フェス出展者さんに聞く⑦成長してもずっといっしょがいい[国立大学法人静岡大学 川原﨑 知洋さん]
こんにちは!ライターのかのです。
2023年10月に開催され大盛況のうちに幕を閉じた「教えて!赤ちゃんフェスティバル」。参加された赤ちゃん、ママパパには楽しいという感想をいただきましたが、では展示をしてくださった出展者の方は何を得ることができたのでしょうか?そもそも、こんなふしぎなイベントに、みなさん、どんなモチベーションで向かい合っていたの?その感想を出展者の方に伺います。
ぐるぐる回るシンプルなオブジェ、赤ちゃんも大人も夢中に
会場で見つけたのが「竹ひご」でできたドーナツのようなオブジェです。
二重になっていて、内側と外側が別々に回転します。
民芸品のような素朴な質感で、赤ちゃんはいつまでもなめなめしたり、触って遊んでみたり。
大人も、シンプルな美しさに、つい手で回してみたくなってしまうようなオブジェでした。
このアイテム「竹ひごドーナツ」を持ってきてくださったのは、国立大学法人静岡大学の川原﨑 知洋准教授です。
川原崎知洋デザイン研究室は、デザイン思考に基づき、小・中学生、高校生、大学生を対象としたデザイン教材を開発しています。また、地域や企業・団体・行政と連携し、デザインによっていかに社会課題を解決し得るのか、学生たちと一緒に実践する研究室です。
川原﨑さんにお話を伺いました。
竹ひご職人さんとの共創で作るおもちゃ
ーフェスに出たきっかけを教えてください。
川原﨑:赤ちゃん研究所のメンバーであるひらいさんが大学時代の同期(静岡大学教育学部、美術教育専修)で、2023年6月頃に久しぶりにメールがきました。
彼女から、ピープル株式会社で赤ちゃん研究所を立ち上げたこと、赤ちゃんに対する行動観察を通じておもちゃを開発しているということ、そして、10月に「教えて!赤ちゃんフェスティバル」を開催するということを教えてもらいました。
それで、今出展者を募っているのだけど、川原﨑くんもどう?と誘ってもらったのがきっかけです。
私自身も、新しいデザインや企画を行動観察をベースに考えるということに興味関心を持っていました。彼女たちが赤ちゃんをどのように見て、行動をどう分析して具現化までつなげていくのだろうかというところを知りたいと思いました。
ちょうどそのころ、私たちは静岡市の伝統工芸品である、駿河竹千筋細工の職人さんとクリスマスツリーのオーナメントを開発するという別のプロジェクトをやっていて、「この竹の工芸品で、赤ちゃん向けのおもちゃを作ったらおもしろいのでは?」と考えました。
そのときご一緒させていただいていた「みやび行燈製作所」という工房の杉山茂靖さんという職人さんは、共創に対してとても寛容な姿勢の方で、彼に「おもちゃは作ったことはないけど、やってみよう」とおっしゃっていただいたことにも背中を押してもらえました。
8月のモニターテストには、今あるもので、おもちゃとしても使えるようなものを10個ぐらい持っていくことにしました。その中に円柱状のつみきのようなものがあって、なぜかはわからないのですが、赤ちゃんがかなりそれに注目していたんです。それをベースにおもちゃを開発しようかと考えました。
たどりついたのが「竹ひごドーナツ」です。これは二重構造で、内側の輪と外側の輪が別々に回転します。回転を加えることで、おもちゃとして面白いものになるだろうと考えました。図面を私がひいて、それを職人さんに形にしていただきました。
おもちゃの構造もですが、最初から最後まで気になっていたのは、オブジェの安全性です。ささくれが出ないようにする、赤ちゃんが遊んでも割れないようにする、などの点について、赤ちゃん研究所さんから丁寧にご助言いただきました。後半は形状の検討よりも、より安全なものを作れるかというところが中心になっていたような気がします。
赤ちゃんはなんでも舐めるので、舐めても問題のない塗料をどう選定するかというところにもかなり時間を割きました。
遊び終わっても長く付き合える、おもちゃの新しい可能性
ー本番当日はいかがでしたか?
川原崎:会場に10個ほどの竹ひごドーナツを用意して、研究室の学生4名と一緒に実際に赤ちゃんに触ってもらいました。
モニターテストを経ていたので、おもちゃが見向きもされないという心配はなく当日を迎えられたのですが、安全性については気になっていたので、学生含めたスタッフ全員で注意して見守りました。
ー竹ひごドーナツに対する赤ちゃんの反応はいかがでしたでしょうか?
川原崎:いろいろな持ち方をするなとか、月齢によって遊び方が全然違うなと感じました。僕が赤ちゃんに手渡すのと、赤ちゃん自身が発見して遊ぶのとでは、遊び方が違うというのも発見でしたね。楽しく遊ぶお子さんもいれば、見向きもしない子もいました。
もう一つ僕にとっての大きな成果は、保護者さんとのコミュニケーションでした。
おもちゃは、子供が成長したら不要になってしまい、処分に困ることが多いですよね。でも竹ひごだと、経年変化で色合いが渋くなったりしますし、この形状であれば将来的にはテーブルライトとして活用していただくこともできます、と保護者の方にお伝えしたところ、とてもよい反応をいただくことができました。クリスマスツリーのオーナメントとしても活用できます。
保護者さんは、せっかく買ったものなので、長い関係性を作っていきたいと考えています。そこに新しいおもちゃの可能性を見出すことができたのは、僕にとっては大きな成果でした。「使い方を変えて長く付き合える関係性って素敵だね」という意見を保護者の方からいただいたときが一番うれしかったですね。
ー長く使って手元にもおいておけるというのは、親としてもとてもうれしいですね。今後、赤ちゃん研究所とどのような活動を考えていらっしゃいますか?
川原崎:大学の授業の講師として、赤ちゃん研究所の方をお招きしたいと考えています。
定量的にではなく、定性的に赤ちゃんの行動ベースで観察して、おもちゃを開発していくという姿勢そのものに共感しました。何かものを作るときや、新しいサービスを立ち上げるとき、対象となる人の行動を純粋に観察し、そこをしっかり分析するというまなざしについて、授業の中で、言葉で、または演習として、静岡大学の学生たちに伝えられたらいいな、と思っています。
ー学生さんたちに「赤ちゃん観察メソッド」がどのように受け入れられるのか、楽しみですね!今日はありがとうございました。
(所属は2024年1月の取材当時のもの)
(まとめ、聞き手:プレーンテキスト 鹿野恵子)
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