ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」東軍(最東対地、円城寺正市)
(お題:科学の申し子)(ムード:ワクワク)
第1章(最東対地)
空に人型の大きな影が太陽を遮った。
遠くの山からそれとは別の巨大な影が立ち上がる、顔はイルカ、体はゴリラ、尻尾はワニというデタラメな怪獣が威嚇するように咆哮をあげる。
「ぐばらごごごんばあー!」
おっと、叫び声までデタラメだ。
キュィイーン。。。という空気が張り詰め、収束していく音がする。
初めて聞いた時は超音波かと思った。
一斉に外に飛び出した子供たちの中で、僕だけが耳を塞ぎうずくまっていたことを思い出す。
あの時は、世界の終わりが訪れたのかと思ったほどだ。
この世界には嵐や地震よりも頻繁に起こる災害がある。
それが怪獣だ。
それはもう怪獣はよくでる。これが街や建物を壊し、大迷惑しているというわけだ。
そこで科学の申し子たるプロフェッサー名古屋が開発したのが、これ。
空を覆い隠す人型の飛行船である。
見上げると人型の頭部、もっというと口の部分に粒子状の光が集まってゆく。
「熱源砲だ!」
わあああっ、という声援があがる。
すっかり僕も一緒になって騒ぐようになった。
プロフェッサー名古屋が開発した熱源砲は、怪獣を一撃で一掃するだけの威力がある無敵のビーム兵器だ。
だが空から正確な射撃でないと的に当たらない。
前に熱源砲が山を一つ消し飛ばした。
その熱源砲を放ったミナゴロシ飛行船はすぐに処分された。
そう、憧れだけではないのだ。
でも僕たちは憧れる。
人類を怪獣から守るミナゴロシ飛行船に、誰もが憧れるのだ。
空が黄色い閃光に染まる。怪獣の土手っ腹に大きな穴が空いたと思った数秒後に轟音が轟いた。
顔がイルカのデタラメな怪獣が悲しそうな、痛そうな顔で消滅してゆく。
「いえーい!ナイスミナゴロシ!!」
僕たちは合唱するようにして歓声を上げた。
こうして怪獣は、ミナゴロシ飛行船に殲滅(せんめつ)される宿命にあるのだ。
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「適正検査はどうだった?」
しばらく怪獣の出現がなく、退屈を持て余していた僕は母親の質問でさえ食らいついた。
「え? 適正検査。。。ああ、そうね。。。」
食らいついたはいいが、みるみる尻すぼみしてゆく。
「なんなの、ダメだったの?」
しぼんでいく僕に反して母親は嬉々としてはしゃいだ。
「なんだよ、うれしいのかよ」
「あったりまえじゃない!どこの親が自分の子が飛行船になることが嬉しいのよ」
「他人事だと思って」
「他人事じゃないから喜んでいるんじゃない!」
ミナゴロシ飛行船は、機械や兵器の類ではない。あれは人間だ。
ごく一部の人間に突然発症する「熱源」がある。これを有するものがさらに進化を遂げミナゴロシ飛行船になるのだ。
だがミナゴロシ飛行船になったからといって誰でも熱源砲が放てるわけではない。さらにふるいにかけられ、特別な訓練と能力を授かったものだけが 熱源砲を使用できるのだ。
子 供たちはみんな、熱源砲を放てるミナゴロシ飛行船になりたいと思っている。熱源砲はそれだけ羨望の的なのだ。
だが大人たちは子供がミナゴロシ飛行船になるのは嫌なようだ。
怪獣を皆殺しにするミナゴロシ飛行船は名誉しかない。怪獣殺したい!
