を設定し、理解を深める
・採用候補者のキャリアについて再度話し合う
・企業側の情報提供を見直す
・必要であれば、もう一度エンゲージメント面接を実施
ナレッジワークの採用活動は単なる選考ではなく、採用候補者の人生に関わる意思決定のサポートです。HRがプロアクティブに働きかけ、採用プロセスを最適化することを大切にしています。
4Pを活用したアトラクト戦略
ナレッジワークでは、採用候補者に対する魅力訴求を4P(Philosophy / Profession / People / Privilege)に基づいて設計しています。
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選考プロセスの合間には、HRが採用候補者と面談を行い、以下を整理します。
・ディシジョンアナリシス(Decision Analysis):転職軸の整理と優先度の明確化
・競合他社との比較:採用候補者が重要視する軸に対して、ナレッジワークがどの位置にいるのかを分析
・訴求ポイントの強化:競合に比べて強みとなるポイントを強化し、採用候補者が納得できる情報を提供
例えば「ナレッジワークが持っている『成長環境』の軸が採用候補者にとっても最重要だと分かったので、さらに訴求を強める」「採用候補者が他社の待遇面に魅力を感じているので、キャリア成長やスキル獲得の観点で補完する」といった調整を行います。
採用候補者自身が気づいていない価値観や優先順位を引き出すため、HRが対話を通じて整理し、新たな視点を提供することもあります。
またアトラクトにおいては「どのタイミングで、何をもとに意思決定をするか」 を意識しています。選考の途中で、採用候補者に対して以下のような問いかけを行い、意思決定のプロセスやポイントを可視化します。
・ 「今、ナレッジワークからオファーが出たら決めますか?」
・「迷うポイントは何ですか?」
・「何が解決すれば、入社の意思を固められますか?」
このように、採用候補者に言語化してもらうことで、本音を引き出し、より適切な情報提供を行います。ナレッジワークでは、HRだけでなく、CEOを筆頭に経営陣も積極的にフィードバックを行い、採用戦略を磨き続けています。
私自身、まだこのプロセスを完全に体現できているわけではありませんが、経営陣や事業部からのフィードバックを受けながら、日々採用戦略をブラッシュアップしています。本日の内容が、皆さんの採用活動に少しでも役立てば幸いです。
おわりに
今回は、ナレッジワークが実践する採用プロセスや採用候補者体験(CX)デザインをご紹介しました。採用候補者の立場から体験を考え抜き、フレームワークに落としてチームとしての対応力を平準化する構造の美しさが印象的でした。
入社後に活躍できる人材を採用するためには、互いの期待をすり合わせ、入社前のエンゲージメントを高める採用候補者体験(CX)の設計が重要です。
本記事が優れた採用候補者体験(CX)デザインの一助となれば幸いです。
渡邉さん、貴重な実践事例のご共有ありがとうございました!