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「僕は子供を持ったことはないですが、子供だったことはあります」

田村由美さんの漫画「ミステリと言う勿れ」が好きです。
ネットでめちゃめちゃ広告が出ていたし、わたしの住む島根県(田舎)ですらも書店でコミックスが売り切れ続出していたほどなので、ご存知の方は多いかもしれませんが。

ざっくり説明すると、毛量と口数が多くて休日にカレーを作るのが好きな、ちょっと風変わりな大学生・久能 整(くのう ととのう)が何やかんや色んな事件に巻き込まれ、その観察眼と口数でどんどん事件を解決する話です。

表題の通り、ミステリに多い展開「まず人が死んで、そこから事件になる」が基本的にはありません。事件になる前に未然に防いだり、過去誰かが死んだ事件について真相を暴く感じの話が多いです。もちろんリアルタイムで誰かが亡くなったり、連続殺人事件が起こったりすることはありますが、いわゆる「洋館に閉じ込められて主人公の前で一人一人誰かが死んでいく」的な話はありません。(7巻現在。…なかったよね?)

この漫画のファンほとんどがおそらくそうじゃないかと思うのですが、わたしは整くんのハッとさせられる言葉が好きなのです。

「子供はバカじゃないです。自分が子供の頃バカでしたか?」
(「ミステリと言う勿れ」3巻p37)

事件や犯罪そのものへの整くんの主観的な発言もありますが、もっと日常的な、人々がふだん気にしていないような「小さな問題」を整くんはえぐってくれます。

特にわたしは「子供」に関する話が好きなようで、表題のセリフも作中で整くんが言うものです。

「僕は子供を持ったことはないですが、子供だったことはあります」
(「ミステリと言う勿れ」1巻p71)

わたしは現在ファンタジー子育て漫画を描いているのですが、これを描き始める前か、描き始めてちょっとした頃に「ミステリと言う勿れ」に出会い、このセリフにガーンと頭を打たれました。

わたしはずっと悩んでいたのです。
「子育てをしたこともないわたしが、2人の娘を育てているシングルファザーの話を描いていいのか?」と。

「子育てをしたこともない人が、子育ての漫画を描いて欲しくない」
「この人は子育てをしたことがないから、話がリアルじゃない」
そんなことを言われるんじゃないかと、ずっとヒヤヒヤしていました。

だって、言いそうでしょ? 誰か。
こういう発言、Twitterとかでいっぱい見ますし。

でも整くんのセリフで吹っ切れました。
「そうだ、わたしは子供を育てたことはないが、親に育てられたことはあるじゃないか」

そこから、「親に育てられたことがあるわたし」として、ずっと漫画を描いています。子供を育てたことはないから、あとは想像です。

ただ、あまりにも現実とかけ離れたものは描きたくないので、子育てに関する話を描くときは「昔、週5くらいでおうちに遊びに行っていた友人&その子供たち」を想像しながら描いています。

彼女はワンオペで育児をしており、わたしは彼女のことがとても好きで(恋愛的な意味じゃなくて)、子供達が大きくなるまでいろんなことを支援したり、隣でたくさんのことを見てきました。なぜか幼稚園見学に付き合ったこともある……。最近会ってないけど、お姉ちゃんはもう高校生かな。

もちろん本当の「親」の苦悩は経験していないけど、子育てのいいところも苦しいところも嫌なところもほんの少しだけ共有させてもらったと思っています。

わたしの子育てマンガはファンタジーですが、漫画なんてものはそもそもファンタジーで、その中にひとすじの真実が混ざっているから面白いのだ、ととある漫画家さんが言っていました。(小野塚カホリさんの言葉です。彼女はもう漫画を描いていないようだけど)

「ミステリと言う勿れ」を読むたびに、「世の中の大きな声に惑わされるな」と心を突き刺されている気がします。

「もっと細部を見て、違和感に気づけ。小さな疑問をそのままにしておくな。あなたがそれを追求してはいけない理由なんて一つもない」と。

これからもわたしは、勇気がくじかれそうになるたびにこの漫画を読むでしょう。現在7巻まで出ています。

「世の中の大きな声」に負けそうな方、子供時代につらい記憶がある方は、ぜひ読んでみてください。


あ、ちなみに拙作はこちらです(宣伝)。
「ミステリと言う勿れ」ほど面白いとはとても言えませんが、一部の方にはめちゃくちゃウケているので、あなたもその“一部の方”であれば幸いです。
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タイトル画像にも書いておりますが、主人公の髪がもじゃもじゃなのは整くんの影響ではありません……。10年前にデザインしたキャラクターをそのまま描いているので。

#マンガ感想文

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伊藤巴(ともえ)@漫画家×カウンセラー
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