金魚も時には空を飛ぶ3
館林教授は紙に書かれた数値を見て考えていた。数値は芳しくない。また教授の仮説は間違っていたのだ。教授の後ろには天狗のお面を被った屈強な男2人が腕組みして見張っている。どうしてこんなことになったのか。
…………
金沢のネズミに断られ机をドンと叩いた途端、研究室のドアが開き学長がにこやかに入って来た。教授の心臓はキュッと縮まった。
「舘林君、どうだね頑張ってるかい?」
「あ、はぁ…まぁ、まぁです」
「うん、そうかね。ここで話すのもなんだから学長室に来ないか。かわむらの甘納豆があるんだ」
何故、学長は私の好物を知っているのだ。館林教授は首をかしげながらもちょうど糖分を摂りたかったので学長の誘いに乗った。これがいけなかった。
学長室は歴代の学長の肖像画がずらりと並んでいて如何にも権威の象徴といった感じだった。部屋の真ん中に頑固おやじみたいな机とこれまた権威の象徴といった感じの革張りの椅子がドンと置いてある。学長はその椅子に腰掛けた。
「さて、舘林君、君のここ最近の研究は空飛ぶ金魚を作ることだったね」
「ええ。しかしながらですね実験は上手くいかず、頼みの文献も手に入らないので断念しようかと…」
「なんと!もったいないよ君。実はね、浮遊金魚の養殖は金沢市民の念願だよ。是非、続けてくれたまえ」
「いや、しかし、これ以上不毛の実権を続けても…」
「君の懸念は文献が見つからないということだろう?」
そう言うと学長は机の引き出しからボロボロの本を取り出し机に置いた。館林教授は目を疑った。『浮遊スル金魚ニ関スル研究』この本は玉川図書館の分館に唯一あるといわれ館林教授がどうしても読みたかった本だった。
「さあ、文献はここにある。これで浮遊金魚が作れるな」
「学長…本当にコレ、お借りしてもいいんですか?」
「もちろんだよ。研究室も新しく用意した。案内する者もじきにくる」
学長は手を甲高くパンパンと叩いた。すると「御用…御用…」と声が聞こえ狐のお面を被った屈強な男2人が教授の両腕をがしりと掴んだ。
「ちょ、ちょっと。なんですかコレ」
「案内だよ。大学の方は心配しなくていい。思う存分研究したまえ」
学長はニコリとほほ笑む。男たちは教授をズルズルと外へ引っ張っていく。「学長!!」教授は大声で学長を呼んだ。「学長、かわむらの甘納豆はどうなったんですかぁ!」
学長は「おお、そうだった」とポンと手を打ち、机から取り出し木箱を開け甘納豆を一粒つまみ館林教授の口に入れた。甘納豆の甘味が教授の口に広がった。
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