【短編小説】魔法使いになりたかっただけ その7【連載】 最終回
魔法? ステッキ? 呪縛? 消える? 誰が?
私の脳内がクエスチョンマークで埋め尽くされる。
じっと彼女の書いたと思われるその文章を見つめる。これを書いたのは玲子だろうか? はたまた別人か。そもそも書かれていることは本当だろうか。
私には判断がつかない。
一つだけわかることは、彼女がひどく苦悩していたということだけだ。魔法なんてそんなものは置いておいても、苦しんでいる胸のうちが書かれている。そしてそれを助けることができたのは……
私しかいなかったのだろう。
隣にある魔法のステッキに目をやる。さっきまでは玲子の思い出の品にお思えていたものが、今やとてつもなく異様なものに変化していた。
彼女のノートによると、これは魔法のステッキらしい。
私はそのステッキを手にとってみた。どこからどう見てもただの玩具のステッキだ。これを振ると……魔法が使える?
不意にそのステッキを振ってみたい衝動に駆られた。玲子がそうしたように、魔法を使えると聞いて戯れに振ってみたくなった。
一体どんな魔法を彼女は使ったのだろうか。いやどうせ振っても何も起きないのだから、ここに書かれていることは全て嘘っぱちであることを証明しよう。
そんな好奇心にかられた。これで彼女の嘘を証明できるのなら……。
しかし、私はそのままステッキを段ボール箱に戻した。そしてダンボールを再び閉じた。
この話が本物だろうが偽物だろうが、魔法を使えようが使えまいがそんなことは関係ない。何が大事かはわかりきっている。
私は玲子の実家にこれを送ることにした。彼女の苦悩に気がついてあげられなかった私の、せめてもの償いだった。
ふと玄関先にあるカレンダーをみる。今まで頭から抜けていたが、今日は金曜日。明日は休みだ。
ちょうどいい。
私は自らの手でそのダンボールを玲子の実家に届けることに決めた。宅急便で送ろうかとも考えたが、彼女の言った、無駄が心を生むという言葉が気になっていた。
わざわざ持って行って届けるなんて、なんて無駄なことだろう。でも今の玲子ならどう感じるだろうか。
心のなかでそうつぶやきながら、私はダンボールに封をした。入っているのはステッキとノート十二冊だ。玲子が最後に私に向けて書いたノートは入れなかった。
あのノートを私以外の人間に読まれるのは、多分彼女の本意ではないだろうから。
すっかり梱包してしまうと、私は時刻表を調べた。今からならば最終電車に十分間に合う。
本当に無駄なことの気がしてきた。
でも私は、無駄なことするのが大好きなのだ。
今日は実家に泊まろう。電話しなくては。
手早く実家に帰る準備をすると、急いで家を飛び出した。ダンボールを小脇に抱えて、鞄を片手に夜の道を駅へ向かう。
通りに人は少なく、家々の明かりもまばらだ。
こんな夜遅くまでも電車が走っているのはなんと便利なことだろう。この程度の便利さで、私は満足だ。
空を見上げて星を仰いでみる。どこかで玲子も見ているのかな、と思いながら駅への歩みを進めるのだった。