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フェス出展者さんに聞く⑤「触覚」を通じて見えてきた赤ちゃんの個性[NTTコミュニケーション科学基礎研究所 渡邊淳司さん]

こんにちは!ライターのかのです。
2023年10月に開催され大盛況のうちに幕を閉じた「教えて!赤ちゃんフェスティバル」。参加された赤ちゃん、ママパパには楽しいという感想をいただきましたが、では展示をしてくださった出展者の方は何を得ることができたのでしょうか?そもそも、こんなふしぎなイベントに、みなさん、どんなモチベーションで向かい合っていたの?その感想を出展者の方に伺います。

大人気だった「触覚」で遊ぶ2つの展示

教えて!赤ちゃんフェスティバルの会場で赤ちゃんたちの好奇心をひきつけていたのが、2つの「触覚」にまつわる展示です。

空気伝話

「空気伝話」は、2つのやわらかいテニスボールのような球体が、チューブでつながっている、とてもシンプルだけど、つい触りたくなってしまうような装置です。

片方を赤ちゃんが手に取り、お母さんが反対側を持って、ぷにっと押すと、ふくらんで空気でお話をしているみたい。

もう一つの展示は、聴診器で胸に触れた人の心臓の鼓動を、キューブが震えることで伝える「心臓ピクニック」という体験展示です。

心臓ピクニック

キューブ型のものは手に持てば鼓動を感じられますし、キューブが触れているマットの上では寝そべった赤ちゃんが全身で親御さんの鼓動を感じることができます。

ぽこ太郎はこの展示が大のお気に入りで、マットが震えるたびにびたっ!と動きが止まっていました。

この2つの展示を持ってきてくださったのは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司さんです。

渡邊さんは、触れる感覚を通じた人と人のコミュニケーションに関する研究を行う研究者さんです。同時に、共感や信頼をつうじて、さまざまな人々が協働できるウェルビーイングな社会のあり方を探求していらっしゃいます。

触れる感覚の数だけ、赤ちゃんの個性がある

出展の感想について、渡邊さんにお話を伺いました。

ー今回、「教えて!赤ちゃんフェスティバル」に、何を求めて参加されましたか?

渡邊:普段僕は、「通信」と「触覚」の研究をしています。触覚が、人と人をどうつなげるのか。それによって人の心がどういう風に影響を受けるのかということがテーマです。

「触覚」は、誰もが持っている感覚です。触覚によって、言葉にたよらないコミュニケーションをとることができます。そこで、言葉を持たない段階の赤ちゃんが、触覚によるコミュニケーションに対してどのようなことを感じ、どのような反応をするのかということに、非常に興味を持って、このイベントに参加しました。

ー実際にイベントではどのような気付きを得られたのでしょうか?

渡邊:赤ちゃんはお母さんのおなかのなかで心拍を感じていますから、心臓ピクニックを通じてお母さんの鼓動に触れれば、なんらかの反応を示すのではないかと考えていました。

もちろん、当日いらっしゃった方からの観察でしかないのですが、個人差がすごくあって、振動で落ち着く赤ちゃんもいれば、逆にドキドキ震えるのが怖いという反応もありました。

「お母さんの心拍を感じれば赤ちゃんは落ち着きます」というような、そんな単純な話ではないんだと感じました。むしろ、触れる感覚の数だけ、それに対する反応にも、一人一人の個性のようなものがある。

当然といえば当然のことなのですが、人はみな違うし、言葉をしゃべらないからこその、感覚の個人差のようなものを感じることができたと思います。

ーすばらしい気づきですね。あの場だからこそ得られたのではないでしょうか?

渡邊:そうですね。赤ちゃんが、どんどんどんどんやって来るんですよね(笑)。行ったと思ったら次が来て、行ったと思ったら次が来る。

次の赤ちゃんはどんな感じかな?同じことをやろうとすると失敗する。毎回毎回ちょっとずつ変わるのが当たり前なので、「じゃあ今回はいきなり心臓じゃなくて、ちょっと触れるところから」とか、「弱い感覚から始めよう」とか、その子その子に合わせて、体験してもらうということをやっていましたね。

それぞれの赤ちゃんを、1人の人として、生命として、感じあいながらやり取りする時間が過ごせたように思っています。

想定外の不思議な状況を楽しむ

ー「空気伝話」の方はいかがでしたか?

渡邊:赤ちゃんがボールを持って、お母さんが反対側をぷにぷにしてあげるというのを想定していたのですが、チューブの部分を食べるのが好きな赤ちゃんが多くて、一人でチューブを食べながら、ボールをおなかで握るとか、想定外の不思議な状況が起きたりしていましたね。

普段の生活ではあまり接することのない触感に、お子さんたちがちょっとワクワクしたり、新しいコミュニケーションにつながるといいなと観察しながら思いました。きっと赤ちゃんにとって、「ちょうどいい大きさ」もあるんだろうなと思います。

普段僕はワークショップを通じて小中学生と接する機会が多いのですが、ここまで小さなお子さんたちに、これらのものを使っていただくことで、身体感覚は誰もが持っていて、言葉が通じなくても何かしらを伝えられるということに気づくことができました。

ー今後赤ちゃん研究所に期待することがあれば教えてください。

渡邊:赤ちゃんにとっての心地よさや、新しい世界が開けたような感覚は、僕らが推しはかれるものではないと思っています。

それを僕たちはどのように見ていくべきなのかということは、研究として興味深い対象だと思います。これからの活動でも、赤ちゃんと触れ合えることがあればうれしいです。

ー赤ちゃんの反応には個性があり、くみ取る側にもその個性に合わせたふるまいが求められるというお話をとても興味深く感じました。今日はありがとうございました。

(まとめ、聞き手:プレーンテキスト 鹿野恵子、聞き手:clockhour 黒川成樹)

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