「あ、ちょっと静かにして。プロフェッサー名古屋の緊急放送よ」
母親が慌ただしくリビングへ駆け込んだ。負けじと僕も駆け込み、テレビにかじりついた。
「あー、余は天才。科学の申し子とかいうとるけども、ただの天才で新しい秩序だから。余が緊急事項を発表するぞい⭐︎」
なんだろう、胸が高鳴る。
一体、どんなことを発表するのだろうか。母親はやはりどこか不安げだ。
「人工的に熱源砲を放てるミナゴロシ飛行船になれる薬を開発したぞい。とりあえず完成試作品で5つ用意したからねぇ、とりあえず実験を兼ねて適正検査の結果、下位5位のガキンチョにあげちゃう。みんなあげちゃう!」
「えっ!」
僕は検査結果の用紙に目を落とした。
『適正結果:587名中583位』
第2章(円城寺正市)
正義の味方になれる。
それ以上何が必要だというのだろう。
絶句する母親をよそに、僕の心は浮き立った。
5人のうちの1人。
それが僕なのだ。
後日、黒服の男たちがジュラルミンケースで運んできた薬を受け取る。ゴクリと喉がなる。これで僕はミナゴロシ飛行船になれる。怪獣をぶっ殺せる。熱源砲を撃ちまくって、みんなのヒーローになれるのだ。
「これを飲むのは、次に怪獣が現れた時にお願いします。怪獣が現れるまでは絶対に飲まないでください」
かなりしつこく念押しする黒服に辟易(へきえき)しながら僕は頷いた。
大きなジュラルミンケースの中に、一本の試験管。タマムシ色に刻々と色を変えながら液体が還流している。
「綺麗だな……」
試験管を手にとって明かりに透かしてみる。何で出来てるんだろう。きっとすごく綺麗なものから抽出されるにちがいない。花か宝石か……。
これを飲んで正義のヒーローに変わるなんて、テレビの中の出来事みたいだ。胸の奥で心臓が暴れている。とうとう、僕はヒーローになるんだ。
テンションが上がる。ワクワクする。ドキドキする。
ちらりと視線を左ななめ上に向ける。
やっぱり正義のヒーローっていうのは、モテるのだろうか?
隣のクラスのえっちゃんの前で、熱源砲を放ってみたりしたら喜んでくれるだろうか。
「きゃーすてき! とか言って頬にチューなんて、わああああ! 何考えてんだ、僕は!」
思わず床の上をゴロゴロと転げまわる。
でもまてよ? 隣のクラスのえっちゃんどまりで、いいのかな?
「すごく大活躍したら、アイドルみたいにあつかわれちゃったりするかも……!」
怪獣をぶっ殺して、みんなの上を旋回したら、大歓声でむかえてくれて、ありがとう! ありがとう! ってみんなにお礼を言われて……。
おっ! いい。 それって、すごくいい!
「最後には大統領に押されちゃったりとかして」
むふふふふ。
ニヤニヤと自分でもわかるぐらい気持ち悪い笑いを浮かべながら床の上を転がる。
薬を眺めて、再びニヤニヤ。 ずっと見て入られそうな気もする。
だが、
この時、僕は知らなかった。
お茶の間で母親が見ているテレビの中でニュースキャスターが真面目くさった顔でこう言っていたことを。
「さき頃、怪獣の全滅が確認されました。地球は救われました」
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11月16日(土)16:00から、京都 木屋町「パームトーン」で開催される「fm GIG ミステリ研究会第13回定例会〜ショートショートバトルVol.4」で執筆された作品です。
顧問:我孫子武丸
参加作家陣:川越宗一、稲羽白菟、最東対地、延野正行、尼野ゆたか、大友青、誉田龍一、円城寺正市、山本巧次 ほか
司会:冴沢鐘己、曽我未知子、井上哲也
上記の作家が、東軍・西軍に分かれてリレー形式で、同じタイトルの作品を即興で書き上げました。
また、それぞれの作家には当日観客からお題が与えられ、そのワードを組み込む必要があります。
さらに「ムード」の指定も与えられ、勝敗の基準となります。
当日の様子はこちらのアーカイブでご覧になれます。
タイトルになった「君の飛行船」はこんな曲です。
「君の飛行船」TIME FOR LOVE(詞・曲/冴沢鐘己)