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【星涯哀歌17】さらば去りにし日々の光よ【SF詩/改稿改題】
シェルターの中は安全なのよ と
おかあさんはいう
外に出たらみんな死んでしまうんだ と
おとうさんはいう
てんじょうによじのぼって
あけちゃいけない外も見えないまどに
そっとほおをあてて
耳をすませば
やさしい声が歌う
なんだかなつかしい声が歌う
その歌の調子だけは
はっきりとおぼえているのだけれど
歌詞はどうしてもおぼえていられなくて
それがかなしくてたまらなくて
わたしはいくども耳をすます
おかあさんが死んで
おとうさんはへんになった
まいにち奥の窓に顔をくっつけて
まぼろしを見ている
おかあさんが見えるときもあるし
おかあさんじゃない女のひとが見えてるときもある
だれも見えないときもある
それでもおとうさんはいっしょうけんめい見ている
なんでもいいんじゃないかと思う
わたしは最近はまいにち
シェルターの外にでる
だあれもいなくて
てかてかひかる黒いガラスが
あたりにたくさん散らばって
すごくほこりっぽい
ときたま風のなかに声がきこえる
歌う声がきこえる
あの声をきくとわたしは泣きたくなる
からだの奥がどおんと痛くなる
わたしよりすこし低いあの歌声は
近ごろはもうおだやかでなく
ヒステリックにさけんでいるのだ
父さんは返事もしてくれなくなった
毎日ただ奥の窓を見ている
人類がまだたくさんいたころの
ピッグ・ボムが地表を焼くまえの
去りにし日々の
今ひとたびの幻を
私は父さんを捨てようと思う
持てるだけの食料をリュックに詰め込み
着られるだけの服を着込んで
ちょっとだけノスタルジックな気分になって
ふりかえる
でも父さんはこっちを見ない
父さんは当分のあいだ死なないだろう
私の不在にも気づかないだろう
シェルターから這い上がる
歌がきこえる
今日は切なく静かにきこえてくる
歌詞はわからない
でも意味はわかる
今は私にもわかる
あの切実な欲望の意味が
だから私は出かけるのだ
逢ったことのない
見たことのない
あなた
あなたが
去りにし日々の今ひとたびの幻
ではないと
信じていいですか
逢ったことのない
見たことのない
あなた
愛しいあなた
※※※
星涯哀歌最後の作品はボブ・ショウの『去りにし日々の光』からタイトルをいただきました。元は『去りにし日々、今ひとたびの幻』というタイトルでしたが、ちょっと詩の内容からズレてると思ったので『さらば去りにし日々の光よ』に改題しました。
『去りにし日々の光』は時間をかけて光を通すスローガラスというものについて書かれたSFです。今となっちゃビデオカメラでいいじゃんというネタなのですが、抒情的でなんか好きなんですよ。
詩の内容そのものにボブ・ショウはあまり反映されてません。おとうさんが見つめてる窓がスローガラスかもしれませんが。
星涯哀歌はこれにておしまいです。最後まで読んでくださってありがとうございます。