海の色を知っているか 2

その日は深夜2時に起きてコーヒーを淹れ水筒に注ぎ防寒着を着こみ車のエンジンを入れました。新潟までの100km近くを一息で行ってしまおうという普段は自宅周辺でしか生活していない私にとってはちょっとした冒険です。

私の愛車は私の性格を反映してか決して急がず新潟までの山道をノロノロと走ります。夜の山道は大変怖く暗闇が車のライトにまとわりついてきました。ハンドルを握る手が次第に汗ばんできます。私は「落ち着け落ち着け」と小さな声で繰り返し呪文のように呟いていると呪文の効果があったのか無事県境を越え新潟県に入りました。波野さんと待ち合わせしている場所はもうすぐです。それにしても夜が明けません。私は朝が訪れるのか心配になってきました。

約束の海岸に着くと波野さんがもうバケツを片手に持って待っていました。波野さんにお会いしたのは3年ほど前。今の仕事を先代から引き継いだ時に挨拶して以来です。波野さんはその時と変わりなく日焼けした肌にニッと笑うと白い歯がきらりと光っていました。ただ、3年前と比べると幾分か小さくなった気がします。

「やあ、本当に来たんだね」

「お久しぶりです。お元気そうですね」

波野さんは「そうでもないさ」とハニカミながら首を振り「さ、行こうか」と海岸を指差しました。海岸を見ると少しだけ明るくなり、白みつつある空に海の鳴き声が海風と共に運んできます。私は小さく感嘆の声を上げました。

「凄いだろう。もう少しすれば夜が明ける。そうすれば絵具が採れる」

「すごいですね」

私は海風に声がかき消されないように必死に感動を伝えました。空が刻々と明るくなり海が青く輝き始めました。



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