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【星涯哀歌4】世界の中心で愛を叫ばなかったけもの【蔵出しSF詩】
宇宙船を発進しようとしたそのとき
ぼくは船窓に奇妙なものをみた
それはどうみても
桜の花びらのようだった
船内現在時3150.3.22.15:30
くじら座タウ第四惑星ステレシアの南の半球の
平均温度零下三十度の海に
桜などあるはずもないのに
ぼくは疲れているのだとおもう
きっと
生物の存在しない海辺に
波はうちよせ
苦い思い出のように
Gはぼくにのしかかり
閉ざした視野に
舞いちる舞いつづける
桜の花びら
ぼくたちの故郷である青い惑星の
ちいさな島国の
ちいさな公園の
桜の古木をみあげていた
きみの白いのど
もう
あの桜は
宇宙のどこにも
存在しない
生物を生んだことのない惑星の
百億年の孤独を封じた
珪石の砂に
記されてゆくであろう
きみのあしあと
きみがいるところは
どこでも
世界の中心だったのに
ぼくは
そこから離れてゆく
※※※
タイトル元ネタはハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」ですけどこのタイトルあまりにも使われすぎですよねえ。今さら私が書いていいのか。私はちゃんと元ネタ読んでるからいいの。ハーラン・エリスンは好きです。チビで生意気そうでサングラス愛用とかそそります。いやそうじゃない、そういう話じゃなかったわ。
詩としてはこれもやっぱりSF演歌ですが、正直SFでなくても似たような詩情は出せるでしょう。これはSFでなくてもいい作品です。でも私はSFにしたかったのです。だってSF好きだもの。ていうか野田昌宏が喜びそうなものを書きたかっただけかも。「星涯」ですしね。