アセトアミノフェンの最近のレビュー
アセトアミノフェン acetaminophen、欧米ではパラセタモールparacetamolと呼ぶことも多い. この薬は日本ではカロナールという呼び名で、患者さんや一般にも広く知れ渡っている. 忍容性が高く、解熱鎮痛薬として医療者も手軽に処方することが多い. 麻酔領域では静注製剤(アセリオ)が発売されて以来術後鎮痛の基本的な処方に位置づけられ、術後に呼吸抑制等の心配をせずに出せる. しかし正直なところ、作用機序に関しては今ひとつ分からない. 国試や大学の試験でもNSAIDSと同じくらいアセトアミノフェンは出てくるのに、その作用機序は詳しく書かれていない.
アセトアミノフェン(パラセタモール)の作用機序や副作用、忍容性についての比較的新しいレビュー.
作用機序は大きく分けて①プロスタノイド系 prostanoid②セロトニン系 serotonin ③内因性カンナビノイド系 endocannabinoidの3つに分けられる. ①はNSAIDSでもお馴染みプロスタグランジンの産生抑制である. ただ、NSAIDSの作用機序とは違い、アセトアミノフェンはプロスタグランジンH2合成酵素のペルオキシダーゼ活性からシクロオキシダーゼ活性への変換を阻害しているらしい. また、このことが、アセトアミノフェンが末梢ではなく中枢で抗炎症作用をもたらしているという解釈に繋がっている. ③も初めて知ったが、アセトアミノフェンがアラキドン酸に抱合されることで産生されたAM404 (N-arachidonoylphenolamine)が、post-synaptic membraneでカンナビノイドの再取り込みを阻害する らしい. 本文には
The central production of AM404 would also account for the antipyretic effect of paracetamol, known to be related to inhibition of prostaglandin production in the brain, whilst still without peripheral actions. と記載されている.
ということでアセトアミノフェンは痛みが出た部位、つまり末梢で鎮痛作用を発揮するのではなく、中枢でその効果を発揮する、らしいというのは覚えておいて良いかもしれない.
用量は以下の通り. ただしこれは鎮痛の場合の用量か? 周術期鎮痛目的のアセトアミノフェンで、体重が50kg以上であればアセリオ1パック(1000mg)を使いきることがほとんど.
本文中には初回容量2gでスタートし、以後6時間ごとに1g使用する例も紹介されていたが、その詳細なstudyは掲載されておらず.
痛みに対して頓用で外科医が処方することが多いこのアセトアミノフェンという薬. 患者の痛みの訴えや、その痛みの訴えに対して主治医がどう対処するかはまちまちである. 手術は侵襲的な処置なので、痛みが完全に消えるということはない. 多少の痛みは我慢してもらおう、と考える外科医とできる限り痛みをとろうとする外科医がいることは理解できるし、そういった医者の価値観・倫理観にまでエビデンスを持ち込むとちょっと息が詰まるような気がする. ただ、痛みの訴えに耳を傾けそのコントロールをするプロであるのは外科医ではなく麻酔科医である. 手術麻酔だけでなく、術後鎮痛の指示も本来は麻酔科医が出すべきではないか、と僕は思う. その基本的な処方がこのアセトアミノフェンになる.
術後鎮痛のためにアセトアミノフェンを活かすためには、アセトアミノフェンの効果発現時間や効果濃度はどの程度か?優れた鎮痛効果を発揮させるためにはどの程度血中濃度を安定化させるべきか? そのためには頓用処方よりも定期的な投与の方が鎮痛効果は高いのではないか?といったところが僕の疑問である. またオピオイドを減薬し、社会的負荷(依存の問題、管理の問題、社会法規の整備の問題)を抑えるためにもアセトアミノフェンという基本的な薬をもっと使っても良いのではないか、と思う. まあ、手術室や病院内だけでなく、社会的負荷や経済効果まで調べるとなると、やはりそれを評価するに足る経済モデルが必要. そこで、医療経済や公衆衛生の話が出てくる、というわけ.
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