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【星涯哀歌5】月の裏側【過去詩/SF詩】
あのひとはあそこにいるのだと
思い馳せてみる二日月の夜
量子テレポーテーションの実験に関する
いたって事務的なメールを受信し
月の裏側での勤務を希望する
いたって事務的なメールを送信する
貴重な自由時間は無為のうちに過ぎる
娯しみ少ないドーム基地で
手すさびに描く絵は
いつもどうしたことかモノクロの横顔ばかりで
ハードに保存する気にもならず
描いては消し描いては消し
逡巡のあと私は
簡潔な私信を地球に送信する
私は元気だ と
健康でちょっと肥りすぎたくらいだ と
孤独な夜の顔は
あのひとには見せない
地球には見せない
月の裏側のように
天窓を仰げば
満月より明るい地球照
反射に反射を重ねて
この光は
本当にあのひとのもとに届くのだろうか
私を乗せた月球は
こうしているあいまにも
わずかずつわずかずつ
あのひとから遠ざかってゆくのに
※※※
この詩に元ネタはありません。ただ、月がだんだん地球から遠ざかっているという事実を詩にしてみたかったのです。