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ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」西軍(川越宗一、誉田龍一)

(お題:亀)(ムード:ワクワク)

第1章(川越宗一)

 川越宗一は、ニヤニヤと笑っていた。まずその理由を話そう。

「コブラ」という漫画がある。週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画だ。アニメになり、そちらでは「スペースコブラ」といいうタイトルであり、なにか大人の事情があるのだろうなと幼心に思っていた。ガンダムに出て来た「エルメス」なるメカがプラモになった時「ララァ専用モビルアーマー」になったような。

  コブラは作品のタイトルであり、ハードボイルドな主人公の名前でもある。左手が銃で、普段のコスチュームは赤い全身タイツ。街で会えば、こんなにテンションが高いおじさんもおるまい。今年の夏は暑かったからな、と自分を納得させるしかない。

 だがコブラはめちゃくちゃかっこいいのだ。そんなおかしな格好でかっこいいのは、あとフレディ・マーキュリーしかしらない。

「我々はチャンピオン、我々はチャンピオン、負け犬に残された時間はない、我々はチャンピョン」

 そう絶叫するフレディ・マーキュリーは、水色のジーンズにタンクトップ、首に赤いスカーフを巻き(時もある)、マイクスタンドの上半分を握りしめ、拳を振り上げるのだ。めちゃくちゃかっこいい。

 さておき。

 川越宗一は、そのコブラをもとにしたアイデアを温めていた。

 コブラに憧れた人物がいる。偶然知り合ったヤミの医者に、「自分の左手を銃にしてくれ」と頼む。医者は快諾するが、うっかりものであった。

 かくて主人公は、拳銃に左腕がくっついた体に生まれ変わる。

「話が違うじゃないか」

 猛然と抗議する主人公に、医者は酒臭い息を吐きながら「テレコになるなんてよくあるじゃないか」と言い訳をする。

 こうして、左腕付き拳銃の大冒険が始まる。

 これは絶対に受ける。京都へ向かう新幹線の中で、川越宗一はほくそ笑んでいたのだ。ところが。

 君の飛行船、亀、ワクワク。

 これが川越宗一に課せられた題、いや生きる苦悩である。

 コブラも拳銃も左腕もサイコガンも、もはや出しようがない。

 しかも川越宗一の次は誉田先生である。時代小説の大家である。飛行船のない時代、ワクワクという語があるか定かでない時代、亀といえば一万年という単位を示す時代をメインに活躍している方だ。

 そこで、川越宗一はこんな書き出しを思いついた、

「拙者、ワクワクする飛行船でござる」

 だめだ、亀が入らない。

「拙者、ワクワクする飛行船の亀でござる」

 文法上は間違いないしお題も満たしているが、これはシュールさに逃げただけだ。

「当てたらハワイ旅行にご招待するぜ」

 コブラの名セリフの一つである。しびれる。主題歌を歌いたくなる。そちらはアニメだからスペースコブラになってしまうが。

 だが川越宗一は正解を、あたりを、つまり当たり的な書き出しも設定もなにも思いつかない。

 別のストーリーを考えようと川越宗一は思考をめぐらせる。

 タイガー戦車 VS 97式艦攻(きゅうななしきかんこう)

 正直こっちが燃える。これがいい。これしかない。

 だが、川越宗一も、儚い人間という存在である。ひとりでは生きていけない。みなさまや社会の優しさのなかで、なんとか生きながらえている存在である。

 やけぼっくりのようなバトンを次に渡すわけには行かない。

 川越宗一は、書き出しを決めた。ゆっくりとタイピングする。それこそコブラが左手のサイコガンで狙いを定めるように。

「拙者、ワクワクする飛行船の亀でござる」


第2章(誉田龍一)

「拙者、ワクワクする飛行船の亀でござる」

そうなのだ。わたしは科学者と呼ばれるものだ。そして、今は空の上にいる。

なぜかって? 飛行船に乗っているからだ。

飛行船って何か知ってるよね。ある一定以上の年齢の人は、日立の宣伝で知ってるかもしれない。あるいは、さっきまでここに書こうと思っていたのに言われてしまった、ナチスドイツのヒンデンブルグ号が有名かもしれない。

そうじゃないんだ。この飛行船は、人類の発展の為に、科学者たちが集まっている飛行船なのだ。このネタは相手のチームのことだが、使わせてもらう。

人類の発展の為に、各パーツだけで生きていくことができるのかを、研究している。この間、二時半くらいの品川駅から乗った新幹線内で有名作家の頭の中から、奪いとったイメージ、左手に銃を持っているというパーツを作った。

くれぐれも言っておく。コブラではない。左手が銃ではない。左手に銃がついているのだ。左手があって、銃を握っている。そんなものだ。いかにも天才作家の考えそうなことである。

しかしこの飛行船ではそれが真面目に作成される。他では絶対に相手にされないものでもだ。阪神タイガースの帽子をかぶった頭とか、タンクトップを着た上半身だけ(これは某有名ロックスターらしい)、あるいはそのロックスターの髭についたタイガー戦車、などなどである。

そう、我々は死んでも、パーツだけで生き残るのである。ただし、何か物体を一緒でなければならない。誰が決めたか知らない。確か国会でそうなったのだ。パーツだけでは、とにかくいけないらしいのである。

そこで色々考えた。その某作家は漫画からイメージをえたようだ。

「ああ、俺にもあったぞ」

わたしは思わず叫んでいた。
考えるだけでワクワクしてくる。
シティハンターという、漫画を知っているでしょう。

「もっこり」

そう、あの部分だけを切り取って作ろう。
昔、阿部定という方がおやりになったことをやればいい。
でも、何をひっつけるのだ。
トートロジーって知っているだろうか?
馬から落馬したとかいう風に、意味が重複することを並べることだ。

「なら、決まった」

亀をつける!
わたしはワクワクしてきた。
わたしは女性である。
どっちも試してみたい。
ワクワクしてきた!
毎晩の楽しみ!
でも、いきなりそんなことはしないわよ。

「熱源」を読んでからね。

(終わり)

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11月16日(土)16:00から、京都 木屋町「パームトーン」で開催される「fm GIG ミステリ研究会第13回定例会〜ショートショートバトルVol.4」で執筆された作品です。

顧問:我孫子武丸
参加作家陣:川越宗一、稲羽白菟、最東対地、延野正行、尼野ゆたか、大友青、誉田龍一、円城寺正市、山本巧次  ほか

司会:冴沢鐘己、曽我未知子、井上哲也

上記の作家が、東軍・西軍に分かれてリレー形式で、同じタイトルの作品を即興で書き上げました。

また、それぞれの作家には当日観客からお題が与えられ、そのワードを組み込む必要があります。

さらに「ムード」の指定も与えられ、勝敗の基準となります。

当日の様子はこちらのアーカイブでご覧になれます。

タイトルになった「君の飛行船」はこんな曲です。

「君の飛行船」TIME FOR LOVE(詞・曲/冴沢鐘己)

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