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【星涯哀歌15】通り雨【全面改稿/SF詩】

よっこらしょと休憩所の椅子に座ったら
緊急速報で通り雨襲来予報サイレンが鳴りだした
まだ一口もお茶を飲んじゃいないがしかたない
またかと思いながら重い腰を上げる
通り雨がくる以上お茶なんか飲めない

ぶーぶー文句を言いながら作業場に行くと
全員集まっていた
まあ集まるしかないんだけどね

「総員武器を持って持ち場につけ」

基地長の命令を合図に
俺たちは窓に張り付いて外を見つめる
手に手に強力エアブローガンを持って

硫酸の雨を撒き散らしながら
通り雨がやってくる
やつら
雲状超硫黄分子生物通称通り雨
この惑星の先住生物だが
意思疎通はできた試しがない

ふわふわした綿雲のようなやつらは
猫くらいの大きさのどこか可愛げのある外見で
群をなして飛んでくる
そしてやつらがいる限り
基地を安全に保つことはできない

火器で攻撃することはできない
二酸化硫黄や硫化水素が発生する
弾丸や刃物は意味がない
やつらは雲のようなものだ

当初攻撃されることを想定していなかったため
攻撃手段はすべて後付けだ
一地方の気象現象だと思われていたやつらが
意志を持って攻撃するとは
誰一人予測しなかった

それでもやつらはどうやら生物であって
強風でバラバラにすれば
危険な液体と化して地に落ちる
爆風は最も有効な攻撃手段だろうけど
俺たちの基地に潤沢な爆発物はない

だから俺たちは
てんでに強力エアブローガンを持って
やつらを強風で吹き飛ばすのだ

通り雨のあと
溶けた穴だらけになった基地の外装を補修する
通り雨のあとはいつもこんなだ
今回もひどい通り雨だった
死んだ通り雨たちがぐずぐずと地表を溶かす
地球のような風情ある通り雨は
この惑星に存在しない
俺は灰色の空を仰ぐ
水だけを落として通り過ぎる地球の雨が懐かしい


※※※

「書く習慣」というアプリの「通り雨」というお題で書いたものです。初稿では通り雨に対する攻撃手段の描写が全くなかったのを付け加えました。エアブローガンでいいの?いいとしてください。他に攻撃手段思いつかなかったの。そもそもこいつらどうやって飛んでるんだろう?

雲状超硫黄分子生物はありがたいことに地球には存在しません。超硫黄分子は地球上に普通に存在します。アミノ酸やなんかが硫黄と結びついたものです。タマネギやニラに含まれているらしいですよ。洞窟には硫黄化合物を利用する微生物がいます。また動物はかつて硫黄を呼吸していたという学説もあります。なので宇宙のどこかには硫黄を呼吸し硫黄化合物の栄養で生きる硫黄生物がいるかもしれません。

今回の星涯哀歌は少しは星涯っぽくなったと思います。遠いどこかの惑星の開拓最前線のお話ですからね。こういう微妙に生活感のあるSF好きです。


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