
【星涯哀歌6】赤い第四惑星のバラッド【蔵出しSF詩】
第五惑星からきた生命体には
目も耳も口もなかったの
でも胸に青灰色の薄い皮膜が二枚あって
その皮膜は鼓膜と声帯の役目を果たしていたわ
光の感覚受容器がどこにあるか誰にもわからなかったけど
彼らはとくに不便しているようにはみえなかった
彼らがいったんこの大地に逗留して去っていったときから
私たちの赤い大地はかわきはじめ
彼らの惑星が耐えきれず爆発したそのときから
私たちの赤い空には小さな魔物がふたあつ
あわれな双子の星
永遠に飢える混沌(フォボス)が空を駈ける
そのあとを永遠に渇く恐怖(ダイモス)が追いかける
どうか顔をあげて
第四惑星に生まれた最後の子よ
第五惑星からの救いはやってこない
そうよもう第五惑星なんてどこにもない
彼らはみんな銀河のまんなかめざして行ってしまったわ
あなたには父親も母親もない
記録を頼りに私があなたを合成した
動きなさい と
歩きなさい と
あなたに命じてほしいばっかりに
でもあなたは命じてくれない
ただ私に訊ねるばかり
あなたは私の役に立ってくれないの
だから私はあなたを放逐する
でもあなたはいま以上に孤独になったりはしないわ
あの青い第三惑星には
それなりに
生き物が蠢いているから
第四惑星に生まれた最後の子よ
無機物である私が唯一生み出した有機的な存在よ
青い惑星で学びなさい
生きなさい
そしていつの日か第五惑星人の青い皮膜に
おまえの背負う歴史の全てをぶちあてて
そうしたらお願いどうか
ここに戻ってきて
第四惑星に生まれた最後の子よ
私は全機能を停止します
あなたが起動スイッチを入れる日まで
待っています
※※※
タイトル元ネタはありません。ただし内容の元ネタはあります。
まず第五惑星なんですけど、むかしむかし、第五惑星が(ロッシュの限界かなんかの理由で)壊れてアステロイドベルトになったという説がありました。今は否定されています。
でも昔はこのネタを使ったSFがわりとありまして、有名どころだと萩尾望都の『スター・レッド』が「昔はあったけどなくなってしまった第五惑星」について触れています。
また『第五惑星からきた四人』というSFがありまして、私はきっとなくなってしまったあの惑星の話だと思いましたが全然違う話でした。面白い話ではありましたが。あの第五惑星に騙された人は私だけではないと思いたいです。それはそれとしてSFとしてはすごく軽くて楽しいのが悔しい本でした。
赤い第四惑星と青い第三惑星については説明する必要はないでしょう。あえて付け加えるならフォボスとダイモスは火星の衛星であること。フォボスはいつの日かロッシュの限界を迎えて壊れる運命だそうです。
この詩の太陽系はきっと異世界の太陽系なので、昔は第五惑星があって今その惑星の痕跡はアステロイドベルトになっているのだと考えてくださいませ。